テレビでもライブでも「見たことない」一瞬を。300万人突破、超人気「一発撮り」YouTubeチャンネルの裏側

    真っ白な空間に置かれた1本のマイク。ここで放たれるアーティストたちの“本気”。奇跡の一瞬が生まれる裏側を聞きました。

    2019年11月、彗星のように現れたYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」

    画面に映るのは、真っ白なスタジオに置かれた1本のマイク。

    対峙するアーティストは、やり直しの効かない「一発撮り」のパフォーマンスに挑む。その緊張感あふれる様子を、高画質・高音質で鮮明に収め、配信している。

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    LiSA「紅蓮華」。2019年12月、チャンネルスタート直後に配信され、現在までに9200万回以上再生されている

    映像としてのクオリティの高さ、アーティストの本気を感じられる新たな音楽体験が人気を呼び、1年間で急成長。

    チャンネル登録者数は300万人を超え、うち3割のリスナーは海外からと世界から注目を集めている。LiSA「紅蓮華」は9200万回超え、DISH//(北村匠海)の「猫」は8300万回以上再生される人気だ。

    「THE FIRST TAKE」というプロジェクトはどのように生まれ、育ってきたのか?

    プロジェクトの運営スタッフ、クリエイティブディレクターの清水恵介氏に、急成長チャンネルの成長秘話を聞いた。

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    DISH//(北村匠海)「猫」。ファンには知られていたあいみょん作詞・作曲のカップリング曲が、この動画で知名度が急上昇。隠れた名曲に一躍光が当たった

    「一発撮り」にたどり着くまで

    ――THE FIRST TAKEを象徴する「一発撮り」というアイデアにはどんな風にたどり着いたのでしょう?

    スタッフ:最初に考えていたのは「既視感がない映像コンテンツ」を作りたいというイメージでした。

    清水:音楽番組は、ライブ感はありますが、どうしても新曲のプロモーション要素が強かったり、ミュージックビデオ(MV)は、楽曲の世界観を伝えるのには適していますが、歌の魅力をダイレクトに伝えられているかというとちょっと……。

    Web上にある「歌ってみた」動画は、個性が面白いけど、音質や画質が物足りない――それぞれのコンテンツの魅力と足りないものを洗い出していきました。

    「THE FIRST TAKE」を立ち上げる上で、必要だと思った要素は3つです。「テレビでは見られない生々しいリアリティー」「ライブやフェスでは見られない目の前でアーティストが歌っているような視点、解像度」「MVにはないドキュメンタリー感」

    これらを満たすものを作ろうと具体的に考えていきました。

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    女王蜂「火炎」。ステージパフォーマンスとは違う臨場感、迫力を楽しめるのがこのチャンネルの魅力

    ――なるほど。真っ白な空間が強烈ですが、そのイメージが先にあったわけではないんですね。

    清水:はい、ボツになったアイデアもいろいろありました。例えば「屋上で撮ろうか?」とか。毎回同じ場所だけど、晴れた日も雨の日もあるのは面白いかなと。

    スタッフ「さすがに天気が悪くなったら難しい」となってやめたんですよね(笑)。

    清水:あとは場所で特性をつける方向も考えました。普段はアーティストが絶対歌わないような場所――スナックとか銭湯で撮影するとか

    でも、やっぱり届けたいのは歌や歌詞そのものの魅力であり、命を燃やして歌うアーティストの姿そのものだな、と。

    たどり着いたアイデアが無駄な演出を極力排除して、高解像度・高音質で見る人に没頭してもらう「一発撮り」でした。

    スタッフ:一発撮り自体は珍しいことではなくて、例えば生放送の音楽番組も、その場限りの一発ですよね。テレビの前でドキドキしながら見るあの緊張感をYouTubeでどう伝えられるだろう? と考えていきました。

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    鈴木雅之「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」。2人のシンガーの掛け合いが「かっこよすぎる!」と話題に

    ――確かに不思議な緊張感がある映像になっていますよね。

    スタッフ:実は、本番が始まるタイミングでスタジオからスタッフは誰もいなくなります。ファンが目の前にいるライブとも、スタッフやカメラに囲まれたテレビの音楽番組とも違いますよね。

    この空間でアーティストがどこまで歌に向き合えるか。僕らもその緊張感とエネルギーをいかに受け止められるか、いつも全力で向き合っています。

    世界で愛されるアニソン 海外リスナーが3割

    ――チャンネル登録者の約3割が海外からと聞いて驚きました。コメント欄もかなり英語が目立ちます。

    スタッフ:LiSA、TK from 凛として時雨、Cö shu Nie(コシュニエ)など、海外でも人気の高いアーティストの出演やアニメ主題歌の楽曲から発見してくださっている方が多いようです。「YouTubeではこんなに世界と繋がれるのか」と改めて認識しています。

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    TK from 凛として時雨「unravel」。TVアニメ「東京喰種」のオープニングテーマとして書き下ろされた曲で国内外から人気

    海外のリスナーにも楽しんでいただけるように、歌詞やインタビューにはできるだけ字幕を付け、積極的に多言語化にも取り組んでいます。

    今後は状況を見ながら、欧米やアジアのアーティストにも、もっと出演してもらいたいです。

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    今年日本デビューを果たした世界的人気を誇る韓国のボーイズグループ・Stray Kidsも登場。韓国と日本をリモートで繋ぎ一発撮りした

    「今だからこそ」ステイホーム期間も作り続けた

    ――12月23日にチャンネル登録者数300万人を超えました。たった1年で凄まじい成果ですが、どこかで一気に伸びた瞬間があったのでしょうか。

    スタッフ:著しく増えたのは緊急事態宣言のステイホーム期間です。1カ月ほどで100万人増えました。

    ――一気に100万人!

    スタッフ:視聴者の皆さんの在宅時間が増えたというのに加えて、その状況でもスタッフでアイデアを出し、撮影を工夫して、新しいコンテンツの公開を続けていたのが理由かなと思います。

    清水:スタジオで収録ができなくなって、アーティストの自宅やプライベートスタジオで一発撮りをしてもらう「THE HOME TAKE」という新企画を始めました。

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    紅白歌合戦初出場も発表されたYOASOBI 「夜に駆ける」。バイラルチャートではすでに人気だったが、この動画でさらに火がついた。現在までに7300万回以上再生されている

    ――さらっと言いますが……その状況で同じクオリティのものを作り続けるのは大変ですよね?

    スタッフ:大変でした(笑)。撮影マニュアルを急ピッチで作って、慣れないリモート環境でカメラ越しにディレクションするのに大変苦労しました。

    清水:絶対に苦労するのはわかっていたんですけど、コロナ禍で、日本中、世界中が大変な状況だからこそ絶対にTHE FIRST TAKEを止めたくなかったし、今だから伝えられる音楽のパワーがあると思ったので。やってよかったです。

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    milet「inside you」。各アーティストの自宅をスタジオ風にして収録した

    「数字では測れないもの」を残すために

    ――エンターテインメントにとって逆境とも言えるタイミングをチャンスにできたのは達成感があったのでは?

    スタッフ:チャンネル登録者数や再生数として返ってくるのは、非常にありがたかったですし、YouTubeやSNSに書き込まれるコメントで反響を実感していました。

    とはいえ、常に新しいことにチャレンジし、立ち止まらず、満足せずに、粛々と続けていく、コンテンツを作り続けていくのが最優先だと思っています。

    清水:再生数や登録者数は、多くの人に届いたというひとつの指標としては意味がありますが、それだけが価値ではないです。

    多く見られることだけではなく、深く届くことが大事な時もあると思うので、数字だけを追わずにその両方を大事にしたいです。

    再生数にとらわれず、「すごいよかったなぁ」と心に残っている作品がたくさんあって。YouTubeのこれからを考えた時に、数字では測れないものが残っていくのってすごく大事なことだと思うんです。

    YouTubeはアーカイブとしてずっと残るのも魅力ですね。何年か後に見返した時に「これ、すごくない?」と再発掘されるようなものをコツコツ作っていきたいと思っています。

    【THE FIRST TAKE MUSIC】 チャンネル登録者300万人突破記念! #LiSA(@LiSA_OLiVE )「#紅蓮華」をはじめとする 、 THE FIRST TAKE音源を配信中! ▼Streaming Now https://t.co/M3nPgVuFlW #THEFIRSTTAKE

    「THE FIRST TAKE」とは(Twitter:@The_FirstTake

    「THE FIRST TAKE」(ザ・ファースト・テイク)はミュージシャンによる一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル

    「白いスタジオに置かれた一本のマイク。ここでのルールはただ一つ。一発撮りのパフォーマンスをすること。」をコンセプトに、高画質・高音質で収録した映像を配信している。演出を徹底的に削ぎ落とし、“音楽そのもの”を際立たせた、新しい感覚の音楽コンテンツ。

    昨年11/15(金)にローンチし、ローンチから約1年でチャンネル登録者が300万人を突破、さらに動画総再生数が6億4000万回を突破するなど、公開する動画がSNSでも話題になっている。

    グローバルチャンネルとしての注目度も高く、また最近では、J-WAVE(81.3FM)「SONAR MUSIC」とコラボレーションしたラジオのレギュラー番組「THE FIRST TAKE MUSIC」の放送が始まるなど、今もっとも注目を浴びているYouTubeチャンネルである。