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猫と女の子がかわいい 浮世絵は江戸時代のオタクの心をこう掴んだ

昔の“読モ”はこんな感じ?

「浮世絵は江戸の人々が求めたエンターテイメントを凝縮したメディア」

現在開催中の企画展「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」は浮世絵の魅力をこう表現する。

幕末の人気絵師である歌川国芳と歌川国貞の作品を通じて、江戸の浮世絵師がファンの心をいかに掴んだのかを紹介している。

1. 役者絵は現代のブロマイド

歌川国貞「大当狂言ノ内 八百屋お七」五代目岩井半四郎 文化11, 12(1814, 15)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.15096 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国貞「大当狂言ノ内 八百屋お七」五代目岩井半四郎 文化11, 12(1814, 15)年

役者絵は現代のブロマイドだと言われることがある。「役者絵の国貞」と評された国貞は、人気役者の特徴を細やかにとらえた。

こちらの作品は、役者たちの頭髪の生え際に不自然な輪郭線が引かれている。神戸市立博物館・塚原氏の解説によれば、「かつらの着用をあえて表現したもので、舞台上の姿であることを強調している」。


2. アニメの特殊効果みたいな背景が人気

歌川国貞「御誂三段ぼかし 浮世伊之助」三代目岩井粂三郎、「葉哥乃新」初代河原崎権十郎、「野晒語助」四代目市川小團次、「夢乃市郎兵衛」五代目坂東彦三郎、「紅の甚三」二代目澤村訥升、「提婆乃仁三」初代中村福助 安政6(1859)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42194-9 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国貞「御誂三段ぼかし 浮世伊之助」三代目岩井粂三郎、「葉哥乃新」初代河原崎権十郎、「野晒語助」四代目市川小團次、「夢乃市郎兵衛」五代目坂東彦三郎、「紅の甚三」二代目澤村訥升、「提婆乃仁三」初代中村福助 安政6(1859)年

役者絵では、実際の舞台風景や屋外風景などではなく、背景一面に染織物をそのままあしらったような作品も数多く制作された。

アニメの主人公を強調する場面の特殊効果のように華やかな模様を施し、役者を彩ったという。

この作品は、三色のぼかしにそれぞれの役者の替紋が白抜きで表されたものである。

塚原氏の解説では「当時の歌舞伎ファンの中には、役者たちの紋所を集めては自慢する人もいたので、このようなマニアックな嗜好を刺激する狙いがあったのかもしれない」と述べられている。


3. マンガの原点は、似顔絵風の浮世絵

歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」(黄腰壁) 弘化5 (1848) 年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.27004 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」(黄腰壁) 弘化5 (1848) 年頃

芸能人の目立つ特徴だけをひろって描いたかのような似顔絵もあった。上の作品は役者絵の一種で、題名の「荷宝」は「似たから」にかけられた。

役者たちの姿や特徴はギリギリまで崩されており、ところどころに記された隠語めいた言葉が役者を特定するヒントとなる。

塚原氏は解説の中で「このマニアックな役者絵を出現させたのは、直前まで続いた天保改革による役者絵への規制であろう」と述べている。

当時はほとんど出版できなかったが、これが描かれた翌年は名前・紋所を記さない役者絵が解禁状態になったという。

「世間に満ちていた役者絵への渇望に応えながら、国芳は究極の戯画表現を編み出し、今日では日本のマンガの原点とも評されるに至っている」。


4. ファンにはたまらない、役者の“オフ”を描いた浮世絵

歌川国貞「踊形容楽屋之図 踊形容新開入之図」 安政3(1856)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.28578-80 & 11.28581-3 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国貞「踊形容楽屋之図 踊形容新開入之図」 安政3(1856)年

“オフ”が知りたくなるファンの気持ちは江戸時代も同じ。そんなファン心理もお見通しだった国貞は、浮世絵によってその様子を伝えた。

塚原氏の解説によると、国貞は歌舞伎業界と深い関係にあり、楽屋の様子を概観できる作品を数多く手がけてきたという。


5. 人気役者は創作に

歌川国芳「相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」 弘化元(1844)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国芳「相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」 弘化元(1844)年頃

国貞は、超常現象や霊能力など空想の登場人物を歌舞伎の舞台にも登場させ、人気役者に英雄を重ね合わせた。

強烈なインパクトを生み出す国芳と国貞の絵を見た人々は、伝説の英雄たちが物怪と対決するドラマにどんな感想を持ったのだろうか。

東京国立博物館・松嶋氏は「(物語の)原作ではたくさんの等身大の骸骨が現れるのだが、国芳は巨大なバケモノに変更することで見るものの度肝を抜いた」と解説している。


6. プロデューサーは浮世絵を発注したがる

歌川国芳「江戸ノ花 木葉渡 早竹虎吉」 安政4(1857)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.21921 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国芳「江戸ノ花 木葉渡 早竹虎吉」 安政4(1857)年

大評判のイベントや出来事は、すぐさまニュースとなり、ただちに浮世絵に取り上げられた。

プロデューサーである版元は旬なニュースを題材として発注し、国芳が趣向を凝らした絵でさらに話題を広げたという。


7. 江戸の読モはこんな感じ?

歌川国貞「当世三十弐相 よくうれ相」 文政4, 5(1821, 22)年頃
Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.489 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国貞「当世三十弐相 よくうれ相」 文政4, 5(1821, 22)年頃

浮世絵の華は人気俳優の役者絵や遊女を描く美人画だが、禁令により許されていなかった。

そこで人気となったのが、町屋(素人)の娘たちを題材にした作品だ。持ち物や装飾品のすべてがかわいらしい。

名古屋ボストン美術館・鏡味氏の解説によれば、「江戸の女性が彼らの絵をファッション・カタログとして見ていたとしても不思議ではない」という。


8. ガイドブックには美人を出して目を引く

歌川国芳「初雪の戯遊」 弘化4-嘉永5(1847-52)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.16077-9 Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

歌川国芳「初雪の戯遊」 弘化4-嘉永5(1847-52)年

土日の休みもない江戸時代、社寺のお祭りや縁日は人々にとってなくてはならないイベントだった。

絵に登場する女性たちは、まるで祭礼の現場でロケを行ったグラビア雑誌のモデルのようだ。ご当地の名物を楽しむ男性たちも注目しており、国芳の描く女性は男性たちの目をひいてその盛り場に足を向けさせた。

また、国芳の作品には猫が描かれることも多く、この作品では人々が作る雪像に猫のモチーフが採用されている。

神戸市立博物館・勝盛氏によれば「本図は国芳らしく猫の巨大な雪像で、同時期の源氏絵『月雪花之内』でもさりげなく小さな猫の雪像を置いている」とのこと。

美人と猫が話題を呼ぶのは、江戸も平成も変わりない。


企画展はBunkamura ザ・ミュージアムにて6月5日まで開催されています。

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