カメラの前で涙をこぼし、歌詞をミスり…でも、それが魅力。「一発撮り」スタッフが見たアーティストたちの素顔

    その“事件”が魅力になる。緊張感ある「一発撮り」だからこそ垣間見えた、アーティストの素顔とプロ意識をスタッフ陣に聞きました。

    2019年11月、彗星のように現れたYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」。12月23日にはチャンネル登録者数300万人を超え、今も成長中だ。

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    LiSA「炎」。大ヒット中の「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の主題歌としても話題に。この動画は10月半ばに公開され、すでに3000万再生を突破している

    画面に映るのは、真っ白なスタジオに置かれた1本のマイク。対峙するアーティストは、やり直しの効かない「一発撮り」のパフォーマンスに挑む。

    その緊張感あふれる様子を、高画質・高音質で鮮明に収め、配信している。

    LiSA、DISH//(北村匠海)、YOASOBI、女王蜂、鈴木雅之、Creepy Nuts――。

    トップアーティストから、新進気鋭の若手まで、さまざまなアーティストが同じ空間で「歌」と向き合う。

    数千万回規模で再生されている動画が複数あることからも、その注目度がうかがえる。

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    紅白歌合戦初出場も発表されたYOASOBI 「夜に駆ける」。バイラルチャートではすでに人気だったが、この動画でさらに火がついた。現在までに7300万回以上再生されている

    涙を流したり、手が震えたり、歌詞を間違えたり。極限の緊張状態で「一発撮り」に臨む現場には、アーティストそれぞれのドラマがある。

    撮影現場で垣間見えた、彼らの素顔、そしてプロフェッショナリズムとは?

    前編のチャンネル運営の裏側に続き、「THE FIRST TAKE」運営スタッフ、クリエイティブディレクターの清水恵介氏にアーティストたちとのエピソードを聞いた。

    LiSAはカメラの前で、涙を流した

    ――1年間継続してきて、特に印象的だった撮影はありますか?

    スタッフ:まずは1本目のadieu(上白石萌歌)です。まだ何もない、どうなるかわからない、お互いにとってチャレンジでしかなかった最初のスタートだったので、とても緊張感がありました。

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    adieu(上白石萌歌)「ナラタージュ」。同名の映画主題歌を初披露

    大きなターニングポイントになったのは、LiSA「紅蓮華」ですね。昨年、初めての紅白歌合戦への出場直前にご出演いただいたということもあり、一気に花開いていくその瞬間の輝きを記録出来たのは奇跡的だったなと思います。

    彼女のことをまだ知らなかった人たちにも、LiSAの歌声の凄みが十二分に伝わったコンテンツだと思いますし、撮影現場でもチームでとても感動したことを思い出します。

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    LiSA「紅蓮華」。再生数はチャンネル史上最多となる9200万超を突破

    ――ただ「歌がうまい」だけじゃない、LiSAさんが歌うことに懸ける真剣さ、この瞬間を生きる切実さのようなものが伝わってきてしびれました。

    スタッフ:歌う前、マイクの前に立ち「いろんなことが、今年あったじゃないですか」と静かに話し出すんですが、これは僕らが演出をしたわけではなくて。彼女が今の思いを話し始めたんです。

    この真っ白な空間にはこんな言葉を引き出す力があるんだ、とその時思いました。

    ――「炎」で再出演した際は、歌い終わった後にぽろっと涙を流すほど想いを込めていて。

    誰もいない白い部屋。 閉じ込めていた感情を、ひとりの空間だからこそ吐き出してしまったような「炎」 自分でも驚くほど感情を素直にさらけ出した2度目のTFTでした。 ありがとうございました。 劇場版 #鬼滅の刃 と共にお楽しみください。 LiSA - 炎 / THE FIRST TAKE https://t.co/guS7O3KpMz

    スタッフ:あれもすごかったですね。常に僕らに驚きを与えてくれる、2歩、3歩先で何かを残してくれる方だと思います。

    このLiSA「紅蓮華」のパフォーマンスで「THE FIRST TAKE」の方向性というか、僕らが見せたい「地上波の歌番組では見られないもの」「既視感のないもの」がよりはっきりしたなと思います。

    「ミスも音楽」トラブルも魅力になる

    清水:僕はちょっと方向性が違いますが……KANA-BOONの谷口鮪さんが歌詞を間違えた回ですかね。

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    KANA-BOON(谷口鮪)× ネクライトーキー(もっさ)「ないものねだり」。KANA-BOONの名曲を、女性ボーカルをゲストに迎えてコラボ

    ――撮影時のトラブル!「本当に一発撮りだと証明された回」なんてコメントもありました。

    清水:鮪さんが「やっちゃった!」って顔をした時、視聴者も一緒にドキドキするじゃないですか。

    共感って、僕らが狙って作れるものではないんですよね。予定調和ではない、素の部分にこそ共感が生まれる。この場合は、泣ける感動の意味の共感ではなくて、緊張感が伝わる動揺の共感ですが、やり直しが効かないからこそ生まれたこの一瞬を記録できたのは、うれしかったです。

    ネクライトーキーのもっさちゃんと歌った「ないものねだり」 めちゃくちゃ相性良いですね。 男女でこの曲を歌うという夢が叶ってとても嬉しいです。 お互いに痛恨のミスをかましてしまいましたがこれもFIRST TAKEならではということで…。笑 ステージでも一緒に歌いたいね。 https://t.co/iPuswDiwlA

    ――ファンからしたら、むしろ貴重な瞬間ですよね。

    清水:アーティストの皆さんには、撮影前に「ミスも音楽だと思っています」と丁寧にお伝えしています。完璧じゃなくてもいいです、それも魅力になります……と。

    そして、ファーストテイクはレコーディングではなく、ライブパフォーマンスですとお伝えしています。そうお話すると「なるほど、ミスやトラブルも、ライブのひとつの魅力ですね」と理解していただけるんです。

    ピンチだからこそ全力で

    ――逆に「さすがにこれはヤバいかも」とピンチだったことはありますか?

    スタッフ:チャンネルが立ち上がった当初は、キャスティングにとても苦労していました。どんなチャンネルに成長していくかもわからない中、出ていただく方も不安だったと思います。今はありがたいことに「出演したい」と言ってくださるアーティストの方々が多数いらっしゃいます。

    清水:撮影自体も、実は毎回何かしらピンチは起こっています(笑)。

    スタッフ:映像には表れてないところで(笑)。細かいことはいろいろありますよね。

    清水:アーティストによって「白いスタジオ」の中に入って感じることは違うので。

    例えば加藤ミリヤさんからは、当日に「椅子に座って歌いたい」というご希望をいただいて。いろいろ検討した末、ドラムセットの椅子に座っていただきました。ギリギリまで迷ったのですが、結果的に衣装の雰囲気ともあった素敵な絵になりました。

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    加藤ミリヤ「Aitai」。自身が「好きで嫌いな曲」と語る思い入れのある1曲をピアノアレンジで

    緻密に準備する映像制作の世界では「急にはできません」となりがちですが、その時のインスピレーションを大事に、自由にパフォーマンスをしていただきたいんです。アーティストがやりたいことを全力でやりきりたいと、毎回強く意識しています。

    現場の“熱”が画面を通して伝わっている実感

    ――チャンネル登録者数300万人を超える人気チャンネルに成長しましたが、ここまで来る中で「これはいけるかも」と手応えがあった瞬間はありますか?

    スタッフ:具体的なポイントではないのですが、こちらがやりたいことが視聴者の方にちゃんと伝わっている、YouTubeのコメントやSNSを見て、コミュニケーションできている実感が初期からあったので、早い段階で自信が持てた気がします。

    撮影現場で僕らが「ぐっときて泣きそう」とか「これは心に響くなぁ」と思ったことが、そっくりそのままコメント欄で言及してもらえているんですよね。

    北村匠海(DISH//)の「猫」は、俳優・アイドルとしての印象が強かった北村匠海さんの唄力が伝わり、ヴォーカリストとしての魅力を十二分に伝えられたと思います。

    「こんなにうまいんだ!」「シンガーとしてすごい!」というコメントがたくさんあって、それはまさに現場で僕らが強く感じたことでもありました。だからこそ、今年これだけたくさん聞かれた1曲になったと思います。

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    DISH// (北村匠海) 「猫」。俳優としても存在感を高めている北村のシンガーとしての実力・表現力を感じる1曲。各種サブスクリプションサービスでの配信も好調だ

    この曲は「THE FIRST TAKE」として、初の音源配信にもなりました。

    「猫」は約2年前にリリースされていたカップリング曲で、あいみょんが作詞・作曲を手掛けた曲でした。

    THE FIRST TAKEへの出演をきっかけに、こうして名曲の掘り起こしから、新しいヒットの形を作れたこと、緊張感ある「一発撮り」の映像は、目で楽しむものだけでなく、音源としても価値を持つのだと驚きました。

    ――すでにブランドとして確立されたように見える「THE FIRST TAKE」。これから挑戦していきたいことはありますか?

    スタッフ:「THE FIRST TAKE」だからこその音楽体験をもっと拡張していきたいですね。

    ライブ会場を舞台に、新人からヘッドライナーまでが一同に集結する「THE FIRST TAKE FES」、次なる才能を探すオーディションプログラム「THE FIRST TAKE STAGE」など、「一発撮り」をキーワードに、YouTubeチャンネルの中だけに留まらないさまざまな企画を仕掛けていきたいと思っています。

    もちろんYouTubeチャンネルはこれからも同じペースで新たなコンテンツを公開し、様々なアーティストとの出会いの場として、世界中に発信し続けていきます。2年目もどうぞご期待ください。

    THE FIRST TAKEの一発撮り音源を サブスク配信中! あのアーティストの あの感動が再び。 新たにマスタリング音源化し、 あなたのもとへ。 ONE TAKE ONLY, ONE LIFE ONLY. 一発撮りで、音楽に向き合う。 THE FIRST TAKE ▼Streaming Now https://t.co/8JUEAJeIQk

    「THE FIRST TAKE」とは(Twitter:@The_FirstTake

    「THE FIRST TAKE」(ザ・ファースト・テイク)はミュージシャンによる一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル

    「白いスタジオに置かれた一本のマイク。ここでのルールはただ一つ。一発撮りのパフォーマンスをすること。」をコンセプトに、高画質・高音質で収録した映像を配信している。演出を徹底的に削ぎ落とし、“音楽そのもの”を際立たせた、新しい感覚の音楽コンテンツ。

    昨年11/15(金)にローンチし、ローンチから約1年でチャンネル登録者が300万人を突破、さらに動画総再生数が6億4000万回を突破するなど、公開する動画がSNSでも話題になっている。

    グローバルチャンネルとしての注目度も高く、また最近では、J-WAVE(81.3FM)「SONAR MUSIC」とコラボレーションしたラジオのレギュラー番組「THE FIRST TAKE MUSIC」の放送が始まるなど、今もっとも注目を浴びているYouTubeチャンネルである。

    THE FIRST TAKE MUSICとは

    「THE FIRST TAKE MUSIC」のレーベルコンセプトは“THE FIRST TAKEから生まれる新曲”と“THE FIRST TAKEで公開された新たな音源を「From THE FIRST TAKE」としてリリースする”こと。

    すでに「LiSA×Uru - 再会 (produced by Ayase)」などのコラボレーションが誕生しており、さらに配信に特化し、今後のデジタルメディアプラットフォーム「THE FIRST TAKE」の動きを加速していく。

    12/25にLiSAの「紅蓮華」をはじめとする計30曲、12/31にはmilet「inside you」の「- From THE FIRST TAKE」音源の配信が決定。各サブスクリプションサービスで配信されている「THE FIRST TAKE MUSIC」プレイリストも総勢38組のアーティストが参加し、計58曲にのぼるなどますます充実する。

    THE FIRST TAKE STAGEとは(Twitter:@TFT_Stage

    「THE FIRST TAKE STAGE」は、これまで数多くの一発撮りのパフォーマンスを届けてきた「THE FIRST TAKE」が、まだ見ぬ本物のアーティストに出会うために用意したオーディションプログラム。

    優勝者には「THE FIRST TAKE」への出演と、配信専門レーベル「THE FIRST TAKE MUSIC」からのデジタルリリースが約束される。

    ルールは「THE FIRST TAKE」と同じ、“一発撮り”のパフォーマンスでの選考となる。

    選考ポイントは「一発撮りのパフォーマンスを通して、自分の人生を、自分らしく表現できていること」。