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今もゴミ袋で防護服を手作り――医療現場で続く物資不足。「使い回し」を「使い捨て」に戻すために

全国の医療機関に10万枚のプラスチックガウンを無料配布する、有志によるキャンペーンがスタートした。第1波をなんとか持ちこたえたが、物資不足は改善されないまま、医療現場は疲弊している。

新型コロナ対応に当たる医療従事者を「丸裸」で立たせない事を目標として、有志により立ち上がったプロジェクト「"最前線にマスクと防護具を"実行委員会」(@covid19maskjp)

4月に発足し、全国の病院や施設にN95マスクやサージカルマスクなどの個人防護具を届けてきた

そんな彼らが7月、計10万枚のプラスチックガウンを配布するキャンペーンを始めた。支援者からの寄付を元手に、信頼できる品質の商品をまとめて輸入。希望する医療機関に無料で贈る。

新型コロナの影響が長引き、疲弊する医療現場。マスクやアルコール不足は一時大きく報道されたが、世間の注目は薄くなってしまった今も、一部の個人防護具は「使い回し」や「代替品」を使っている医療機関が多いという。

今、現場の状況は。 同プロジェクトの発起人の一人である、三陸アーカイブ減災センター代表理事・秋山真理さんに聞いた。

本当は使い捨てなのに…「再利用」が常態化

本来、1日に何度も交換し、使い捨てるプラスチックガウン。1人の患者に1日10枚ほど「使い捨て」で使うことがスタンダードだった。

しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、個人防護具の世界的な争奪戦が勃発。

厚生労働省は4月14日、本来「使い捨て」の個人防護具の例外的取り扱い、「再利用」や「代替品」の使用の留意点などを周知した

感染拡大が続くなか「可能な限り再利用を」という周知が広がった結果、常態化。「3日に1回」「目に見える汚れが付着したら」など使いまわし前提の運用が続いているケースや、今なおゴミ袋で代用品を自作している病院もある。

医療従事者向けに6月におこなったアンケートでは、こんな悲痛な声が寄せられた。

「使い回したり制限したりして何とかやりくりしているのを『足りている』と捉えないでほしい

「COVID-19対応が始まった当初(当院では2月下旬)から、今に至るまで、十分な物資があったとは言えません。日々の診療や看護を行いながら、ゴミ袋で防護具を作り続けるのは、安全面での不安もそうですが、なにより、自分たちは守られていないんだという無力感を増幅させています

当然ながら、「使い回し」や「代替品」は、医療従事者の感染のリスク、院内感染のリスクを高める。同キャンペーンには、感染症の専門医が以下のようなコメントを寄せている。

これまでは、PPE(※N95マスクやプラスチックガウンを含む個人防護具一式のこと)を節約して「事故なくなんとかやってきた」とは思うのですが、クラスタが起こったところはほぼ必ず職員から、「PPEを十分買ってもらえなかった」という声が聞こえてきます。

「PPEの使いまわし」が、感染制御の現場ではとても大きなウエイトを占めているといった印象です。(北海道科学大学 岸田直樹さん)

「ようやく市場に個人防護具が出回るようになり、まもなく医療機関に補助金が下りる今、感染のリスクと不安を最小にするために『再利用』から『使い捨て』をスタンダードにしてほしい

秋山さんはそう訴える。

1枚20円が10倍に

なかなか「使い捨て」に戻らない理由はなぜか。

さまざまな要因があるが、病院の経営状況が悪化している上に、物資自体が高騰しているのも大きい。

病院にとって、新型コロナ対応はやればやるほど赤字だ。大きな病院になると、毎月億単位での損失が続いている。

プラスチックガウンは、新型コロナ前は1枚20円台だったのが、現在は10倍ほどの高値になって購入しにくい状況が生まれている。

歯科医院の悲鳴

政府や自治体がまとめて確保し、配給する策もとっているが、ここにも難しい問題がある。

「我々がお話を聞く限り、国が直接連絡をとっている新型コロナウイルスの患者さんを受け入れる医療機関を中心に配られているようです。当然のことながらまだ行き渡っていない医療機関がある」(秋山さん)

例えば、「身の危険を感じる」とN95マスクを中心に問い合わせが多いのが歯科医院だ。

口の中を覗き込み、近距離で患者と対峙する歯科医。唾液や血液などの飛沫が飛び、エアロゾルも大量に発生するなど、感染の危険は高い。

だが、新型コロナの患者を直接診るわけではない以上、どうしても国や自治体からの支援は少なくなってしまう。

機材や物資など、感染対策のための出費は積み上がるが、医院の収入は減り、スタッフたちの緊張状態は続く。いつまで耐えればいいのかわからない状況に、「自分たちにも目を向けてほしい」と切実な声が届いているという。

「歯科における感染予防対策に『もったいない』は存在しないと思います。しかし、ガウンや高性能マスクをはじめとするPPEの価格はつりあげられ、供給もままなりません。毎日、目を皿のようにして探し、何とか綱渡り状態で凌いでいるのが現状です」(ハマダデンタルクリニック 浜田亮さん)

「歯科は歯を削ればエアロゾルが飛散し、個人の歯科医院では普及率の低い高価な口腔外バキュームも必要になりました。収入が減り、支出が増大し、スタッフの生活を守るには今の保険点数では無理です」(谷口歯科医院 谷口勇さん)

今回のプラスチックガウン10万枚配布は、すべての医療機関、医療従事者が対象だ。秋山さんは、コロナ治療と直接関係はない病院や街のクリニック、歯科医院にもぜひ申し込んでほしいと話している。

「もう何ヶ月もこんな生活しんどいです」

4月から休みなく、マスクや防護服の確保に奔走してきた同実行委員会。ちなみに7月末の今、最も問い合わせが多いのは意外なことに「サージカルマスク」だという。

一般向けのマスクは市場に出回りはじめているが、医療用のものはまだまだ供給が追いつかない。N95よりもさらに多くのスタッフが日常的に使うサージカルマスクですら、品薄が続いている。

物資も少ない中、なんとか第1波をしのいできた医療従事者たち。感染が再拡大し、収まる理由が見えない中、気持ちの糸が切れかけているのを肌で感じているという。

「医療従事者がどれほど長い期間、自身が罹らないように院内感染を起こさないように、と緊張を強いられているか」「本来緊張状態はそれほど長く続かないもの。日々のストレスは極めて大きい」

単に「ベッドが空いている、重症患者が少ないから医療は逼迫していない」というのではなく「医療従事者がどれほど長い期間自身が罹らないように院内感染を起こさないように」と緊張を強いられているか。そこにも注目してほしい。本来緊張状態はそれほど長く続かないもの。日々のストレスは極めて大きい

現場の声に耳を傾ける中で秋山さんが感じたことを書いたこのツイートは、8500回以上リツイートされ、切実な反応が多く寄せられた。

「主人は電車も極力乗りませんし本当気をつけてます… もう何ヶ月もこんな生活しんどいです」

「本当にそう。半日PCRの介助につくと、ぐったりと疲れる。フルでPPEを着る以外たいしたことはしていないんだけど、感染に繋がるミスをしないように気を張っている」

「現場の精神的、肉体的疲労を考えてほしい。もう、8月の感染拡大が率直に怖い。 無事に夏を越えても、冬のインフルエンザなどの流行もあるだろうし、そうなった時に医療従事者の疲労がもたないのではないか」

「患者さんに感染させないように、院内感染を起こさないように……院内でもプライベートでも長いところでもう半年以上緊張が続く。賞与カット、同僚の医療従事者がコロナで亡くなったケースなどもあり、場合によっては心のケアが必要な状況も見られます」

「影響が長期化する中で、院内感染のリスクを最小にするためにも、医療従事者の不安や感染リスクを減らすためにも、せめて常態化している『使い回し』からコロナ以前には通常だった『使い捨て』が『原則』になるよう、国・厚生労働省、自治体、それぞれの医療機関で取り組んでいただきたい」

プラスチックガウンは8月17日まで専用フォームから、N95マスクは公式サイトから、それぞれ希望する医療機関が申し込める。一般市民や企業からは、N95マスクの寄贈や活動資金の寄付を募っている