“妊活”を真正面から描くドラマ「隣の家族は青く見える」が予想以上にド直球だった

    「いつか子どもほしいね」の「いつか」って、いつ?

    木曜22時にこんなに真正面から「不妊治療」を扱うんだ……フジテレビの! ドラマで! 深キョンと松ケンが!

    1月18日にスタートした「隣の家族は青く見える」、想像したよりずっとガチンコでこのテーマにぶつかっていて驚いた。

    TVドラマの1話はなるべく見るようにしているので、この作品もぼんやりと見ていたのだけど、途中からすっかり引き込まれてしまった。

    「1年以上避妊なしの性交を続けても妊娠に至らなかった場合、検査するまでもなく不妊症と言えます」

    「不妊症の約半数は、男性が原因ですしね」

    そんなセリフが次々に出てくる。すごい。これからどうなっていくんだろう?

    「 ……え、俺も行くの?」

    主人公は、マイホームを購入したばかりの五十嵐奈々(深田恭子)と五十嵐大器(松山ケンイチ)の夫婦。「いつか子どもがほしい」と漠然と思いながら「まぁ、その気になればいつでもできるしね」と日々を過ごしている。実際にもよくありそうなケースだ。

    「すごいな、このドラマ……」と震えたのは、男女の微妙な温度差の描き方。

    周りの友人夫婦や義妹が妊娠・出産していく中、奈々と大器の夫婦は子作りを始めて1年以上経っても妊娠の気配はない(「まだ1年だよ?」「もう1年3カ月だよ」という2人の会話も印象的だった)。

    早く子どもがほしいと願う奈々は、さりげなく不妊治療専門のクリニックに行ってみたいと言い出す。

    「奈々が安心するなら調べてみてもいいかもな」

    「ほんと? じゃあ休みの日に予約するから大ちゃんも一緒に来てね」

    「うん。……え、俺も?」

    笑顔を向ける奈々の瞳の奥の真剣さと、まさか自分も一緒に行くと想像もしていな大器のどこか他人事感の対比がすごい。

    「け、検査〜? 俺は大丈夫でしょ」

    「じゃあほんとに大丈夫かちゃんと調べてもらおう」

    「検査するまでもなく不妊症」

    病院で医師に投げかけられるのが冒頭の言葉だ。

    「1年以上避妊なしの性交を続けても妊娠に至らなかった場合、検査するまでもなく不妊症と言えます」

    「なので、これからおこなう検査では『不妊症かどうか』ではなくその原因を探っていくことになります」

    とりあえず、不妊の心配がないか調べてもらおう。そう思って赴いたはずなのに。黙り込む2人に医師はさらに告げる。

    「今日検査することもできますが、その前に、不妊治療をおこなうことについて、ご夫婦ともに納得されていますか?」

    「経済的、時間的な負担に加え、身体的、精神的にも少なからずダメージを受けます。年齢とともに妊娠率は確実に低下していきますので治療を始めるなら早いほうがよいとは思いますが、一度ご夫婦で話し合っていただいてもう一度予約していただいてもよいですよ」

    問診票の「性欲はありますか?」なんて直球の質問に目を見開く。

    この容器に精液を採取してくださいね、終わったらこちらのボックスに入れてください、とエッチなビデオや本が置かれた「採精室」の前で機械的に告げる看護師にドギマギする。

    そんな大器の反応を見て、そうか、男性って正面から性生活についてこんな風に聞かれることってあんまりないのか、という発見があった。

    女性は婦人科に行く度に、性交の有無や頻度について必ず聞かれる。もっと言うと、自分は子どもを産みたいのか、産むならどのタイミングなのか、どこかの段階からうっすら考えざるを得ない。

    焦る奈々に「個人差はあるよ」「子どもは授かりものだって言うじゃん、できないってことはまだその時じゃないんだよ」と声をかける大器に彼女はこう言う。

    「若かったら私もそう思えてたと思う。でも、私もう35だよ」「その気になればいつでもできるなんて考えは甘かったんじゃないかって……」

    無邪気な無神経というリアル

    とにかくこういう、普段生活していると特に感じないであろう微妙な温度差が心をざわつかせてくる。どちらが悪いわけでもないし、間違っているわけでもない。2人は、2人だけで生活していたら仲良し夫婦なのだ。

    「ドラマの中で、松山ケンイチさん演じる大器が精子の検査を受けて、自分の精子の数が大丈夫だったとわかった時に、あからさまにほっとするシーンがあります。女性の神経を逆撫でするリアクションだと思うんですが、大器はすっごく喜んでいる。これがリアルだと思うんですよね。リアルを描けるのがドラマのいいところでもあります」

    中野利幸プロデューサーも、ハフポストのインタビューでこんな風に話しているけれど、このシーンは実際見ていてぞわっときた。

    大器が常に無神経なムカつく男! というわけではなくて、明るく素直で子ども好きで、素敵だなあ、なるほどな、好きになっちゃうよね、と共感できるバランスも憎い。後半の奈々が大器に恋に落ちたシーンの回想はすごくよかった。

    子どもが“ほしくない女性”もいる

    奈々と大器が住むコーポラティブハウス(複数の家族が自分たちの意見を出し合いながら作り上げる集合住宅)の隣人たちも、一口に家族と言っても多種多様だ。

    子どもがほしくない女性とバツイチ男性のカップル、理想の家族像に執着する主婦とエリート商社勤務を辞めた夫の夫婦、男性同士のカップル。

    それぞれ違った悩みや生き辛さを抱えていて、彼らがどう描かれるのかも注目したい。

    子どもがほしくない女、高橋メアリージュンさん演じる杉崎ちひろも今の女性の描き方としてすごくリアルだと思った。

    「言っとくけど私、本当に産まないよ。結婚してしばらくしたら気が変わるんじゃないかとか、年取ってリミット近くなったら産むって言い出すんじゃないかとか、そういう期待しても無駄だからね!? 子どもがいらないって言うから亮司と結婚することにしたんだからね」

    25日放送の第2話の予告を見ると、彼女の怒りが爆発する模様。

    【第2話予告📺】 第1話から考え方が違ったちひろと深雪。第2話ではついに「子供を持つ持たないは権利であって義務じゃない!」とちひろが自分の考えを深雪にぶつける😠この家族たち果たしてどうなっていくのか!? 次回第2話は 1月25日… https://t.co/QXqPfdzZ4t

    「子どもを持つ持たないは権利であって義務じゃないんです」「自分のモノサシだけで他人を測るなって言ってんのよ!」

    ……誰かにこう言いたくなった経験がある人、きっと少なくないんじゃないだろうか。

    「大変な部分、悲しいことも丁寧に描いてほしい」

    公式サイトでは妊活や結婚、子育てに関する体験談を募集しており、ドラマの内容に触発された人が次々に書き込んでいる。

    現在不妊治療中の30代です。今回のドラマすごく楽しみにしております。このドラマがどう仕上がっていくのか分かりませんが、不妊で悩む夫婦の気持ち。妻の気持ち。旦那の気持ち。が、不妊に縁のない方々にも分かってもらえたら良いなって思います。(30代女性)

    同年代の友達や知人はどんどん妊娠して出産、2人目を授かったとか、子供はまだなの?と聞かれたり。不妊治療なんて縁のない人たちからは、子供つくらないの?と軽い言葉をかけられてすごく傷ついたりもします。もちろん悪気はないこともわかっていますが、すごく辛い時もあります。(20代女性)

    5年間妊活しています。これまで流産や子宮外妊娠など辛い経験を沢山しました。病院の待合室で赤ちゃんや妊婦さんを見るのも辛いほど妊活はとても大変で終わりが見えないものです。時には、お金や時間が全て無駄になりますが希望を捨てずに頑張っています。そういう大変な部分、悲しい事も丁寧にドラマで描いて欲しいです。(年代不明)

    不妊治療に取り組んでいる人も、理由があって諦めた人も、人知れず流産や中絶を経験した人も、誰しも絶対に身近にいるはずだ。私もいる。

    だけど、あまりにプライベートだからこそ、相当距離が近しい人でなければ、踏み込んだことを聞く、知る機会は早々ないはずだ。

    「無知こそがいらぬ偏見や差別を生むんですよ」。ドラマに出てきたこのセリフはまさにテレビの前の自分たちに向けられている言葉だと思った。

    「不妊がテーマ」と聞くと重たく感じるが、いい意味でフジテレビらしいポップな見せ方なのもよかった。「自分には無縁だな」と思ってる人にこそ、肩肘張らずに見てほしいし、誰かに見てほしくなるドラマだと思う。これからが楽しみ!

    BuzzFeed JapanNews