ミニシアターはスマホ時代に生き残れるか?アップリンク渋谷の挑戦

「映画館に行かずにスマホで最新作を見ること、1年後には当たり前になると思う」

渋谷・宇田川町にあるミニシアター「アップリンク」が、オンライン映画館「アップリンク・クラウド」をオープンした。

これまで同社が上映、配給した作品の中から、「マンガをはみだした男 赤塚不二夫」「バンクシー・ダズ・ニューヨーク」「バレエボーイズ」など、まずはドキュメンタリーを中心に約20作品をラインアップする。

過去の作品のアーカイブだけでなく、劇場公開中の最新作も一部オンラインで同時配信するのが大きな特徴だ。今後、数百作品程度に増やしていきたいと意気込む。

複数スクリーンを持つシネコンが主流になり、小規模な映画館は全国的に減少傾向にある。1986年に渋谷にオープンし、アップリンクとともにミニシアターブームを牽引した「シネマライズ」も今年初めに閉館した。

インターネットを介せば、時間も場所も超え、自由に映画鑑賞できるようになる。時間にも場所にも制約があるミニシアターにとって、それは脅威か、それとも光明か?

BuzzFeed Newsは、浅井隆社長にミニシアターのこれからの生存戦略を聞いた。

“荒野”で運命の一本に出会えるか

――「アップリンク・クラウド」、ありそうでなかった面白いサービスだと思いました。どういうきっかけで生まれたのでしょうか。

今、HuluとかNetflixとかU-NEXTとかビデオ・オン・デマンド(VOD)サービスが増えてますよね。アップリンクの配給作品も、もちろん提供しています。

定額制のサービスの場合はだいたい買い切りで「年間いくら」で契約することが多いです。じゃあだいたいこの何本をざーっといくらで、って買っていく。作品一つ一つに思い入れがあるわけではなくて……まぁ、数を増やすビジネスだからそうなるよね。

そうなると結局「何万作品あります!」とうたう大きいプラットフォームに配信しても、結局どうやって自分が観たい一本にたどり着くの? ってなる。お客さんだって荒野にポーンと放り込まれても、タイトルわかってなきゃ検索すらできない。

だから、トップページでおすすめしてるものをなんとなく観ることになる。好きになるはずの作品がこの何万本の中にたくさんあるはずなのに。新しい出会いは生まれてない。

そもそも「これから何観よう?」って時に、最新作も過去の名作も選べてしまう今は、選択肢が多すぎる。たくさんの中から面白いものを選べるよ! ってこっちに丸投げすぎだよね。しかも観たいのに限って、VODにないっていう(笑)。

今のVODってレンタルビデオの代わりなんだよね。なんとなく、DVDになって1年くらい経ったら追加するような空気になっている。「あー、あの時観たかった映画だ」って、その頃になると忘れてる。

世界中の映画を吟味して配給、上映してる側として「どう届けるか」に対する問題意識はずっとあったし、キュレーションしてあげるニーズは感じてたんだけど、やっぱり自前でサービスを持つのは大変すぎる。この数年、歯がゆい気持ちでいたんです。

アップリンク・クラウドがプラットフォームとして使ってるVimeoは、この1、2年で映画業界ではすっかり定番になったツール。

今まで海外に買い付けにいくとサンプルDVDをもらっていたけど、今はVimeoのURLとパスワードをもらうようになった。業界の内側もどんどんクラウド化してる。

Vimeoの決済ツールを使えば、自分が想像するのに近い形で「映画館」を作れる、「これだ!」ってなったんです。

――「アップリンクが作る新しいVOD」ではなく「映画館をそのままクラウドに」のイメージなんですね。

そうそう。“オンライン・セレクトシネマ”というコピーにしたのもそういう意味。

クラウド上に映画館をもう1つ作ろうと思ったんです。場所も時間も関係ない映画館。仕事が忙しい人も、地方に住んでいる人も、子育て中の人や病院から外に出られない人も、来られる映画館。

20年以上劇場やってきてわかったことはさ、映画は「観たい時が観たい時」だってこと。

スマホとSNSが普及してからさらにそう。記事で読んだり、SNSで友達が面白いって言ってたり、ブログで話題になったりしてるものを今すぐ観たいわけ。その「今」に応えてあげる流れに、これから絶対なっていくと思うよ

僕らがよく扱う海外のドキュメンタリーは、そもそもレンタル対象にならないことが多いのが現状。TSUTAYAも例外を除いて仕入れていません。劇場公開が終わると観る手段がほとんどなくなってしまう。

東京近郊はともかく、地方はもっと深刻だよね。最寄りの映画館まで片道2時間、交通費だけで結構な額になることも珍しくない。しかも、そうやってたどり着いたシネコンでは僕たちが配給しているような映画は大抵やってない。ネットで宣伝は見てるのに、興味はあるのに! という人はたくさんいると思う。

だから、アップリンクで公開中の作品も、可能な限り並行してクラウドでも配信していきたいと思ってる

実際、今扱っている20作品の中でも、劇場公開中の「聖なる呼吸」が一番よく観られているし、「オンライン映画館」のニーズはやっぱりあるんだよ。

価格は1200円で、300円や500円の他の作品や、レンタルビデオより高いけど、やっぱり値段じゃない。だって「観たい時が観たい時」だから。観たい時に目の前にあれば、お客さんはちゃんとお金を払ってくれる。

数年後の“当たり前”を見据えて

――公開中にオンラインでも配信してくれるようになると、観る側にとってはうれしいですが、やはり業界の反発もあるのではないでしょうか。

そうだね、映画館、特に地方の小さな館には「お客さんがネットに奪われちゃうんじゃ」って恐怖はあると思う。

でも、そもそも映画に触れてもらえなかったら仕方がない。わざわざ映画館まで行かない人がネットでは観るかもしれないし、その人が今度はリアルな映画館に足を運んでくれるかもしれない。

劇場は映像的にも音響的にも豊かだし、その場にいる人と共有できる体験も素晴らしいし、僕も大好き。でも、スマホの小さな画面でベッドの中で楽しんでもいいし、少し奮発して大きなモニタを買って、ホームシアターのように楽しむのもいいよね。

技術もデバイスも進化してるんだから、映画の楽しみ方は変わって当然だよ。映画を届ける側として、チャンスと選択肢はできるだけ増やしたい。

これからも映画館という施設がなくなるわけじゃなくて、オンデマンドサービスと共存していくと思う。

長期的に、映画に関わるすべての人に、何より映画ファンにプラスになる。1年後にはスマホで最新の映画を観るのは当たり前になっているんじゃないかなぁ。

――今回のサービスには、地方在住の方からの喜びの声も目立ちました。

ええ、届いてほしい人に届いてる感触があってうれしいですね。鳥取在住の方の「映画鑑賞用のBSを解約しました」というツイートが印象的だった。

やっぱりミニシアターって上映館も少ないし、そもそも観る手段がないんだよね。アップリンクが選んだ作品を、ひとつのブランドやレーベルのように愛してもらえるといいなと思う。

既存の映画館の客さんを奪わない仕組みも考えていきたいね。近くにミニシアター系の上映館がない人には通常価格で、それ以外の人はかなり割高にして、足を運んでもらえるようにするとか……。

アップリンク・クラウド、新作を映画館と同時配信したいのだが、既存の映画館が客を取られるのでは心配する。そこで考えたのが、例えば「アップリンク・ローカル・シネマ・クラブ」のようなものを作り、ミニシアター系の映画を上映してくれる映画館がない地域に住む人は登録してもらい、(続く)

(続き)登録してくれた人にだけ新作の割引コードを教えるというのはどうだろう。既存の地方の映画館のお客を奪うのではなく、映画ファンを増やすことができるのでは。公開と同時に3000円でレンタル、地方の会員にだけ50%オフの割引コードを発行、これならvimeoのシステムでできる。

「映画を観るのはシニア層」は思い込み

――ミニシアターの閉館も相次いでいますが、リアルな劇場のこれからはどう考えていますか。

うちは比較的若いお客さんが多いけど、多くのミニシアターはメインのターゲットをシニア層だって思い込んでるんだよね。その層にウケるラインアップにすると、ますます若い人が来なくなる。そりゃそうだよね?

でも、「君の名は。」も「シン・ゴジラ」もあれだけみんな観てるわけだよね。で、「シン・ゴジラ」を観る映画好きの人たちは、面白そうな作品があれば絶対ミニシアターにも来る。だって同じ映画だもん。そこを分断して考えちゃダメだと思う。もっと攻める方法はあるんだよ。

リアルな劇場で毎日10作品くらい上映してると、年齢で区切るのは意味がないってことがわかるよ。年齢よりも個人の好みなのは、シニアになった自分のことを考えれば当然だよね。いろんな30歳がいるし、いろんな60歳がいる。年齢で分析すると失敗するんだよ。

リアルの強さって、その温度をダイレクトに感じられることだし、アップリンクの強みはそこだと思う。リアルとバーチャルの両方がないとこれからのビジネスは勝てない気がする。

だから、繰り返しになるけど、これはアップリンクの配信サービスじゃなくて“新しい映画館”なんです。ネットだから若い人向け、とかじゃない。そう思ってどんどん上映作品を増やしていくつもり。

Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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