「普通はありえない」テレ東が“視聴率を無視”して赤ちゃん向け番組に挑戦するワケ

    民放では初めてらしい。ある意味で「視聴率無視」らしい。番組制作経験ゼロの女性が企画者らしい。プロデューサーの一人はアナウンサーらしい…。いろんな意味で異色の番組の裏側、聞きました。

    テレビ東京が12月16日〜20日の5日間、0〜2歳の赤ちゃん向け知育番組「シナぷしゅ」を放送します。

    テレビ東京

    松丸友紀アナウンサーがプロデューサー&振付担当なのもびっくり

    テレ東が赤ちゃん向け!? と最初に聞いた時はびっくりしました。それもそのはず、なんと赤ちゃん向け知育番組は「民放初」なんだそうです。

    ある意味で「視聴率無視」(!?)らしい。1日だけじゃなく、月〜金の5日間毎朝放送するらしい。

    子育て奮闘中の社員が部署を超えて集まった、プロデューサー5人体制らしい。

    「ゴッドタン」などで大活躍の松丸友紀アナウンサーも、なんと「プロデューサー」の一人らしい。

    ……知れば知るほど、異色のこのプロジェクトの裏側が気になります。テレ東ならではの赤ちゃん向け番組が実現するまで、聞いてきました!

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed

    プロデューサー陣。左から、松丸友紀アナウンサー(2歳男子の母)、飯田佳奈子さん(1歳男子の母)、高橋弘樹さん(2歳男子の父)

    「テレビ 赤ちゃん」で検索すると…

    ――そもそもこの企画、どんな経緯で立ち上がったんでしょうか?

    飯田:きっかけは直球で、自分が子どもに見せる番組を作りたかったからです(笑)。

    ネットで「テレビ 赤ちゃん」と調べても「発達に悪い」「なるべく見せないほうがいい」などの意見が圧倒的に多く目に入ってくるじゃないですか。テレビの仕事をしている自分でさえ、微妙に罪悪感があるのが複雑な気持ちで……。

    あまりに長時間見せ続けるのはもちろんよくないですが、そうでない範囲で、お母さんが安心できて、子どもも楽しめる番組があればいいなと思ったんです。

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    普段耳にしない言語の挨拶を楽しむ「せかいのことば」

    ――どうしてもNHK「Eテレ」の一択になりますもんね。

    飯田:Eテレの存在に助けられることって私自身すごく多いですし、きっと多くのお母さんもそうだと思うんですよ。「ワンワン、うーたんありがとう!」(「いないいないばぁっ!」に登場するキャラクター)って毎日思いますもん(笑)。

    でもおっしゃる通り、Eテレしかないという面もあり。「打倒Eテレ!」ではなく、選択肢がもっとあってもいいのに、というのが出発点でした。

    ――YouTubeにも子ども向け動画は多いですが、人気キャラクターや絵本を勝手に使っていたり、内容が過激だったり……。

    飯田:そうなんですよ。そんな時の助けにもなりたいと、この番組は最初から「放送後にYouTubeにフルでアップする前提」で企画書を作っています。

    好みはあっても“正解”はない

    ――徹底的にパパママ目線! では、「シナぷしゅ」の内容について詳しく教えてください。

    飯田:月曜から金曜までの平日朝7時35分から、25分間の放送です。0〜2歳児の赤ちゃんたちが楽しめる2分程度のショートコンテンツを詰め込みました。

    お母さんが安心して見せられることを何よりも大事にしたいので、「東京大学赤ちゃんラボ」(開一夫研究室)に番組全体の監修をお願いしています。

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    手の動きに合わせて絵も動き出す「スケッチモーション」

    最初は「パステルカラーとビビッドカラー、赤ちゃんはどっちが好き?」なんて細かく聞いていたのですが、万能な答えは当然ないんですよね。

    赤ちゃんにもそれぞれ個性があるわけで。なので、「この色がいい」「こうしたら絶対笑う」という“正解”を示そうとはしていません。

    「赤ちゃんの集中力は3分が限界」というお話を受けて、短いコンテンツを集める構成に――など要素要素でアドバイスをもらいました。

    「完全に視聴率の枠外ですからね(笑)」

    ――赤ちゃん向け番組は「民放初」だそうですが、それは高視聴率を見込めないという点が大きいのでしょうか。

    飯田:そうだと思いますね。同じ企画を立ち上げても、ひと昔前だったら難しかったかもしれません。

    そもそも視聴率の指標って、一番下の年齢層「C」が4歳以上なんですよ。0〜2歳、完全に枠外ですからね(笑)。視聴率を意識せずテレビ番組を作るって……普通はありえないです。

    高橋:僕もいろんなドキュメンタリーやバラエティを作ってきましたけど、赤ちゃんを想定するのは未知の領域ですね。「乳児にウケる技術」というコーナーを担当しているんですが「0歳児向けのお笑いって……何?」と試行錯誤しています。

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    「家、ついて行ってイイですか?」の演出・プロデュースを務める高橋さんが担当する「乳児にウケる技術」。超多忙な中で自分の子どもと触れ合ってきた経験を生かしたコーナーに

    ――そんな「ありえない」企画を通すのは大変だったのでは?

    飯田:いえ、むしろ想像以上に好意的でした。偉い人たちも「なるほど」「誰もやったことないから面白いんじゃない?」と応援してくれて。

    テレビの価値を測る指標が変わってきている表れだとも思います。テレビ東京の社風もあるかもしれません。

    未経験&アナウンサーがプロデューサー

    ――今回、プロデューサーが5人という異色の体制の背景も気になります。

    飯田:私、実は番組制作の経験、まったくないんですよ。子どもを生む前は、CMセールスをする営業局にいたんです。

    ――え!? 経験ゼロでいきなり新番組のプロデューサーに。

    飯田:そうなんです、会社も思い切った配属をしますよね(笑)。一人でゼロからやるのはさすがに不安なので、仲間を集めて。

    普段から番組制作に関わっているのは5人中2人で、私含む3人は未経験。部署を超えて、子育て中の社員が集まりました。

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed

    企画を立ち上げた飯田佳奈子さん。育休前は番組制作とは離れた部署だった

    ――松丸アナも名を連ねていてびっくりしました。アナウンサーがプロデューサー、かなり珍しいのでは?

    松丸:お話をもらった時は「え、私、アナウンサーしかやったことないけど」と驚きました。でも、いつか子ども番組の制作に関わりたいと思っていましたし、しかもいま一番身近な子どもに関する企画! 本当にうれしかったです。

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    右奥が松丸アナ

    飯田:新しいプロジェクトだから、今までと違う作り方をしてみたいと思ってお声掛けしたのですが……松丸さん、本当にアツいんですよ。一緒にできてよかったです。

    高橋:プロデューサーLINEが超高速で進んでてすごいよね。ちょっと目を離すと「未読58」とかすぐなってる(笑)。

    飯田:私と松丸さん、そのグループとは別に個人でもやっていますからね、さらに。

    松丸:夜中子どもが寝てからLINEで数時間やりとりしたり、生放送の前の10分だけ!なんて、必死で打ち合わせしているよね。

    とにかく5人の熱意がすごくて、思い描いたものが少しずつ形になっていくのが楽しくて。いま、社会人人生の中で一番充実しています!

    高橋:そこまで言い切っちゃって大丈夫?(笑)

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed

    軽口を叩き合う、仲良しなみなさん

    松丸アナ「自分のためにも全力で」

    ――松丸アナは「シナぷしゅダンス」の振り付けも担当しているとか。

    松丸:そうなんです、今まさに作っていて。25分の番組のなかで少しずつ赤ちゃんが成長していくイメージで、オープニングは上肢の大きな動きを中心にした0歳向け、エンディングは体を動かせる2歳向けになっています。

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    オープニング、エンディングで違うダンスを披露

    ぷしゅ!松丸P、今日も生放送前にひと踊りしていきました。

    ――すごい、本当にがっつり関わっていらっしゃるんですね。

    松丸:そうですよ、本気です!

    ダンスの他に「がっしゃん」というコーナーを担当しているんですけど、これは完全に「うちの息子が喜ぶもの」という視点で作りました。

    電車が、特に「連結」が大好きで大好きで……休みの日は東京駅に行って、新幹線の連結部分をずうっと見ているくらい(笑)。

    じゃあそれだけ集めたらいいんじゃない? ということで、電車だけじゃなく、乗り物や橋、家の中の「がっしゃん」を探すというコンセプトのコーナーになりました。

    今日はロケぷしゅ〜〜。がっしゃんがっしゃん、しゅごい迫力だな〜〜〜!うわ〜〜! #重機 #シナぷしゅ #テレビ東京  @shinkojuki

    飯田:がっしゃん! て響きもいいですよね。子ども向け番組の制作経験がない私たちので、まずは自分の子どもに刺さるものを、と5人それぞれでやりたいことを考えていきました。

    イラストやアニメを使ったビジュアル中心のもの、英語の歌やフランス語、フィンランドの響きを楽しむものなど、バラエティに富んだ構成になっています。

    松丸:アナウンス部でも産休・育休を取ったり、子育てと両立したりする社員が増えてきてはいるものの、仕事との向き合い方を考えるとなかなか課題も多いんですよね。

    私がこの企画を成功させることで、「働くママでもこんな風に会社に貢献できる」と証明できるかなと思うので、これからの自分のためにも全力でやりきりたいと思っています。

    視聴率は「枠外」だけど…予想外の展開に

    ――10月末にリリースが出た時、ヤフーニューストピックスでも取り上げられ大反響でした。

    飯田:本当にびっくりするほどの大反響でした。

    出版社の方が「ニュースを見て感激しました」「応援しています」とお手紙付きで絵本や育児書を送ってくれたり、Eテレでコンテンツを制作しているような一流クリエイターさんやアニメーターさんが「協力したいです」と連絡をくださったり、「え、この人が!?」という名のあるタレントさんが「ノーギャラでも出たい」と申し出てくださったり……。

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    切り絵アニメ作家とコラボしたオリジナルアニメ「しずくのたび」

    ――私もこうして取材させてもらっていますし、何か応援したい気持ちになる方が多かったんでしょうね。

    飯田:先ほど視聴率の枠外と言いましたが、実は営業的にはすごくうまくいっていて、CM枠はすでに完売したんですよ。特番かつ新番組なのに、放送1カ月前に完売って、本当にすごいことで。

    中にはテレビ東京が今までお付き合いがなかった企業さんもいらして、こんな形で新しいビジネスにつながるのはうれしい驚きでした。

    ――「高視聴率は見込めない」を覆すそんな面が。その分制作費が増えるなどの恩恵はあるのでしょうか。

    飯田いえ、それはまったくない! です! これはもうはっきり言い切れる(笑)。テレ東はもともと低予算ですが、この番組はさらに少ないです。

    高橋:いやほんと、びっくりするほど安いよね。僕から見ても「え? これだけ?」ってなった(笑)。

    飯田:そうですよね? ADさんに渡す2000円の交通費を捻出できるか迷うくらいギリギリのパツパツなんですけど。ポケットマネーで出そうかな。

    松丸:それはさすがにやめて(笑)。

    ――直接皆さんにカンパしたい……。

    飯田:心配させてすみません(笑)。少ない予算をめいっぱいコンテンツに投じたので、クオリティは本当にこだわっていますし自信があります!

    ぜひ多くの方にご覧になってほしいですし、観られない地域の方もYouTubeで楽しんでほしいです。

    ――好評だったら続編にもつながりそうですね。

    松丸:ね! 続編どころかレギュラー化したい!

    飯田:したいです! まだ完成もしていない状況で夢が大きいですが、毎朝当たり前のようにそこにある番組になったらうれしいです。

    高橋:そんなにハードルあげて滑ったらどうする!?

    飯田:……そこは「テレ東なので」って許してもらいましょう!

    Haruna Yamazaki / BuzzFeed