今回の西日本を中心とする豪雨により被災された方に、心よりお見舞い申し上げます。私も今、薬局から50メートルほど先にある川が溢れるかどうか、近所の人たちと心配しながら見つめているところです。
大変な時に、いつも飲んでいる薬が飲めなくなったらますます大変なことになります。医薬品の管理等について、薬剤師の立場からお知らせします。

避難勧告に従って、行政が指定する避難所に行かれる際、時間の余裕があれば
- 服用中の医薬品(できれば1週間分、それに満たない場合でも医療班・薬剤師班より供給が可能)
- お薬手帳(なければ薬剤情報提供文書‐お薬の説明書)
を持参してください。冷所保存を要する医薬品の多くは、数日~1週間程度は常温での保管でも問題はありません(未開封のインスリン製剤の多くは、直射日光を避け数週間は使用可能です)。
保冷剤・保冷バッグを用いる場合には、保冷剤と医薬品が接触し、凍ることのないよう注意してください。
各自治体では、地域薬剤師会や医療機関、医薬品卸業者と提携し、救援物資が供給されるまで(概ね72時間分)の医薬品を調達できる体制を整備しています。
医薬品は避難所へ速やかに供給され、医療救護班・薬剤師班を通じて、皆さんにお渡しすることができます。この際、お薬手帳がないなど情報が不足する状況では、
- 同成分の医薬品を調べることができず、供給が遅れる
- 体調や病状が変化した際に、適切な診断のための判断材料が不足する
- 避難所における、適切な生活上のアドバイスが行えない
など、対応が遅れるおそれが生じます。

避難所等においては、まずは普段服用されている医薬品が途絶えないことを最優先に医療班・薬剤師班が活動します。次いで、患者さんの病状・服薬状況に応じた療養指導を行うことが可能です。
エコノミークラス症候群(血栓塞栓症)について
避難所での生活、車中泊では、エコノミークラス症候群が発生するおそれがあります。長時間にわたって水分を十分取らずに同じ姿勢でいると血の流れが悪くなり、血の塊(血栓)ができることがあります。最悪の場合、血流で移動した血栓が肺の血管を詰まらせ、死に至ることもあるのです。
水分摂取、食事を抜かない、手足を動かすなどの予防を心掛けてください。
水分摂取の際には、アルコールやカフェインを含まないものが勧められます。緑茶・ウーロン茶・コーヒー・紅茶などはカフェインを含むことが多く、麦茶はカフェインを含みません。
血栓塞栓症になりやすい状況(危険因子)は、
- 脱水
- 肥満
- ホルモン補充療法
- 下肢静脈瘤
- 寝たきり状態が長期
- 不動状態
- 喫煙者
- 妊娠および分娩後
- 過去3か月以内の手術歴
といったものがあります。高齢の方、動脈硬化性疾患を持つ方などもご注意ください。
血圧の薬(利尿薬)や、ぜんそくなどに使うテオフィリン製剤(テオドールなど)、SGLT2阻害薬と呼ばれる糖尿病治療薬や女性ホルモン製剤、一部の骨粗しょう症治療薬など、医薬品によりリスクが高くなります。医療班にご相談ください。
避難所・災害に伴う感染の予防について
避難所での集団生活に伴い、感染症の危険が生じます。
食事前、トイレの後などの手洗い・手指の消毒、咳エチケットといった予防対策にご協力いただくと共に、医療班・行政担当者からの説明に従ってください。
また土砂やガレキを片付ける際にできた傷から、破傷風菌に感染するおそれがあります。丈夫な手袋・長靴でケガを予防してください。ケガをした際には傷口をよく洗い、傷口に木の枝や土が残らないようにしてください。破傷風は致命率の高い(約30%)感染症です。

破傷風では、数日から3週間程度の潜伏期間の後、口が開けづらい、食べ物が飲み込みにくい、首筋が張る、顎が疲れるといった症状から発症するとされます。
気付かないような小さな傷から発症することもあるため、万が一、そういった症状があった場合には速やかに医療機関を受診してください。
持病のある方は、適切な療養のための情報を
持病のある方は、避難生活を送るうえで必要な情報を得てください。
各避難所を巡回する医療班から助言が得られる他、インターネットを利用できる場合には、各学会・協会(高血圧学会、糖尿病協会など)からの情報について参照してください。
日本高血圧学会 自然災害で被災された皆様へ各種ガイドライン、Q and A
【高橋 秀和(たかはし ひでかず)】薬剤師
1997年、神戸学院大学卒。病院、薬局、厚生労働省勤務を経て2006年より現職。医療・薬事・医薬品利用についてメディア等で記事の監修や執筆をしている。ツイッターはこちら(@chihayaflu)