「破門になってよかった」!? プロの和楽器奏者が今そう思うワケ

    「学生時代は和楽器をやっているのは恥ずかしい……とまではいかないけど、なんとなく隠していました。あまり人に言いたくなかった」

    2014年、ボーカロイド楽曲のカバーアルバム「ボカロ三昧」でデビューした和楽器バンド。再現不可能に思える超高速の楽曲を、実際の和楽器で華麗に演奏する姿は大きな話題を呼んだ。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    「千本桜」MV。激しい津軽三味線から入るのは原曲と違ったバンドサウンドならでは

    今や代表曲「千本桜」はYouTubeで1億3000万再生を突破。老若男女世代を問わずファンが多く、海外からも注目を集める存在だ。

    和太鼓、箏、津軽三味線、剣詩舞……多くの人たちにとっては縁遠い、伝統的な世界に幼い頃から親しんできた和楽器バンドのメンバーたち。

    今でこそ和楽器、そして日本の伝統文化は世界からも脚光を浴びているが、意外にも「学生時代は、恥ずかしくて友達には隠していた」という。

    それまで「古臭い」だった和楽器へのイメージを変えてくれたのは、まさにボカロとそのファンだった――。

    メンバーが語る、ボカロカルチャーが和楽器の世界に与えた影響とは?

    提供写真

    蜷川べに(津軽三味線)、いぶくろ聖志(箏)、鈴華ゆう子(ボーカル)、黒流(和太鼓)

    ボカロが変えてくれた「和」の世界

    ――新アルバム「TOKYO SINGING」初回限定ブック盤収録のインタビューで、黒流さんが2010年頃のボーカロイドの和ブームにびっくりしたと書いてあって興味深かったです。

    黒流(和太鼓):びっくりしましたね〜、あの時は。自分は幼い頃から和太鼓をやってきましたが、学生時代は和楽器をやっているのは恥ずかしい……とまではいかないけど、なんとなく隠していましたから。あまり人に言いたくなかった。

    いぶくろ(箏):僕もそうでした。古臭いみたいなイメージが強かったから。

    和楽器バンド / Via sp.universal-music.co.jp

    10月14日発売の新アルバム「TOKYO SINGING」

    黒流:そうだったよね。そのイメージを覆したくて、「和太鼓で新しいものを作りたい!」ともがいてきたけど、いつのまにかニコニコ動画、ボーカロイドの世界では和の旋律そのものがカッコいいものになっていて。時代が変わっている! と衝撃でした。

    しかも、その受け入れられ方もうれしかったんですよ。伝統や権威ありきではなく、音色として自然に和を取り入れていて、評価されていた。めちゃくちゃいい流れじゃん! と思いました。

    なんで和風ブームだった?

    ――「千本桜」「吉原ラメント」…和風の名曲は多数思い浮かびますが、あの頃、なんで和モノが一大ブームだったんでしょう?

    鈴華(ボーカル):アニメやゲームなどのサブカルチャーに並んで、日本発の新しいカルチャーとしてボーカロイドが注目されていましたよね。

    だからこそ、新旧融合のようなイメージで伝統文化を取り入れていこうというのは自然な流れだった気がします。着物を着た初音ミクのイラストなども早い段階からありましたし。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    「吉原ラメント」の作曲者・亜沙は和楽器バンドのベースとして活動中

    黒流:音楽的には、打ち込みだったのも大きかったのかな。これまで和楽器奏者に「こういうのどうですか?」と普通の邦楽と離れたやり方を提案しても「これはちょっと難しいかもな」って言われて終わりだったと思うから。

    :確かにね。「常識的には……」なんて先入観もないし、「ここで箏の音を入れたい!」「尺八の音を入れたい!」って制約抜きで自由に楽曲を作れるもんね。

    ――なるほど。和楽器奏者ってそうそう身近にいないですしね。バンドメンバー、ギター募集! みたいにできるのかわからないし……。

    鈴華:それもそうですよね。邦楽に詳しくないボカロPの皆さんが、たった一人で想像力を広げて作ってくれたからこそ、発展したところはあると思います。

    黒流:打ち込みなら転調もどんどんできるし、テンポもどこまでも速くできるし、自由自在ですもんね。

    だからこそ、僕ら奏者としては実際には“ありえない”音を、本物の和楽器で再現したい欲が生まれたんですよねえ。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    「吉原ラメント」ライブ動画

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    最新アルバム収録「月下美人」では映画のような映像で荘厳な和の世界を表現

    「破門されてよかった」と語る理由

    ――和楽器バンドやボーカロイドブームを経て、和楽器や和の文化に興味を持った若い世代も多そうです。

    鈴華:私が身につけてきた詩吟(漢詩や和歌を独特の節をつけて詠む)と剣詩舞(吟詠に合わせて和服で舞う)の道場の方には子どもの入門希望者が増えたとよく聞きますね。

    昔は詩吟や剣詩舞を習う子どもはすごく少なくて、誰も知らないから周りに言うのも気が引けるくらいだったので、隔世の感が……。少しでも貢献できていたらうれしいなと思います。

    KEIKO TANABE

    いぶくろ:和太鼓部や箏曲部など、和楽器の部活がある学校も増えているみたいで、大会も盛り上がっていますよ。

    黒流:若い演奏者は増えている一方、続けていくのは大変なんですよね。仕事としてやっていく道がまだまだ細いし、どうしても伝統的な世界は新しいことをしにくい……閉鎖的、画一的になりがちなところもあって

    ――いぶくろさんは、箏の先生に「破門」された過去があるとか……。

    いぶくろ:まさにその「新しいことをしにくい」がゆえですね。僕は伝統的な箏の世界でやりたいスタイルが見通せなかったんです。他の楽器ともどんどんコラボして、できる音楽をもっと広げていきたかった

    伝統芸能の世界は「習ったことを継承する」のが基本なのですが、師弟関係って本来は師匠を弟子が超えていくものじゃないですか。

    なので、今こんな風に枠を超えていろんなことに挑戦できている自分としては、破門にしていただいてよかったところもあって。……ちょっと偉そうで言い方が難しいんですが(笑)

    蜷川:わかるよ!(笑)育ててくれた世界への感謝はあるんだよね。

    伝統芸能のあり方を守っていく人たちも必要で、彼らがしっかりいてくれているからこそ、そこからはみ出て私たちが自由な音楽を模索することができる、と私は思っています。

    KEIKO TANABE

    まだまだ自粛ムードが強い中、8月に横浜アリーナで「有観客」ライブをおこなった

    ギターやベースを選ぶように

    鈴華:私たちに共通するのは音楽が好きで、たまたま選んだ楽器が箏だった、三味線だった、なんですよね。

    「バンドやろうかな」って時にギターかな? ベースかな? って悩むのと同じ感じで和楽器を選んでいる。そうやって気軽に手にとってくれる人がもっと増えていいと思うんですよね。

    ――モテそうだからギターやろう! みたいな。

    鈴華:そうそう! 「モテそうだからやろう!」って世界がきたらおもしろいな〜。

    演奏する人が増えたら職人さんがもっと楽器を作ろう! って思うかもしれないし、このアーティストの演奏がカッコいいから自分も作る側になってみたい、って職人を目指す人が出てくるかもしれない。そういう流れが生まれたらいいなと思っています。

    蜷川:海外のメディアからなどは特に、「和楽器を海外で聞かせるため、広めるため」にやっていると見られることが多いんですけど、私たちは「和楽器の未来のため」を第一にバンド活動をしているわけじゃないんですよね。

    あくまで、自分のやりたい表現、好きな音楽をやるための手段なんです。

    KEIKO TANABE

    新型コロナで経営難に陥った大手三味線メーカー「東京和楽器」を支援すべく和楽器バンドが主体となり始めた「たる募金」。ファンを中心に800万円以上を集めた。「まずは知ってもらうこと。和楽器のことはよくわからないけど募金しているなら、くらいでもいいと思っているんです」(蜷川)

    “ボカロ育ち”の若者たちが動かした

    ――ボーカロイド楽曲のカバーアルバム「ボカロ三昧」でデビューした和楽器バンド。それだけ規律を重んじる世界だと異端の存在に眉をひそめる人も多かったのではないでしょうか。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    2012年、和楽器バンドとして初めて投稿した「月・影・舞・華」。1日で10万再生を超え、当時のニコニコ動画では大ヒットを記録した

    鈴華:もちろん、それはありました。でもみんながそうだったわけじゃなくて、例えばうちの剣詩舞の宗家は比較的柔軟でした。むしろ「頑張ってるね!」と応援してくれて。

    当時は今ほどネットが広がっていたわけではないので「よくわかんないな」となるのもある意味で当然だったと思うんですよね。環境の変化も大きいと思います。

    ――そのあたりの視線はやっているうちに少しずつ変わっていったのでしょうか。

    鈴華:そうですね。和楽器バンドのライブにさまざまな流派の先生たちがゲストで来てくださったり、逆に私が伝統ある大会に呼んでもらったり。

    少しずつ“異文化交流”することで「ああ、そういうことをやっているのね」「なるほどね」と理解してもらえていった感じでしょうか。

    いぶくろ:それこそボーカロイド楽曲を聞いて育った若い人たちが先生たちを動かしている面もすごくあると思います。

    生徒たちに「千本桜を弾きたい!」と持ってこられたら、先生たちも勉強せざるを得ない。本当に若い世代に人気があるんだ、こういう音楽が和楽器に興味を持つ入り口になっているんだ、と実感してもらえていると思います。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    最新アルバム「TOKYO SINGING」収録「Singin' for...」

    鈴華:ライブのアンコールで定番の「暁ノ糸」という楽曲は、冒頭で詩吟の有名なフレーズをそのまま入れているんですよね。なので、ファンの皆さんは、気づかないうちにすでに詩吟を習得しているんです(笑)。

    先生たちはみんなびっくりしますよ、これを何千人で合唱できるなんて! カラオケで若い子たちがどんどん歌っているなんて! って。

    私たちだからできる、ポップスと伝統芸能をつなぐきっかけはこれからも意識して取り入れていきたいです。