ライブハウス 新宿JAM店長が語る「昔と違う、今どきのバンドマン」

    今年いっぱいで閉店する新宿JAMの店長、石塚氏に話を聞きました。

    モッズ・ガレージカルチャーの聖地として人気を博し、数々のアーティストが出演した新宿JAMが今年12月31日をもって閉店する。

    【閉店のお知らせ】 新宿JAMは2017年12月31日をもちまして閉店する事になりました。 1980年10月オープンから37年、関わってくださいました皆様には、心より感謝申し上げます。 詳細はコチラです。→https://t.co/8Lzu5Oz0XI

    スピッツ、エレファントカシマシ、氣志團など、今も第一線で活躍するアーティストがこのステージに立った。他にも、筋肉少年少女隊の初ライブ、The White Stripesの初来日など、逸話をあげれば切りがない。

    長きにわたり東京のインディーシーンを支えた同店。現店長 石塚明彦氏に閉店の理由や今どきのバンド事情を聞いた。


    ビルの取り壊しが決定

    ——まさか閉店とは、驚きました。

    石塚:反響がもの凄かった、万単位でリツイートされてたもんね。

    ——ビルが取り壊されるらしいですね。

    石塚:耐震工事とかせなあかんかったんだけど、してなかったのね。そんな感じでここ何年かきたんだけど、ビルオーナーが売りに出して、今年の3月くらいに買い手が決まって。そんで取り壊して新しいビルを建てると。

    石塚:東新宿って便利のいい場所なんですよ。オリンピックを考えると国立競技場も電車一本でいけるし、新しいビルを建てるにはいい場所なんだよね。


    小学校みたいなライブハウスだった

    ——そういえば、いつから店長やってるんですか?

    石塚:約12年前かな。39歳までやってたバンドが解散してフラフラしてた時、当時働いていたリンキィディンク(リハーサルスタジオ)の社長から「JAM行かへんか」って誘われて。転勤みたいな?

    ——それで突然店長?

    石塚:そうそう、だから最初は大変でしたね。もともとバンドマン上がりで、イベンターの感覚があんまりなかったから。

    普通ライブハウスで働く若い子って、ジャンルや世代感を合わせてイベントを作ってるでしょ?僕なんのビジョンもなく店長になってしまったから、とりあえずガーッとバンド入れとけーって(笑)

    ——確かにJAMのブッキングって雑多な印象です。

    石塚:極論、ハードコアと弾き語りが一緒のイベント出てても構わないと思ってて。カオスよね。そういうの嫌いな人はJAMから去って行ったけど、好きな人が意外といた。月曜から木曜はそういう人たちが音楽を楽しんで、その中から週末企画をする人が出てくる。

    JAMって小学校みたいなライブハウスだと思うんですよ。モッズもいればハードコアもいて、弾き語りもいる。でもここで色んな知り合いを作ることが、音楽生活のボトムになる可能性があると思ってて。

    震災ショックを支えた 売れないバンドマンたち

    ——これまでで思い出深いことって何ですか?

    石塚:色々あるけど、やっぱ震災ですね。3月って持ち込みの企画がものすごい多いのよ。インディーズバンドって1、2月はあんまり動かないから。

    企画ってお客が入るし仕事としては儲かるんだけど、それが震災でほぼパァ。その時は、あぁこれでJAM終わるかもなぁと思ったね。

    ——あの時期はどこもそうでしたね。

    石塚:そうよね。だからスタッフみんなで出演者リストの"あ行"から"わ行"まで電話して、「イベント飛んでしまったんだけど出てくれへん?」って頼みまくったら、草の根みたいなバンド達がこぞって出てくれて。あれは助かったー。

    その時に思ったんですよ、JAMってカオスでよかったなと。普段から何でもいいからぶっこめや!みたいなブッキングしてたから、逆に助かった。

    しかもそういう時に集まると、結束が強まるじゃないですか。それが後々のJAM FESに繋がったんだと思う。

    若手バンドマンに変化が?

    石塚:JAMの何が面白いかって、いい意味でしょうもないバンドがぎょうさんおるんすよ。“素の素材のままステージ立ってる”みたいな。それが寒すぎて逆におもろくて、いい味出してるんですよねー。

    未確認フェスティバルとかに出てる高校生の方がちゃんとしてる(笑) むしろちゃんとしてないと音楽をやらない時代が来てるね。

    ——ちゃんとしてるとは?

    石塚:今どき、わざわざバンドをやる人って昔とは違うアツさがあるのよ。バンドじゃなくても、他に遊びの選択肢って色々あるじゃない?そこであえてバンドを選ぶってアツさ。

    昔だったら、「俺ギター弾けないけど、文化祭で歌ったらおもろいやろ」みたいな人いたでしょ?最近そうじゃないのよ。ちゃんとした人がちゃんと音楽をやってる、そういう若手が増えてる。

    ——例えばどんな子がいるんですか?

    石塚:19歳くらいのある男の子がいるんだけど、JAMは滅茶苦茶だから好きだっていうのよ。話聞いてみたら、僕らの世代ってすげーたくさん音楽聞いてますって言うんだよね。なんか意外じゃない?

    レコードすり減るまで聞いたって話聞くけど、僕らの世代はそんなのないって。Youtubeで曲のサビまで聞いたらどんどん飛ばしながら、ジャンル関係なくめっちゃ聴くんだって。

    そういう人からすると、なまじジャンルを合わせてるブッキングより、JAMみたいなカオスな箱が面白いらしいんだよね。

    ——とにかく良い音楽に出会いたいと。

    石塚:そうそう、パンクがどうオルタナがどうとかじゃなくて、ただ格好いいものが好きらしく。だからその子の音楽は色んなジャンルが混ざってて良いんですよ。

    でも、そういう聴き方しながら結局どんな曲が好きなのって聞いたら、「やっぱりTHE BLUE HEARTSの『人にやさしく』ですね」って、結局そこかい!でもお前わかってるなぁって(笑)

    ——話変わるんですけど、JAMに霊が出るって聞いたことがあって。

    石塚:噂は聞くんだけど、僕全く霊感が無いのよ。でも、メチャメチャ楽しそうにダンシングしてるおばちゃんの霊を見たって話は聞いたことがありますよ。お前それ本当に見えてんの?って思うけど。

    でもまぁ悪霊みたいなのはいないんじゃない?じゃないとこんなとこで37年もできなかっただろうし。


    ——だいぶ長寿ですもんね。

    石塚:そうだね。他だと、渋谷ラママとかeggmanはJAMより長いかも。

    LOFTとかHead Powerは移転しながら続けてるけど、同じ場所でこれだけ続いてるっていうのはこのへんかな。歌舞伎町からちょっとズレてるのも良かったのかもしれませんね。

    本当に終わってしまうのかー

    ——閉店を発表してから何か変化ありました?

    石塚:写真を撮りに来たりとか、昔話をしに来る人がたまにいるんですよ。だから、自分が働き出すもっと前から愛されてたんだなと思いますよ。

    そろそろ小学校の校舎が潰れるから、一回くらい見ておこうかな、みたいな?昔の自分を思い出しに来てるのかなと思います。

    ——その気持ちわかります。

    石塚:最近なんか、 90年代にデキシード・ザ・エモンズの追っかけだった人が来て、思い出を語っていきましたよ。でもその頃の話をすると昔に戻るっていうか、ミーハーに戻るんです。面白いなぁ。

    ——そういう人これからも増えそうですね。ちなみに移転とかの可能性は?

    石塚:よく聞かれるんだけど、まだ未定ですね。でもJAMっていう何かを残したいなと思って、移転先を探してるところ。それは決まり次第発表します。