漢字が書けるのは“当たり前”じゃない。「読み書き障害」と戦う親子の物語

    小学生になってもひらがなが書けない、漢字の書き取りにすごく時間がかかる……。これらの症状、名前があります。

    「発達性ディスレクシア」と聞いて、想像がつく人がどれだけいるでしょうか?

    日本語では「発達性読み書き障害」。

    漢字やカタカナを書けない・覚えられない、たった1ページの漢字練習に1時間かかる、黒板をノートに写すのが極端に遅い……など読み書きの能力だけに特に困難を示す、学習障害(LD)のひとつです。

    ハリウッド俳優トム・クルーズさんもディスレクシアとして知られる一人。

    日本ではまだまだ認知度が低いですが、統計的には40人クラスに3人の割合で存在するとされています(6.9%)。

    うちの子は字が書けない」は、小学6年生で発達性ディスレクシアであることがわかったフユくんと家族の奮闘の日々を描いたコミックエッセイです。

    ずっと理由がほしかった

    小さい頃から絵本が大好きだったフユくん。他のことは問題なくできるものの「字を書く」ことは極端に苦手でした。

    「全く書けないわけじゃないけど、他の子より遅い……」

    母の不安は、周囲の「そのうち書けるようになるって」「心配しすぎだよ」の声でかき消されていきます。

    それもそのはず、これが「個性」や「本人のやる気の問題」ではなく、障害であることを、両親も学校の先生たちも知らないから。

    フユくんと家族がその理由を知ることになるのは小学6年生になり、専門機関の先生に出会ってからでした。

    そもそも、なぜクラスに3人もいるはずのこの障害がこんなにも知られていないのでしょうか?

    監修の宇野彰さん(筑波大学教授)は本の中で「日本語の文字を取得するために必要な能力や、英語圏とどう違うかという基礎的な研究がされてこなかったため」と説明しています。

    ADHDなど行動面の発達障害の場合は、言語が違っても適用できますが、英語と日本語、アルファベットとひらがな、カタカナや漢字では、言語の特性や必要な能力が異なります。

    海外の先行研究があってもあてはめにくく、適切なアプローチが近年まではっきりしていなかったそうです。

    「もうひとつは、発達性ディスレクシアの子どもたちは学級の中で目立たなかったからでしょうね。大人しくて勉強ができない子ということで、授業を運営するにあたり邪魔にならない。教員が『この子は勉強が嫌いだ・できない子だ』で済ませてしまっている」(宇野先生)

    「6年間も小学校に通っててさ、誰もフユがディスレクシアだということに気づかなかったんだよ…」

    自分にあった方法を知り、毎朝トレーニングを重ねたフユくん。ひらがなとカタカナがすべて書けるようになったのは、5カ月後。中学に入るころでした。

    専門家の指導を受け、フユくんの学ぶ範囲は、漢字、英語と少しずつ広がっていきます。

    発達性ディスレクシアの場合、英語は日本語よりかなり難しいそう。その理由も本の中で説明されています。

    他にも「PCやスマホの変換機能を使えばよいのでは?」「ディスレクシアに“天才”が多いのは本当?」などの解説も。漫画はもちろん、コラムもすごく興味深く勉強になります。

    「特別扱いされたくない」

    前向きなシーンだけではありません。

    高校に入ったフユくんは「赤点とると留年」の危機に追い込まれます。

    漢字の用語が多い日本史のテストでは「答えは合ってるのに、ひらがなで書くと不正解」の壁が重くのしかかります。

    苦労する彼の姿を見て、法律で定められた“合理的配慮”を学校に求めようとする母。

    (※合理的配慮:障害を持つ生徒に対し、特性にあったサポートや配慮をすること。読み書きが苦手な生徒には問題文にふりがなをつけたり、ひらがなでの回答を認めるなど)

    しかし、フユくんは「自分だけ特別扱いされたくない」「このままでいい」と抵抗します。

    「もしクラスメイトにバレてしまったら、怖いです」

    「みんなはできるのに 自分だけどうがんばってもできない」

    そんな思いを抱えながら、12歳でトレーニングをはじめたフユくんは今、17歳の高校2年生。彼が選ぶ進路は?

    1〜3話まではWebサイトで読むことができます。宇野先生が理事長を務めるNPO「LD・Dyslexiaセンター」のWebサイトはこちら

    BuzzFeed JapanNews