2022年上半期にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:5月9日)
「給料10万円の人を(略)半額の給料5万円にするとどうでしょうか?」
「今までの7割くらいの力でどうにか働いてくれます」
「数学的に考えて給料を半分にする方が儲かる」
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長のものとされる発言がSNSで拡散された。
しかし、このツイートは柳井氏の実際の発言ではなく、情報としては「誤り」だ。
BuzzFeed Newsが調べたところ、2013年前後にネット上で生まれた「コピペ」で、それが再拡散したようだ。ファーストリテイリングも「事実無根であり、虚偽の内容」と否定している。
ツイートから拡散までの経緯

柳井正「給料10万円の人を倍の給料20万円にするとその人はやる気をだしてくれるでしょう。しかし、今までの労働に比べて2倍も働いてくれません。では、半額の給料5万円にするとどうでしょうか?今までの7割くらいの力でどうにか働いてくれます。つまり数学的に考えて給料を半分にする方が儲かる」
5月3日、フォロワー約6万4000人のインフルエンサーが発信。該当ツイートはすでに削除済みだが、約1万7000いいね、約7000リツイートと大きく拡散した。
内容を信じた人たちからは「労働者を奴隷と思っている。なんてやつだ」「従業員が不憫」「もうユニクロは買いません」など、否定的な反響が多数寄せられていた。
同時に、参照元が明記されていないことで「これは実際の発言なのか?」「ソースは?」と信ぴょう性を疑う人も多かった。
「事実無根であり、虚偽の内容です」ファストリが否定
ツイートから2日後の5月5日、ファーストリテイリングは「SNS上での誤った情報の発信および拡散と、弊社の対応について」として声明を発表。

「柳井が今回の趣旨の発言をしたことはなく、事実無根であり、虚偽の内容です」と否定し、誤った情報の発信・拡散には法的措置も含めた対応をとっていくと警告している。
2013年にTwitter、2014年に2ちゃんで発見
もっともらしく出回っているこの発言は、どこから出てきたのだろうか。
ファーストリテイリング広報によると、柳井氏が個人のSNSアカウントを運用したことは一度もないという。本人がSNS上で過去に発言したが、すでに削除したという可能性は、考えられない。
2013年4月、あるTwitterアカウントが投稿していたのが確認できる中で最も古いもののひとつだった。今回のものとまったく同文だ。

翌2014年1月には、2ちゃんねるで「ユニクロ会長『給料10万を半額の給料5万にすれば働いてくれます』」というスレッドが確認できる。

上記の2つはともに「倍の給料20万すると」と同じ脱字があり、「コピペ」だろうと推測できる(今回拡散されたツイートでは「20万円にすると」と言葉が補足されている)。
2ちゃんねる上では、確認できる限りで2014年、2015年、2019年、2021年と何度も同じ内容でスレッドが立てられ、複数のまとめサイトで取り上げられていた。
2013年5月のツイートが初出かどうかは不明のままだ。ユーザー間の悪ノリから生まれ、「コピペ」「ネタ」としてインターネット空間で流布していった可能性もある。
“名言集”の最後に記載されているTwitterアカウント「@yanaidtadashi1」は「柳井正 名言」と名乗るアカウントだった(現在は削除済み)。

柳井氏の著書や発言から引用したフレーズを紹介しつつ、時折、プロフィール欄にあるブログの記事もツイートされていた。
こちらは悪意あるなりすましというよりは、いわゆるアフィリエイトサイトへの誘導を目的にしたものだと思われる。
実際の発言と並列する巧妙さ
2ちゃんねるスレッドの“名言集”にある他の言葉を調べると、発言元が確認できるものばかりだった。架空の発言と現実の発言を並列で並べているのが巧妙だ。
例えば、「収益を上げられない会社は解散すべき」という言葉は、柳井正氏の著書『一勝九敗』に登場している。
「変革しろ、さもなくば、死だ」は、「CHANGE OR DIE」として、2011年にユニクロのスローガンとして掲げられた言葉だ。
以上のことから、Twitterあるいは2ちゃんねるで、柳井氏の実際の名言を参照しながら「それらしい」架空の発言がつくられ、まとめサイトやSNSで流布していった可能性も考えられる。
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。