おじさんが若者にウケ続けるには? テレ東「ゴッドタン」Pが続けていること

    「昔の方がいい」はまったくの誤解。

    流行り廃りの激しいお笑いの世界で、12年ものあいだ、視聴者を引き寄せ続ける番組がある。テレビ東京「ゴッドタン」だ。

    番組内の企画はどれも斬新で、2作の映画となってヒットした。昨年は武道館ライブまで達成してしまった。

    深夜の放送で視聴率がとびきりいいわけではない。しかし、深夜帯のメインターゲットである若者や、コアなテレビファンが「大好き」と言ってはばからない、数少ない番組だ。特に、YouTube配信の視聴者は、ほぼ10〜20代で構成されているという。

    制作チームを率いるのは、テレビ東京の佐久間宣行プロデューサー、41歳。どう新しい視聴者を獲得し、第一線に立ち続けていられるのか。秘密を探った。

    「ノスタルジーの発想」で作ることが怖い

    ――12年間ずっと、若い人に支持されているという印象です。どうしてそんなことができるんですか。

    発想が古くならないように、常に新しい文化を吸収するようにしています。この仕事は忙しくて、意識しないと学生時代に好きだったものだけで番組を作ってしまうんです。

    僕らの年代だと、ADからディレクターになってようやく「番組を作るぞ!」って時にフリッパーズ・ギターばかりBGMに使うとか(笑)。今を知らないから、ノスタルジーの発想で作ってしまう。遭遇するたびに「ヤバいな」と思います。

    特にこの世界は怖い。これは若林くん(オードリー)が言ってたんですけど、昔ドラゴンボールで例えたら客席がまったくウケなくって。で、その後澤部(ハライチ)がワンピースで例えたらドカンとウケたことがあるそうなんです。インプットがいかに大事であるかを表していると思います。

    「成功した企画」は封印する

    ――結果を出し続けるには、どんな企画を立てればいいんでしょう?

    ゴッドタンには映画化した「キス我慢選手権」や、武道館ライブを行った「マジ歌選手権」など人気企画がたくさんあります。正直、これらを繰り返しやっていればもっと視聴率はいい(笑)。

    でも、番組ってどこか「驚き」がないと飽きられてしまうんです。同じことを繰り返すと、見なくても安心できる番組になってしまう。

    放送予定のスケジュールには「新企画」とか「ちょっと変わったヤツ」とか先に書いておいて、スタッフに新しいネタを持って来てもらうようにしています。キス我慢も3年くらい封印中です。

    「テレビを見る時間」までカレンダーで管理

    ――企画の使い回しもしない、となるとアイディアの元はどこから出てくるんですか?

    昨日も映画の試写2本と、深夜に映画を1本見に行きました。僕、Googleカレンダーに2ヶ月先ぐらいまで「テレビを見る時間」とか入れてるんです。本を読むのは「B」って書いて予定を抑えたり、映画の公開時期も全部調べて予定に入れてます。予定がかぶると、調整くんみたいなやつでふるいにかけて、いける日を決めて(笑)。

    そこまで管理してでも、インプットを続けたいんです。ドラマも1週目は全部撮って、土日に全部まとめて見ます。本当に苦行で、朝までかかったりするんですけど(笑)。移動中はネットドラマを見ています。

    「昔の方がいい」は違う。いまが一番面白い

    ――どうしてそんなにストイックでいられるのでしょうか。

    単純に、"いま"が一番面白いものが生まれ続けていると思っているからです。僕が学生の時よりもドラマは面白くなっています。

    特に今は「ゲーム・オブ・スローンズ」。凄いですよ、1話に制作費が6億円かかっていたりするんです。こうしてNetflixやHuluの参入でイノベーションが起きてて、どんどん面白くなっているのに、自分のライフパターンだけで、それを諦めるのはもったいない。今年は韓国映画だけでも、度肝を抜かれる作品が3つもありました。

    「昔の方がいい」という人もいますけど、まったくの誤解です。大味の映画が増えて、昔のミニシアターのような映画が少なくなってる……というのは本当にそうだと思います。でも、そのクリエイターは全部ネットドラマに流れているし、アニメを例にしても、Netflixが日本のクリエイターに払うお金が何倍にも増えて、それらが即海外展開されるようになりますよね。

    こういう知識がないまま、今まで通りアニメやドラマのビジネスをやろうとしても絶対うまくいかないと思うんですよ。きちんと吸収しながら、じゃあどんなものだったら僕らは生き延びれて、面白いものを作っていけるかというのと……。単純にこれだけ面白いものがたくさんあるのに、見ないのは損だという両方の気持ちで見ています。

    先日見た『鳥の名前』スズナリ。すごく良かった。好きになれないけど嫌いにはなれない。自分と重なる瞬間もある。そんなダメな登場人物たちの言葉や行動を笑って見ていると、いつしか、まあ色々あるけどとにかく生きててほしいって思った。傑作だと思います。

    Twitterでも素直な「ファン」としてあらゆる作品の感想をつぶやいている。

    時代に潰されないのは「ユーザー目線」を持っているから

    ――作り手であり、最先端の受け手でもあるというのは珍しい気がします。

    僕の番組の作り方は、僕が高みの上からどうぞって言ってる番組じゃなくて。いろんなポップカルチャーを見て感じたものを、混ぜて炊き込みご飯みたいにして出すものです。

    クリエイターっぽく「自分の中から出るものを待つ」っていうのもいいんですけど、受け手と作り手が一心同体で、ユーザー目線が常にある方が今はいい気がしています。

    「お笑い番組を復活させなきゃ」と言う使命感はあまりありません。今回ゴールデンで3時間半、ゴッドタンをやるのは思い出作りという気持ちで引き受けました(笑)。でも少なくなってる今、「終われないな」という気持ちはある。

    もし本気でゴールデンで勝負するなら、今までのテレビの考え方ではダメだと思っています。今後は、ネット配信や収益構造など「常識」を一つずつ見直して、まったく新しいスキームで番組をやってみたいです。

    テレビは偉そうで、空気読めてない

    ――ところでネット配信についてはどう思いますか?

    僕は接触できる窓口は多ければ多いほどいいと思うタイプなので、どんどんやりたいし、依頼も断りません。

    あと本当に、TVerの仕様は変えて欲しい。「見逃しで見て欲しい」ってこっちから言うくせに、頭にCM2つ入るのはユーザーインターフェースが悪すぎる。企業CMならまだしも、番宣15秒とか。すごく偉そうな仕様だし、そういう姿勢がテレビのすべてを物語っていると思います。

    いま世の中がこれだけ「偉そうなもの」に対して厳しい見方をするのに、その空気を感じずに前時代の覇者だったテレビが偉そうにしてるのは、本当に空気読めてないと感じています。