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他人の写真でもOK!? 意外に自由な選挙ポスター。それでもみんな「似てる」デザインになる理由

全部同じに見えちゃう選挙ポスター。もっと個性的なもの、おしゃれなものがあってもいいような…。なぜ「似てる」ポスターばかりになってしまうんでしょうか?専門家に聞きました。

「選挙ポスター、もっとおしゃれなデザインがあってもよくない?」

「名前とキャッチコピーだけじゃ、似たりよったりで判断できないよ!」

7月10日投開票の参院選を前に、BuzzFeed Newsが選挙に関する質問を募集したところ、読者からこんな声が寄せられました。

選挙ポスターはなぜ、同じような見た目になりがちなのでしょうか?

地方選挙から国政選挙まで全国各地で幅広く関わる、選挙コンサルタントの大濱崎卓真さんに聞きました。

似顔絵でもOK!実は規制はほとんどない

――選挙ポスターってどの候補もだいたい似た雰囲気ですよね。規定があってどうしてもこうなっちゃう、とかなんでしょうか。

法律の規定は、原則としてサイズの制限だけです。逆に言うとそれ以外は、虚偽の情報や誹謗中傷などでない限り許されています。

たいていの候補は顔写真が入っていますが、イラストでもいいし、なくてもいいし、極論を言えば、他人の写真でもいいです。

――ええっ、そうなんですか! 他人の顔でも…それはそれで別の問題がもちろんありますけど!

顔写真も、最新のものを使わなければいけないこともありません。

何度も選挙を経験している人の中には、若い頃の写真をずっと使い続けている人もいます。

有権者にとって「同じ顔」の方が覚えやすいだろうという理由もありますし、若い頃の方が見た目がよいと好んで選ぶ方もいます。

国政選挙のポスターは似た印象かもしれませんが、地方の選挙になると街の文化があるケースもありますよ。

例えば、こちらは和歌山県高野町の選挙ポスターですが、ちょっと独特ですよね。名前の楷書だけ。

このスタイルは、門前町、お寺の近くの自治体に多いですね。

――えええ!知ってる「選挙ポスター」のイメージと全然違います。

沖縄県の選挙ポスターも個性的です。カタカナが多い。

――「ミキオ」もカタカナ。

全国的にはひらがなにすることは多いですが、沖縄はカタカナ多めです。

今はもう合併で名称が変わりましたが、「コザ市」という当時の日本で唯一のカタカナ表記の市もありましたし、文化的にカタカナとの親和性が強いのかもしれません。

意外に自由じゃん!なんで似た感じになっちゃうの?

――法的な規制がなくても、選挙ポスターがどれも似た印象になってしまうのは、なぜなんですか?

やはり、入れたい情報はどの候補もほぼ同じだからです。

名前と顔写真、キャッチフレーズ、それから政党のロゴは入れたい。メインカラーを1色か2色決めて……となると意外にバリエーションがなくなるというのが正直なところです。

最近の選挙ポスターの名前を見ると縦書きが多いのですが、これは今のトレンドですね。

投票用紙って縦書きじゃないですか。いざ投票所で名前を書いてもらう時、ポスターで見たものを思い出して、そのままなぞるように書く方が、横書きの文字列を一度縦に変換するよりは書きやすいのでは? という。

――考えたこともありませんでした。そんなに違うのかな!?

たとえ一瞬でも「面倒だな」と思わせたくないですからね、候補者としては。

ポスターに記載する名前を一部ひらがなにする人が多いのも同じ理由です。

みんなが「目立つ」ことを考えた結果…

――でも、もうちょっとおしゃれなデザインがあってもいい気がしますけど。

業界の中から見ると、実は少し前には「人と違うデザイン」というトレンドがあったんですよね。有権者のみなさんに伝わっているかはわからないですが……。

でも、このところは奇をてらうよりも「わかりやすくて、印象に残る」がトレンドになっている気がします。SNSのアイコン的というか「顔と名前をセットで押し出す!」という感じです。

特徴的なところで言うと、フォント。

今、選挙ポスターに使われているフォントは、ボールド(太文字)のゴシック体が圧倒的に多いです。フォント名でいうと、「新ゴ」「ヒラギノ角ゴ」はかなり多い印象があります。

以前は明朝体もそこそこあったのですが、文字のインパクトはどうしてもゴシックの方が強いですもんね。

――「わかりやすく、印象に残る」を各陣営が追求した結果、似た印象になっちゃう…?

そういうことですね(笑)みんな考えることは同じという。

選挙ポスターは横並びで張り出されるので、どうしても意識するポイントは「目立つ」になります。数ある中から少しでも目線がほしいわけですから。

となると、他の候補がみんなボールド!ゴシック体!でグイグイ押し出してきているのに、一歩引いたデザインにするのは怖さがありますよね……。

差別化はできるだろうけど、それが吉と出るか凶と出るかわからないな、という感じです。

もっといろいろ情報がある方が便利じゃない?

――キャッチコピーだけではなく詳しい政策を書くのはできないんですか?QRコードを入れたりとか。

QRコードも入れられますよ。ただ、個人的にはあまりおすすめしていません。

仮に、ちょっと興味がある候補者がいたとして、掲示板に貼ってある選挙ポスターにわざわざカメラを向けるでしょうか?

――う〜〜ん、ちょっと恥ずかしいかも…。それならスマホでさっと検索する気がします。

そうですよね。政治のことをオープンにするのを恥ずかしがる傾向がある日本では、衆人環視の中で、「立ち止まってQRコードを読み込む」というアクションはかなりハードルが高いと思うんです。

他にポスターをじっくり見ている人もそういないですし。

せっかくポスターに乗せるのであれば当然アクセスしてもらいたいわけですが、正直なかなか効果はないと思います。それなら、そのスペースを他の場所に使うほうが「選挙ポスター」の役割としては有用かなと。

郵便受けに投函するチラシに乗せるとかにQRコードを載せるのは、とてもいいと思うんですけどね。

家で一人でじっくり読んだうえで、さらにWebサイトにもアクセスするアシストとしてなら、意味があると思います。

でも「とりあえずポスターにも載せとこ」「載せたんだからみんなアクセスしてくれるでしょ」というスタンスだと、有権者の心理を考えるとあまり得策ではないかなと思います。


7月10日に投開票日を迎える参議院議員選挙。

なんで選挙カーってあんなにうるさいの? ネット投票まだ? 投票方法から選挙の仕組み、選挙運動の謎までーー。

BuzzFeed NewsのLINE公式アカウントやInstagramに読者のみなさんから寄せられた「#選挙のなんでなん?」を、記者が取材しました。