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「きれいに美しく」だけじゃない。“汚さ”も徹底追求する映画ヘアメイクの流儀

漫画ともアニメとも違う、実写だからできること。

映画のヘアメイクは、人物のキャラクターや個性を一目でわかるように表現する仕事。雑誌やCMの撮影とはまた違ったポイントが求められる。

映像専門のヘアメイク、橋本申二さん。自主制作のインディペンデント映画から、ジャ・ジャンクー監督「山河ノスタルジア」(2016年)など世界的に評価が高い大作まで、国内外の多数の映画を手がけてきた。

アート性が高い映画を得意とする彼の最新作は、意外にも人気コミックを原作とする映画「東京喰種 トーキョーグール」(7月29日公開)。一見普段の仕事とは遠く感じるが……?

「本当にありえるかも」リアルとフィクションの境

物語の舞台は、人の姿をしながら人を喰らう怪物「喰種」(グール)が潜む東京。大学生・カネキ(窪田正孝)はある事件をきっかけに「半喰種」になってしまう。

人間か、喰種か。違いは外見ではわからないが、生き方や思想には深い溝がある。

「フィクションでありながら、もしかしたらこんな世界もありえるかも、と思わせる力がある作品。現実にはいないバケモノである『喰種』が、東京の街に本当に存在しているように感じてほしかった」

人間と喰種の微妙な差を演出すべく、漫画やアニメとは別の形でこだわった。例えば、ファンデーションの色。

Ⓒ2017「東京喰種」製作委員会 Ⓒ石田スイ/集英社

喰種が集まる「喫茶あいていく」。人間社会の中でひっそりと生きている

喰種を演じる役者には、人間と比べてほんの少しだけ赤みを抑えた色を採用している。カネキの肌の質感も、人間の時と半喰種になってからで微妙に異なっている。

人混みの中にいても違和感はないけれど、まじまじと観た時に少しだけ引っかるような、本当に微妙な違い――観客が気づかないような細かい部分にも徹底して意味を持たせることが、映画の1カットずつの印象深さを決めていく。

橋本さんの目指すヘアメイクは、演出やストーリーまで深く理解していないとなしえない。作品が決まると監督と密にコミュニケーションし、脚本や絵コンテを読み込み、カメラワークや演出の意図を理解した上で撮影にも張り付く。

今回も約60日間にわたり撮影現場に入り、シーンごとに役者やスタッフと話し合いながら対応していった。

原作の“完全再現”ではなく…

漫画原作の実写化となると、よい意味でも悪い意味でも話題になりがちなのはその再現性だ。

橋本さんは「原作ファンに納得してもらいたい、というより、よりどころを作ろうという気持ちだった」とキャラクターデザインの過程を話す。

「リアルな人間にまとわせる上で、当然変えなくてはならない部分はあるのですが、それでも原作ファンの方に『あ、ここ似てる!』と感じてもらえるエッセンスを残すことは強く意識しました」

「あの色であのフォルムは、そのまま再現したら『こんな人いないでしょ!』と明らかに違和感を感じてしまうヘアスタイル(笑)。どうやって成立させようか、かなり試行錯誤しました」

映画である以上、まずは役者である大泉洋のよさを引き出すことが最優先。どうすれば彼を格好よく見せられるか、演技や動きを邪魔しないか、原作を参照しながら、髪の長さやスタイリングの調整を細かく重ねた。

左目を潰すようなメイクも、リアリティを持って見られるバランスを追求している。

橋本さんが漫画原作の映画を手がけるのは初めてではない。代表作は「ヒロイン失格」だ。

ラブコメ少女漫画と、凄惨なシーンも多い青年漫画。この2作品ですら、対極にある作品のように感じるが、作品を作る上で心がけたことは変わらないという。

「『ヒロイン失格』では、主演の桐谷美玲さんのヘアスタイルを44回チェンジしました。2分に1回の計算ですね。漫画のような速いテンポで絵が変わっていくための工夫です。原作を愛する人に、映画の側からどう寄り添えるかを考えた結果でした」

悲しみも苦しみも。心の動きを視覚で伝える

「人間と喰種のあいだで葛藤する、カネキの心の苦しみがこの物語の一番のテーマ。ある日突然、人を食べないと生きていけない体になってしまった彼の苦しみを、あらゆる形で表現しています」

橋本さんのこの言葉通り、映画で印象に残るのは「汚れ」だ。例えば、人間の食べ物を何ひとつ食べられなくなってしまったカネキが、現実を受け入れられず、飢えた目で獣のように街を徘徊するシーン。

「苦しむカネキの口元には、乾いたよだれのあとがべたべたと張り付いています。何日も絶食し限界まで葛藤している、その時間経過も含めて見せられる」

「カネキは飢えだけでなく、人間としての尊厳がなくなったことにひどく苦しんでいる。ヘアメイクが作るのは単にビジュアルだけでなく、その瞬間の人間の心のあり方なんです」

「ここまで汚しの描写をすることは、テレビドラマではもう難しい。映画だからできることですし、僕が映画にこだわる理由でもあります」

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該当のシーンは予告編の50秒過ぎから

「今、心がどうあるべきか」。海外の映画祭で高く評価されるようなアート性が高い作品でも、今回のようなエンターテインメント作品でも、最も大切にしていることは同じだと言う。

「アクションシーンもそうです。身体につく傷もパッと飛ぶ血も、戦闘のダメージであると同時に彼らの心の痛みを示すもの。終盤、傷だらけで戦う彼らは、カネキもトーカ(清水富美加)も亜門(鈴木伸之)も本当に美しい。心の揺れが目でもわかるからこそ、見ている人の心を打つシーンにできるのだと思います」


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