澤田智洋さん、職業はコピーライター。広告会社に籍を置きながら「広告をつくらない広告マン」として、福祉やスポーツの分野で主に活躍しています。
20代の頃は連日ガムシャラに働いていたという澤田さん。当時、自分の仕事のはかなさ、虚しさを「シャボン玉を無限につくり続けているようなもの」と感じていたと振り返ります。
そんな澤田さんが、今も広告会社にとどまりつづける理由とは?
著書『マイノリティデザイン』で語る「弱さを生かす」「弱さを伸びしろに」という考え方との意外な共通点を聞きました。
広告の作り方、忘れちゃった
――「広告をつくらない広告マン」を掲げて久しいですが、そう決めた頃は社内でどんな扱いだったんでしょう?
シンプルに「なんだ、こいつ」って感じですよね。一般的に想像する企業広告ではなく、行政や自治体とじっくり長期的に向き合う、伴走していくような仕事は今もしているので、一切何もしてこなかったわけではないですが。
今もたまにCMとかグラフィックみたいな、いわゆる広告仕事の打診もあるんですけど「作り方忘れちゃったんで…」って断っています(笑)
――そんな返事が許されるんですね(笑)
でも、その「何やってんだ」という空気もずいぶん変わってきたと思います。広告会社で働いている人たち自身が、仕事に迷いや疑いを持っているというか。
みんながなんとなく「このままでいいのかな」という感覚は強まっている気がします。仕事の回し方、個人の働き方、という点でもそうですが、もっと広い意味でも。
例えば、これまでは新製品の発表会の度に大きい会場で装飾物をたくさん作って派手にやるのが当たり前でしたが、「1日でゴミになるのはどうなの?」なんて話が出るようになってきました。まっとうな疑問ですよね。
自分が消費されていく虚しさ
――書籍の中で「広告の仕事はシャボン玉を無限につくり続けているようなもの」という記述が印象的でした。広告クリエイターに限らず、今、自分の仕事をこう感じている人はたくさんいそうですよね。
(テレビCMを)どんなに苦労して考えて、徹夜続きでなんとか完成させたとしても、オンエアが終わればすべてリセットされて、また次のCMの制作が始まります。たとえるなら、まるでシャボン玉を無限につくり続けているようなもの。「パチン!」と弾けては消える、はかないものです。
膨大な時間を広告制作に割いていることに対して、なにか手触り感がなかったんです。同じようなはかなさを、あるいはむなしさを抱えながら働いている人が、今、日本のいろんな職場にいたりするのかな、なんて。
それをズバッとついたのが『ブルシット・ジョブ』という本ですよね。あの本でも無駄な仕事の筆頭として、まさに広告とコンサルが筆頭に挙げられていましたけど……。
一人の働き手としてはこのままでいいのか迷っているけど、目先の仕事はどんどん振ってくるし、とりあえず波に乗り続けるしかない。
でも、10年後、20年後幸せなのかな? って。そういう閉塞感、納得感の薄さを抱えている人は確実に増えているんじゃないでしょうか。
僕も20代の頃は前近代的な働き方でガムシャラにやってきたわけですけど、そもそも広告の仕事がすごく好きだったわけではないんですよね。
――その言葉も意外です。広告の仕事って、情熱ありきなのかなと。
自分という人間が消費されていく、ファーストフードのポテトとしてパクパク食べられて消費されるような虚しさがずっとあったんですよね。自分という「ポテト」の代わりはいくらでもいるわけで……。
大企業=マイノリティ?
――それでもなお、広告会社に所属し続けている理由はあるんでしょうか。
僕、弱いものとか、衰退していくものに共感しがちなんですよね。そういう意味では、業種を問わず大企業って存在が実はけっこうヤバい、マイノリティになりつつある、と思っていて。
――それはどういう意味合いで?
体が大きいからこそ環境の変化に適応できていない、このままだと身動きが取れなくなって絶滅しちゃう可能性がある――昔の恐竜と一緒です。
それこそ「無駄な仕事」なんて言われちゃっているわけですし、社会や株主から厳しい目線に晒されていますし。ですが、大企業って労働市場としては大事な受け皿ですし、バタバタと潰れたら社会全体が大変なことになりますよね。
反省して、変わるべきところは変えながら、「大企業という嫌われ者、マイノリティ」をどう生かせるか。「弱さ」をいかに力にするか――それが今でも広告会社に所属し続けている理由、自分の仕事の裏テーマだと思っています。
「僕、運動音痴なんです」と言ってみたら
――「マイノリティデザイン」という考え方は弱さを生かす、弱さを伸びしろとみなす、という考え方が起点になっています。あえて弱さを直視するのは勇気がいる面もあると思うのですが、極度の運動音痴だった過去を見つめて「ゆるスポーツ」にたどりつくまでにはそんな葛藤はなかったんでしょうか。
前提として、僕の「とにかく運動が苦手」という「弱さ」を障害者の方のそれを並列にしていいのかというのはあるんですけど、彼らの姿勢に学ぶところはすごく多かったです。
僕が会ってきた障害のある方の多くは、自分の弱さを開示するのが上手いんですよね。「この前、こんなことがあって困ったんだよね〜」「どうにかならないのかな?」なんて悩みを明かしてくれることで、周囲が課題に気づけて、問題が少しずつ改善される場をたくさん見てきました。
そうか、自分ができないこと、困っていることを開示することって意味があるのかもしれないな、と考え始めて。
思えば僕は――というかたぶん、多くの健常者は、自分の「強み」ばかり意識して働いてきた気がするんですよね。それって自分を構成する半分しか活用してないってことでもある。
――就活でも、基本は「強み」の分析ですもんね。できないことは努力して人並みにしていくかない。
そもそも就活くらいしか、自分のことをじっくり見つめ直すこともないですしね。
じゃあ自分が胸を張って(笑)言える弱点は何かと考えてみると、スポーツだったんです。サッカーもバスケもバレーボールも、体育の時間が嫌で嫌でしょうがなかった。クラスメイトの足を引っ張るだけの、かわいそうな目で見られる時間が憂鬱だった。
いい記憶ではないので忘れたいと思いつつ、ずっと魚の小骨のように引っかかっていたんですよね。思い切って「運動が本当に苦手で……」と告白してみたら、「私も!」「わかります!」って人がどんどん集まってきたんですよ。
それで身を持って知ったんですけど、弱さでつながる仲間ってめちゃくちゃ強い絆ができるんです(笑)
同じように傷ついた記憶があるから、年齢性別関係なく「同志だ!」と思える。「スポーツごとにボールの形状違うのがまずおかしくない!? 大きいのも小さいのも無理だよ!」「わかるわ〜!」みたいな会話でものすごく盛り上がれるんです。
じゃあ自分たちが気負いなくできるスポーツを作ろう!ってなったら、実際に作って、みんなでできる。運動音痴な自分でもできるよう設計したら、結果的に大人も子どもも障害者もお年寄りも楽しめるものになったんですよ。
僕、ゆるスポーツでなら木村拓哉さんに勝ったことあるんです。
――運動音痴でもキムタクに勝てる!
革命ですよね(笑) それは極端な例ですけど、参加者から「ゆるスポーツを通してスポーツが好きになりました」って声がたくさん届くんですよね。本当にいっぱい!
これまで苦手意識が強かった人こそ、「久しぶりに体を動かしてみたら、思ったより楽しいな」と思えると自信になるんです。
僕自身、運動するのがおもしろくなっちゃって、最近は毎月100キロくらいランニングするくらいになりました。
――完全に「スポーツ好き」の側ですね!
本当ですよ! まさかこんなことになるとは。
もちろんマイノリティ性、苦手なことって深刻度がまちまちなので、すごく辛いこと、トラウマになるほどしんどいことには無理に触れなくてよいと思います。
なんだろう……「レーズンが食べられない」とか「家具を組み立てるのが苦手」とか。それくらいでいいと思う。これをなんとかプラスにできないか? だれかと共感しあえないか? とオセロをひっくり返すみたいに考えていくと楽しいですよ。
「やりたいことなんてない」大多数の人へ
――澤田さんは今、自分の問題意識と仕事をうまく接続できていると思うのですが、世の中には「やりたいことなんてない」「仕事へのモチベーションがない」という人もたくさんいる……というか、むしろ多数派かもしれません。「こういう働き方、羨ましいけど自分には無理そう」という人には何か伝えたいことはありますか?
実は僕も、やりたいことがあるわけじゃないんですよね。夢ってありますか? って聞かれてもないし。
夢はないけど、希望はあります。
――夢はないけど、希望はある。
夢って、不確実性が高いわりに、口に出した瞬間にそれに縛られる感じがしてちょっと嫌なんですよね。「プロ野球選手になりたい」って言ったらそれ以外の道が見えなくなる。本当は総理大臣になる未来だってあったかもしれないじゃないですか。
でも今、「去年の世界よりも今年の方が好きだな」と思えている実感はあって。自分がアクションを起こした分だけ、社会がフィードバックをくれる手応え。
何かひとつの夢を掲げてそこに進むよりは、「なんか、気づいたらちょっと世界がいい感じになっているな」「未来も今よりいい気がするな」という希望を常に持っていたいなと思っています。
世の中では「好きなことを仕事にする」ことが礼賛されがちですけど、「弱さを仕事にする」も面白いよ、しっくりくるよ、というのは伝えたいですね。
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