性別が判定できない状態で生まれ、幼い頃に手術を受けさせられる子どもたち

    性別が判定できない状態で生まれた子供は、今でも「矯正の」外科手術を受ける。その時に医師たちはしばしば、ドイツの医療ガイドラインに違反する。

    10年ほど前、南ドイツの病院。出産を終えて目覚めたニコール・Sは、助産師から、あなたは男の子の母親になった、と言われた。新米の父親と母親は、その子をヨーナスと名付けることにした。

    その翌日、上級医師がニコール・Sの夫に電話をかけてきて、訂正があると言った。「実は、お子さんはむしろ女の子に近いのです」とその医師は言った。

    ニコール・Sの病室にやってきた医師たちは、形成外科手術を勧めた。ニコール・SはBuzzFeed Newsの取材に対して、「医師たちは、何も心配いらないし、今後誰にも気づかれないと言いました」と語る。その時点では、自分も夫も子供のことが心配で、孤独を感じていたとニコール・Sは思い返す。回答期限は迫っていた。新生児の性別を戸籍に登録する必要があったからだ。


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    「ほとんど何も情報がなかったのです。どうするのが正しかったのでしょう?」とニコール・SはBuzzFeed Newsに対して語った。

    「こういうケースについて、きちんと訓練を受けた人材はいないという印象です」と夫は言った。

    彼らの子どもは現在11歳になった。ペニスと膣の両方を持って生まれた「インターセックス(Intersex:間性、半陰陽)」と呼ばれる状態のメリナは、両親や兄弟と話している時には「私は両方」と言う。メリナが生まれてからすぐ、医師は「true hermaphroditism(真性半陰陽)」と診断した。真性半陰陽とは米国の医学用語だが、今ではもう一般的には使われていない言葉だ。

    ニコール・Sやメリナという名前は仮名だ。娘を世間から守るために、母親は匿名にすることを希望した。「この話題はタブーなんです、今の時代でさえ」とニコール・Sは言う。

    (BuzzFeed Newsは、この問題に取り組んでいる複数の団体や個人に電話や電子メールで取材を申し込んだが、応じてくれたのはニコール・Sの家族だけだった。)

    米国最大の保健機関である国立衛生研究所(NIH)によると、新生児の約2000人に1人はインターセックスだという。別の試算ではその割合はもっと高く、世界人口の1.7%とされている。

    インターセックスの数を正確に出すことは難しい。なぜならインターセックスは、色の区別と同様に、ひとつのスペクトラムだからだ。ひとつの性別が終わり、もうひとつが始まるのがどこかを決めるのにあたって、どのような生物学的マーカーが使われているかによって結果は変わる。

    男性女性の区別が明確につかない場合、インターセックスと分類される。ペニスと膣の両方を持っている場合もあるし、あるいは、特定の性ホルモンが体内で確認されない場合もある。医師たちは何十年もの間、乳児の性器や性別を「より正常なもの」にするための手術やホルモン治療を施してきたが、これらの手法は多くの場合、管理されておらず、議論の的になっている。ドイツでは、こうした習慣は現在まで一部で続いている。

    人権や科学、さらに多様性に関わる問題に焦点を絞る弁護士たちは、こうした外科手術は身体に対して、(時には許しがたい)害を与えるものだと考えている。しかし、手術を行う医師を相手取った法的措置は、事実上一度も取られていない。

    ドイツ最大のインターセックスのための利益団体「Intersexuelle Menschen e.V.」は、影響を受けた家族を対象にした無料相談を国内各地で提供しているが、このサービスが利用されることは滅多にない。医師や助産師の多くは、この件に関する最新の医療ガイドラインを認識しておらず、その結果、毎年何十回、いや何百回にさえ達するかもしれない性器手術がインターセックスの子供に対して行われている。BuzzFeed Newsが調べたところによると、こうした手術の中には、ドイツの医療ガイドラインに明らかに違反するものがいくつかあった。しかし、この問題に関心を寄せる政治家は、ドイツにも世界にもほとんどいない。

    BuzzFeed Newsでは、医師や専門機関、インターセックスと診断された個人やその家族、弁護士に取材を行った。医学界は、かつては性分化疾患と呼ばれていた、性的発育の違いを持つ人々を治療したがるが、そう診断された人々は多くの場合、自身の状態を病気だとは思っていない。さらに、現在の医療界には、実際には何が「健全な性」であるかについて、さまざまな社会的・医学的見解が混在している。


    メリナが生まれた時、病院の医長はニコール・Sと夫に、子どもは女の子として育て、手術は先延ばしにするようアドバイスした。さらに、インターセックスの自助グループの住所も教えた。ニコール・Sと夫は、インターネットで調べて、ドイツ北部の都市リューベックにある特別クリニックの予約を取り、著名なオラフ・ヒオート医師の診察を受けた。インターセックスの患者を専門に診ている同医師は、「ホルモンセンター」を運営している。

    そのクリニックで受けた超音波検査により、メリナは体の一方に卵巣を、もう一方に睾丸を持っていて、子宮もあることがわかった。さらに重要なのは、彼女がいたって健康だったことだ。両親はメリナを女の子として育てると決め、ごく親しい友人や家族にだけは、彼女がインターセックスであることを打ち明けた。

    それでもニコール・Sは、自分たちの選択が正しかったのかどうか確信が持てないと言う。「メリナが望めばいつでも変更できると言うものの、彼女の性的役割をいま決めてしまっていいものかどうかわかりません」。出産から決断までの間にもっと時間の余裕があればよかった、とニコール・Sは話す。「当時は、私たちの娘をインターセックスとして育てることや、それをみんなにオープンに話すことが正しいとは思いませんでした。彼女が排斥されるのが、ただ怖かったのです」

    ニコール・Sは最終的に、メリナがインターセックスであることを幼稚園の先生や、のちには小学校の校長に話したが、どちらも、そうした話は聞いたことがないと言ったそうだ。

    「残念ながら、私たちの社会はまだ、(性別に関して)二者択一なのです」とニコール・Sは言う。

    彼女の夫も、「世の中は白と黒だけではないと学ぶには時間がかかります」と同意する。

    手術を選択した親たちを待ち受けるのは、その後に起こるたくさんの合併症のリストだ。そのリストには、痛みや、性的喜びや快感の減少、不妊、生涯にわたってのホルモン治療、炎症、うつ、自殺のリスク、家族関係の崩壊などが含まれる。インターセックスと診断され、子どもの頃に手術を受けて男の子か女の子に外科的に「転換」させられたものの、大人になったときに、自身の性的アイデンティティーと、外科手術で与えられた身体が一致しないケースも多い。

    マキシー・バウアーマイスターは、子供の頃に手術を受けなければよかったと思っている人間のひとりだ。マキシーは、ドイツがまだ東西に分断されていた頃に生まれた。マキシーはBuzzFeed Newsの取材で、「私に言わせれば、私は強制的に去勢されたのです」と語った。

    マキシーの母親クリスティアーネは、お腹にいるのは男の子だと思っていた。妊娠後期に超音波検査を受けたところ、医師から「ペニスがない」と言われた。クリスティアーネはその時は何とも思わずに、ペニスはそのうち発達してくるだろうと考えた。出産から3日後、クリスティアーネのベッドサイドに医師たちがやってきて、「お子さんの性別を決めることができません。ペニスがありません。この子は女の子として育てるのが最善でしょう」と言った。

    「どうしようもなくショックで、男の子を女の子にするなんてできない、と思いました。私は全能の神ではないのですから」とクリスティアーネはBuzzFeed Newsに話した。

    クリスティアーネは子どもの父親と話し合ったが、狼狽され、途方に暮れただけだった。1984年当時、「インターセックス」という言葉など誰も聞いたことがなかった。「子供を女の子にする」という医師の助言以外に、この問題に関する情報は何もなかった。

    両親は最初、手術はしないと決めていた。子供の性別は出生証明書に記載されなかった。ドイツ南部にある実家に行く時は、パスポートがなかったので、クリスティアーネは赤ん坊をバッグに隠し入れて飛行機に乗った。その後もクリスティアーネはさまざまな専門家を訪ねて回ったが、全員が同じことを言った。「女の子として生きることがこの子の幸せに通じる道だ」と。

    マキシーが2歳になった時、クリスティアーネは、子供の腹部から睾丸を取り除く手術をすることに同意した。その結果、子供は生涯不妊になったとクリスティアーネは語る(マキシーに生殖能力があったことを証明する医療記録はないが、インターセックスの子どもたちが不妊になる可能性を示すケースは多々ある)。それから、人工膣の役割をさせるために、外科的に穴を形成した。

    ほんの数十年前まで、インターセックスの子どもたちの膣には、「ブジー(消息子)」という医療器具が定期的に通され、人工的に作った穴が再び塞がってしまわないようにしていた。子供たちの「新しいヴァギナ」は、ロウソクのような形をした、いろいろな大きさの金属製の棒を使って、定期的に広げられていたのだ。非難の的となったこの手法が今も使われているという証拠はない。マキシーが生まれた頃には、もう使われていなかった。


    それ以降、事情は大きく変わった。地中海の島国マルタでは2015年、インターセックスの子どもたちに「正常化」の手術を施すことが禁止された。そうした手術を法で禁じた国はマルタが世界初であり、あとに続く国はまだない。

    しかし、ここ数年、新たな医療ガイドラインが、いくつか発表されている。2006年には医師たちが合同で声明を出したほか、ドイツでも2016年にガイドラインがつくられた

    2016年のガイドラインには、「いかなる医学的介入や心理学的介入を行っても、正確な意味において性の曖昧さを修正することはできない」と記されている。現在は、手術は低侵襲的であるべきで、回数も減らさなくてはならない。また、カリフォルニア州議会は2018年8月28日、インターセックスの子どもたちに対する「矯正」手術を非難する決議案を可決した

    ドイツ医師会はBuzzFeed Newsへのメールで、 「2016年に科学的医学分野の諸学会が公表したガイドラインが順守されているのか、遵守されているのだとしたらどの程度なのか、私たちは確信を持てません」と述べた。このガイドラインは法的拘束力を持たず、監視制度もないため、医師や助産師などの医療従事者がガイドラインを読んでいるかどうか、確認することはできないのだ。

    ベルリン・フンボルト大学が実施した調査結果からは、インターセックスの子どもたちに対する生殖器手術が、いまでも毎年1700件ほど行われていることが明らかになっている。インターセックスと診断された子どもたちに対する手術数は、2005年以来、ほとんど減っていない。

    もっとも有名なインターセックス活動家のひとりで、Intersexuelle Menschen e.V.のメンバーでもあるドイツのルシエ・ファイスは、電話インタビューでこう述べた。「ドイツでは、インターセックスの子どもたちに対する性器切除が日々行われているというのに、社会や政府はただ傍観しています。私には理解しがたいことです」

    ドイツ中西部エッセンにある泌尿器科診療所のスザンネ・クレーゲ所長は異なる見方をしている。BuzzFeed Newsの電話インタビューのなかで同氏は、「私たちが性器切除手術を行っていることで非難されていますが、私はそんなふうには考えません。たしかに20年、30年前はそんな感じでしたが、最近は超微細手術用具と拡大眼鏡を使っているので、男性と女性の双方に対し、非常にレベルの高い再建手術ができるようになっています」と述べた。

    インターセックスの子どもたちが手術を必要するタイミングについて、医師と活動家のあいだには合意がまだ存在しない。インターセックスとそうでない境界について、理解が異なっているためだ。

    医師たちがしばしば、矯正が必要だと主張するのは、子どもが明らかに男の子あるいは女の子のいずれかに成長していくのに、生殖器官が標準ではない、あるいは機能的に見て逸脱している場合だ。たとえば、ペニスの尿道口が先端以外の場所にあるケース。これは尿道下裂と呼ばれ、新生児男児の300人に1人に見られる。また、女児のクリトリスが異常に大きいケース。これは尿道の内科的な問題と関連づけられることがある。

    そうした医師たちの主張を、先天性副腎皮質過形成(CAH)を持つ親と患者のイニシアティブCAH Parents and Patients Initiativeは支持している。先天性副腎皮質過形成(CAH)という、きわめて一般的な症状を持つ人々を代表している団体で、早い時期での性器手術は、見た目のためというよりは、正しい行為であり必要な措置だと考えているのだ。同イニシアティブは2016年のガイドラインのなかで、グループミーティングに参加した若い女性たちは「手術の成果に大変満足している」と述べた。

    いっぽう、活動家のファイスは、「それらのケースは性器の切除です。クリトリス肥大と診断され、医師と親が子どもは女児だと主張すれば、少女の性器は切断されるのです」と話す。

    BuzzFeed Newsは、ドイツ連邦統計局に問い合わせを行った。その結果、2010年から2016年までに、9歳未満の子どもたちの少なくとも55人が、インターセックスだと診断されたにもかかわらず、クリトリスの手術を受けたことがわかっている。

    BuzzFeed Newsによる別の照会で、2005年から2016年のあいだにインターセックスの子どもたちに対して行われた外科的介入が1万1000件を超えていることも明らかになった。そのうちの500件以上がペニス再建手術だった。これはとりわけ大掛かりな介入であり、2005年以降、ガイドラインでは慎重な扱いが呼びかけられている。

    ドイツ医師会は2015年の声明で次のように述べた。「新生児ならびに乳児については、介入を行うことに対して有効な同意を得ることは不可能である」。また、未成年者の当事者は「将来的に自由に選択できる権利」を持つとし、医学的に必要でない限り、「不可逆的な外科手術」は行われるべきではないと記されていた。

    また同年には、欧州連合(EU)基本権機関が報告書で、EUに住むインターセックスの個人は人権を無視されていると結論づけた

    医師の多くは、新たな基準を順守しなくてはならないという圧力を受けた結果、インターセックスの問題に関してはマスコミを避けるようになった。ガイドラインを守っておらず処罰を恐れている人もいれば、異論の多いテーマについて広く明言するのに慎重な人もいる。

    冒頭で紹介した、インターセックスの患者を専門に診ているヒオート医師は、インターセックスに関連した医師たちの国際ネットワークDSDnetの議長も務めている。BuzzFeed Newsが何カ月にもわたって書面や電話で照会を繰り返し送ったにもかかわらず、ヒオート医師は口を開くのを渋った。同氏が勤めている病院の広報担当者は、2018年に入ってからBuzzFeed Newsの電話取材に応じ、ヒオート医師にはネットワークに所属する医師を世間から守るという役目があると述べた。彼は実際にこれまで、嫌な経験をしてきたのだという。

    BuzzFeed Newsが接触を試みた別の医師は、自身がインターセックスであり、これまで何度もこの件について記事を書いてきたにもかかわらず、取材を受けることも発言を取り上げられることも望まなかった。

    口を開いてくれた数少ない人のひとりが、上述した、エッセンにある泌尿器診療所のクレーゲ所長だった。「とにかく言いたいのは、子どもたちはあまりにも幼いうちに手術を受けさせられ、危害を加えられているということです。とはいえ、子どもたちを一貫性のない性別のままにしておけば害にならないのか、という点についての研究もありません」と同氏は述べる。

    事実、インターセックスの子どもたちが、ホルモン治療や外科治療を受けない場合にどう成長していくかについての研究はほとんど行われていない。しかし、2014年に実施された研究からは、ジェンダーアイデンティティについてどちらにも分類されず「ノンバイナリー」のまま成長したインターセックスの子どもたちが、かならずしも差別を受けるわけではないことが明らかになっている。

    争点は、「手術を行うのか」「いつ行うのか」ということだけではない。「決断を下せるのは誰か」という問題もある。「親が子どもの代理として決断を下せるかどうかについては疑問です」と話すのは、数十年にわたってインターセックス問題に取り組んできた弁護士のコンスタンツェ・プレットだ。

    あとになって、手術が不適切だったとか、失敗だったと考えられるようになったとしても、医師や病院を相手どって訴えを起こすケースはほぼない。その理由は、親自身が手術に同意しているため、誰が訴訟を起こすかという点を巡って問題が起きるためだ。子ども側には、十分な説明を受けていなかった事実を証明することは難しい。また、刑事訴訟の場合、手術を実施した当時の医学的常識ならびに尊重すべき一般的な社会的価値などが考慮される。さらに、子どもが病院や医師を訴えられる年齢に達したときには、時効が成立していることが多く、資料も残っていない。

    2017年11月にベルリンで開催されたシンポジウムで、医学歴史家のアネッテ・グリューネヴァルトは、2歳未満の子どもに対して医学的に不要な手術が頻繁に行われていると述べた。「そうした手術は、見た目の向上を目的とする手術の範囲に入り、美容手術にあたる」と同氏は主張した。さらに、こうした不要な手術は現在の法的環境においては処罰に値するが、法律が執行されていないとした。

    プレット弁護士はBuzzFeed Newsに対し、「身体的に危害が加えられたケース、重篤な危害となったケースがあります」と述べ、クリトリス縮小手術の例や、睾丸を取り除き生涯不妊となったマキシー・バウアーマイスターなどのケースを引き合いに出した。「2013年の新しい法律によれば、女性の性器切除などの行為は、法律違反どころか犯罪です」

    泌尿器科診療所のクレーゲ所長はBuzzFeed Newsに対し、「医師のあいだではここ数年で、そういった行為はすべきではないという意識が高くなっています」と述べた。「しかし、その意識が地方にくまなく行き渡っているかどうかはわかりません。(中略)それにもちろん、かつてのやり方が行われなくなったことを、単に認めたくない医師もいます。いまの論拠を信じたくないのです」。しかしクレーゲ所長は、具体的な名前を挙げようとはしなかった。

    冒頭で紹介した、11歳になるインターセックスの子どもを持つニコール・Sは、クレーゲ所長が言うような事情を、自助団体で実感したことがある。その団体に参加していた子どもの半分は、医学的に必要ないのに手術を受けさせられたのではないか、とニコール・Sは見ている。

    2009年、クリスティアーネ・フェリングは、医師を訴えて勝訴した、ドイツ初ならびに唯一のインターセックスとなった。そして、10万ユーロの損害賠償を勝ち取った(現在の為替レートでは約11万7000ドル)。クリスティアーネは、18歳だった1997年に、同意もしていなければ説明も受けていないのに、強制的に手術を受けさせられ、子宮と卵巣を摘出されたのだ。

    プレット弁護士は「あれは特別なケースでした」と言う。「最高の法律があるのに、それで守られるべき人々が、こうした法律を使えないなら、いったい何の意味があるのでしょうか?」

    2016年のガイドラインによると、インターセックスの子どもを持つドイツの家族はみな、手術を受ける前に、担当医以外にも相談できることになっている。とはいえ、そうした場を提供している組織はIntersexuelle Menschen e.V.だけで、ボランティアのアドバイザーはわずか33人しかいない。

    Intersexuelle Menschen e.V.は、全国で実施されている無料相談を利用しているのは、インターセックスの子どもを持つ家族のわずか15%だとみている。大多数は、もっぱら最初の医師のアドバイスしか受けていないのだ。それでは不十分だと同団体は話す。

    Intersexuelle Menschen e.V.でアドバイザーを務めるウルスラ・ローゼンは2018年6月、専門家を招いて開催されたハンブルグ市議会の公聴会で、「ハンブルグにある病院から相談依頼を受けたことは一度もありません」と発言した。これは驚くべきことだ。というのも、ハンブルグでは2010年から2015年のあいだに、インターセックスと診断が下された子どもたちに対し、手術が複数回行われているのだ。こうした事実は、ハンブルグ市議会が2017年7月に実施した大規模調査によって判明したものだ。

    ローゼンはBuzzFeed Newsに対し、「すべての病院が私たちの存在を知っているわけではありません。それに、私たちは長いあいだ、まともに受け止めてもらえてこなかったのです」と語った。

    ドイツ国内ではここ数年、インターセックス問題を巡って政治的な動きがあった。2013年以降、ドイツではパスポートに性別を記載する必要がなくなったのだ。マキシー・バウアーマイスターのパスポートには現在、性別欄に「X」と記載されている。以前は女性を意味する「F」と書かれていた。

    ところが、ドイツの連邦憲法裁判所は2017年、Xという表記は不適当との判断を下した。ドイツの一般的人格権(または個人情報などを保護する権利)に照らし合わせれば、インターセックスの人には実際的な記号を持つ権利があるとしたのだ。これにより、ドイツでは2018年の末までに、インターセックスの人のパスポートならびに出生証明書に記載するための特別な記号が初めて定められる予定だ。「Diverse(多様)」という表記になる可能性が最も高い。ドイツは、EU域内でそうした措置をとる最初の国になるだろう。

    ドイツのカタリーナ・バーレー司法大臣は、これまで幾度となく、インターセックスの子どもたちに対する手術を禁止する意向を表明してきた。とはいえいまのところ、法制化に向けた草案は作成されていない。

    バーレー大臣はBuzzFeed Newsとのインタビューで、「現在のような政治的な環境にあっても、きわめて多くの人が、インターセックスとは何かを理解していません」と述べた。それはかならずしも反感のせいではなく、単に無知なだけである場合が多いという。「しかし、個人的に無関係だったとしても、マイノリティー問題への取り組みは、立憲国ならびに民主主義国家としての強さを示すものです。誰もが自分のことしか考えなかったら、利己主義的な社会となるでしょう。私はそんなところで暮らしたくありません」

    ニコール・Sはこう話す。「私は単に、『うちの子はインターセックスです。男の子と女の子のどちらと一緒にスポーツを楽しみたいか、自由に選べるのよ』と言えたらいいのにと思うのです。それが私の夢です」

    ニコール・Sの子どもであるメリナは数年前、一緒に遊んでいた友だちに、自分はインターセックスなのだと打ち明けた。互いに洋服を脱いだあとに、その友だちはメリナに対し、どうして見た目が違うのかと尋ねてきた。何しろ、女の子にはペニスがないはずなのだから。

    メリナの父親はその友だちに、「ほんとうは、ペニスがある女の子もいるんだよ」と説明したという。それを聞いた友だちは、それは違うと答えた。そう新聞に書いてあったからだ、と。そこでメリナの父親は、「でも、自分の目で確かめられるじゃないか。目の前を見てごらん」と諭した。その友だちはメリナを見て、のちに自分の両親にこう尋ねたそうだ。「(ペニスって)買うことができるの?」と。彼女もひとつほしくなったのだ。


    この記事はドイツ語から翻訳・編集しました。翻訳:藤原聡美、遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan