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セーラーマーキュリーに憧れたあの頃から、「ピンク」と「かわいい」に向き合えるようになるまで

「女の子は本当にピンクが好きなのか?」

「女の子は本当にピンクが好きなのか」――多かれ少なかれ、多くの女性がドキッとしてしまう言葉じゃないだろうか。発売当初から気になっていたこの本をようやく読んだ。

すごく面白かった。ピンクとの葛藤を抱えているのは、自分だけじゃない。それどころか、世界共通、時代すら超えていた。大人になって、子どもの頃よりずいぶん素直な気持ちで「かわいい」ものが好きだと言えるようになってきたと思う。

ピンクはいつから「女の子」のものか?

著者の堀越英美さんは、2人の娘を育てる母。書き出しは、こんな嘆きから始まる。

よもや自分の娘がピンク星人になってしまうとは。

「『女の子の色はピンク』なんて押し付け。女の子が生まれたら、自由にいろいろなものを選べるようにしてあげたい」。そう思って育ててきたはずの長女が、3歳を前にピンクにしか興味を示さなくなった。

国を越えてこれほど多くの女児がピンク(やプリンセス、キラキラしたもの、妖精など)を好むのは、いったいどういうわけなのか。社会の影響? それとも女の子は生まれつきピンクが好きになるように脳が配線されている? 仮に生まれつきの性質なのだとしても、もやもやせずにはいられない。

本では、まず、ピンクが「女の子の色」となった歴史を振り返る。「女の赤ちゃんにはピンクを、男の赤ちゃんにはブルーを」は、ベルサイユ宮殿時代のフランスに端を発しているらしい。

1950年代アメリカにおけるピンクブーム、戦争を終えた“気分”を示すピンク、日本における「桃色」という言葉のエロスとの結びつき、女児アニメでの扱い……欧米と日本で同じところも違うところもある。

「ピンクへの反抗」として、アメリカで一大トレンドとなっている、女の子向けの理系知育玩具の数々を具体的に紹介する章も楽しい。すごいなぁ、今はこんなにいろいろあるんだ。

レゴや組み立て玩具、サイエンスキット、「理系女子」のファッションドールなどさまざまだ。大人も触ってみたくなる。日本ではまだ少ないけれど、これからブームはやってくるかもしれない。

世代を超えて“振り出し”に

歴史を追っていくと、一世代巡ると価値観が逆に触れるのが面白かった。つまり、大人は「自分が子どもだった頃」に得られなかったものを子どもに与えたくなるのだ

例えば、アメリカでは1960〜70年代にかけて、ウーマンリブ運動が起こる。性差別をなくそうという思想の中で「女の子はピンク、男の子はブルー」な市販品の色分けは当然反発を受け、乳幼児の衣類は中性化していく。

しかし、80年代半ばにはパステルカラーの「女の子用」「男の子用」が再び出回るようになった。

著者は理由として、超音波検査で生まれる前に性別が事前にわかるようになったこと(それくらいしか情報がないのだから、合わせた何かを準備したくなる気持ちはわかる……との記述には、確かに、と思った)、男女平等の浸透とともに子どもの自主性が尊重されるようになったことをあげる。自由に選ばせると、女児はピンクを選ぶ。その執着たるや!

ウーマンリブの時代に育った女性には、ピンクのドレスやおもちゃ、バービー人形がほしくても買ってもらえなかった人も多いという。彼らが親世代になった時に「あの時、自分がほしかったもの」に目を向くのは自然な気がする。

こういうことが、歴史の中で何度か繰り返されるのが興味深い。ブーメランのように“振り出し”に戻る。葛藤の歴史は思ったより長い。

だったらもしかして、「女の子はピンクが好き」は遺伝子に刻み込まれた、先天的なものなのでは? という気持ちになってくる。この疑問に対しても、本の中で実験の結果を紹介していて興味深かった。

セーラーマーキュリーになりたい

全体としてはすごく面白い本だったし、発見もたくさんあったのだけど、個人的には、日本の状況については悲観的に考えすぎでは? と感じる箇所もあった。

自分のことを振り返ってみると、私は小さい時から勉強ができるようになりたかったし、数学が得意になりたかった(結局、いまいちなれなかったけど……)。選べるならピンクより青を選んでいた。

それは、私がジェンダー・バイアスから自由だったわけでも進歩的な思想を持っていたわけでもなくて、ひとえに水野亜美ちゃんが好きだったからだ。

水野亜美、つまりセーラーマーキュリー。IQ300、全国模試では上位常連の天才少女。アニメでも勉強するシーンがたくさん出てきた。

亜美ちゃんのマネをしてお風呂の中で本を読んだし、チェスできるようになった方がいいのか? と悩んだ。多分そういう子、たくさんいるだろう。知性を司るマーキュリー、そして亜美ちゃんはキャラクターとしてすごく人気があった記憶がある。

(亜美ちゃんのマネして読むための)本とか(マネして勉強するための)ノートは買ってもらえても、セーラー戦士の衣装やディズニー・プリンセスのドレスは買ってもらえなかった。今思うと、親として「どうせそんな何回も着ないでしょ」と突っぱねる気持ちもわかるのだけど。

自分としてはその欲求に大きな違いはなかった。勉強もできるようになりたかったし、ふわふわのかわいい格好もしたかった。本を読みたかったしレゴで遊びたかったけど、リカちゃん人形やシルバニアファミリーもほしかった。

でも、なんとなく「女の子っぽいもの」「かわいいもの」を正面からせがむのは気恥ずかしかったし、あまりよくないことのように思っていた。これはきっと私だけじゃなくて、多くの女性が身に覚えがあるのではないだろうか? 大人は「かわいい女の子」を望んでないことをなんとなく感じていた。その点、亜美ちゃんは「青」なのもいい。

だから今、セーラームーンのリバイバルグッズのブームが来ているのはすごくよくわかる。「あの頃、手に入れられなかったもの」がほしいのだ。

カラフルなコンパクト、変身ブローチやスティックの形のチャーム、香水やネイル……「オトナ女子向け」を銘打ったそれらはどれも「ピンク」で「キラキラ」だ。おもちゃのように。幼稚なほどに。

それは私たちが「ピンク」に向き合えるようになったからだと思う。かわいい! を主体的に肯定できるようになったのだと思う。

そんな子どもっぽいもの、と眉をひそめる人もいるかもしれないけど、「いい年してピンクなんてやめなさい」も「女の子なんだからピンクにしなさい」も根本的には同じ発想だ。選び取るピンクはかわいいし、押し付けられないピンクは愛しい。

オシャレに気後れするSFオタクの女の子

本の中でアニメ「妖怪ウォッチ」に登場する女の子「未空イナホ」について触れられていた。早口でうんちくをまくしたてるSFオタクの女の子。

おしゃれなブティックに気後れして「エリアに充満するミノオシャレスキー粒子が私の立ち入りを拒んでいる!」とガンダムネタ(絶対、子どもは知らなくない?)を叫ぶ。

そうだ、彼女の存在を知って、「妖怪ウォッチ」見たいと思っていたんだった。フィクションの世界の中で「オタク女子」の存在はもはや珍しくないけど、子ども向けのアニメの中にもちゃんと降りてきている。子どもたちの中には「これは私だ」と思える子もきっといるだろう。

アニメも、漫画も、おもちゃも、時代に合わせて価値観は進化している。それでも今の子どもたちも、同じように「ピンク」とそこにくっついた価値観と格闘するんだろうか。するのだろうな、多かれ少なかれ。これまでも繰り返してきたんだもんね。

20年後、彼女たちの「あの頃、手に入れられなかったもの」は何になるんだろう。


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