2018年のドラマ界を席巻した「おっさんずラブ」。ドラマアワードを多数獲得、「新語・流行語大賞」トップ10にノミネートされるなど、社会現象とも言える大きな話題を呼んだ。
実は放送当初の視聴率は振るわなかった本作。SNSでじわじわと人気を拡大し、終盤には2週連続でハッシュタグがTwitter世界トレンド1位に輝いた。
熱いファンの愛と声援が大きなムーブメントにつながっていった。
そんな大旋風を起こした「おっさんずラブ」の続編、『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』が8月23日に公開される。
ドラマでは春田創一(田中圭)、牧凌太(林遣都)、黒澤武蔵(吉田鋼太郎)の三角関係が中心のストーリーだったが、新キャストとして沢村一樹と志尊淳の2人も参戦。
まさかの五角関係に? ドラマ版で結ばれた春田と牧の関係のゆくえは?
ドラマ版からさらにスケールアップした劇場版。ファンの期待を背負い続けてきた、瑠東東一郎監督と脚本・徳尾浩司さんに見どころを聞いた。
大旋風でも「僕自身は、無風です(笑)」
――華々しい受賞歴に流行語大賞トップ10と、放送後も話題になることが多かった「おっさんずラブ」。ご自身も変化は感じましたか?
徳尾:旋風は……僕自身はあまり感じていないです。全然、無風です(笑)。
でも、流行語大賞はさすがにびっくりしました。「世間的に知られていたんだな」と初めてちゃんと実感したのはその時かもしれません。
瑠東:放送中のTwitterトレンド世界一も純粋に嬉しい! とは思いましたが、僕らは作ることに必死であまり実感していなかったですね。
徳尾:スタッフは裏方ですからね、無風なのがいいです。(田中)圭さんは忙しそうですし、嵐のようだと思いますが(笑)。
誰かと家族になるってどういうこと?
――ドラマ版全7話のラストも、うやむやにせずきちんと結論を出して着地していました。続編制作はどのタイミングで決まったのでしょうか?
徳尾:ドラマはドラマでしっかり終わらせよう、とはプロデューサーも含めスタッフみんなで共有していました。映画が決まったのは、ドラマの放送が終わって一段落した頃ですかね。「次、何しよう?」もそこから検討し始めました。
連ドラの内容、特に春田が牧にプロポーズしたことは大切にしたい、そこからどうバトンを受け継ぐか、という視点で考えていきました。
「結婚しよう」とは言ったものの、本当にするのかしないのか、1年経ってお互いにどんな感情が芽生え、どんな環境の変化があったのか……。
いろいろ思案する中で「誰かと家族になるってどういうことだろう」というテーマが浮かんできたんです。20〜30代って多くの人が、大切な人とこれからどんな風に人生を歩んでいくか葛藤する時期ですよね。
仕事を頑張りたい、相手の夢もできるだけ尊重したい、その上でこの人と家族でありたい、一緒にいる時間を大事にしたい――男女問わず直面する“夢と家族”の悩みに向き合おうと思いました。
プレッシャーは世間の目より…
――ドラマがあれだけ話題を呼んだ後の続編ということで、制作陣にはプレッシャーもあったのでしょうか。
瑠東:世間的な注目というより、自分の中でのプレッシャーがありました。映画をやる以上ドラマ版を超えたいし、超えなくてはいけないじゃないですか。でもそれは、1年前に自分たちがベストを出し尽くしてゴールしたものに挑まなくてはいけないってことで。
徳尾:ああ、そうですね。「映画はさらに面白くしなきゃ!」という思いは強かったかも。世間の目より、作品に対しての責任ですよね。
瑠東:そうそう。やってやるぞ! とわくわくするし燃えているんだけど、心のどこかに「超えられるのか?」という不安はずっとありました。
――「これはイケる!」と思った瞬間はありましたか?
瑠東:初期のプロットの段階からこれは面白いものになるとは思っていたんですが……監督なのでいざ撮ってみないと確信は持てなくて。
初日に、冒頭の香港で春田と牧が出会うシーンを撮った時に「これだ! 帰ってきた!」という手応えがありました。
――現場で生まれた演技やセリフも多かったのでしょうか?
徳尾:実際は他のドラマとそんなに変わらないと思いますけどね、僕の台本が特別粗いわけではないはず(笑)。
ただ、漫画原作などがないオリジナルストーリーなので、キャラクターに自由度がある点は大きいかもしれないです。現場が窮屈じゃなく、役者も生き生きとしている。
「うおい!」って突っ込むところを「うえええ!?」としても成り立つし、「はぁあ?」と言ってもいい。そのニュアンスも監督が懐深くハンドリングしてくれる。自分で書いたセリフでも新鮮に感じますよ。
――脚本家さんの目から見てもそうなんですね。
徳尾:正確に言うと、自分が書いたことは結構忘れているので、どこまでがセリフでどこからが演出かあまりわかってない(笑)。でも、撮っていてもそうですよね、きっと。
瑠東:そうですね。これはよく言っているんですけど、作品によっては、これ以上セリフを広げようがない、無理やりやろうとするとサムくなってしまうものも少なからずあるんです。『おっさんずラブ』の脚本にはそれがない。
本人に寄せて書いてくださっているのもある上に、演じている皆さんが本当にその世界に生きてくれているので、相乗効果で“生っぽい”会話になるんだろうなと思います。
徳尾:あとは、単純に役者がみんな上手いので、シーンとセリフの意味を把握した上で、自分なりの演技をぶつけあう形になっています。
――特に印象に残っているシーンはありますか?
瑠東:全部ですよ(笑)。特にって言ったらどこかなぁ……やっぱり炎の中のクライマックスシーンかなぁ。僕らスタッフも涙しちゃって……。
徳尾:あそこはすごかったですねぇ、すごくラブストーリーでしたね。って最初からラブストーリーなんだけど(笑)。これからご覧になる方はぜひ期待してほしいです。
僕は志尊(淳)くん(山田正義役)との水辺のシーンかな、その2つがパッと思いつきますね。あと部長のターザン! あそこも大好きです。
――一連のシリアスなシーンの中の一瞬のコミカルさ! あそこは確かに見どころですね……!
ピュアな「愛の暴走」の描き方
――ドラマ版も楽しく拝見したのですが、「王道恋愛ドラマ」というコンセプトはわかりつつも、特に部長から春田、つまり上司から部下への愛情表現には視聴者からの賛否があったのではと想像しました。今回の映画制作を含め、そのあたりで意識したことはありましたか?
徳尾:これは2016年の単発版から一貫して描いていることですが、大前提として、春田が部長のことを上司として大好きで尊敬しているんですよね。仕事人として大好きで尊敬している人から、恋愛的な意味で迫られるから戸惑っている。
これが、例えばあまり関係性のできていないマロ(栗林歌麻呂)に対して、部長が同じことをしていたら成立しないかもしれない。笑えるかどうかはそれまでの関係性や、お互いの信頼関係に尽きるのではないかと思います。
そして、春田としては「相手が男だから気持ち悪い」ではなく「好きなんだけど、その好きじゃない!」というリアクションなので、ハラスメントに対するものとはまた別だと思っています。
瑠東:まず、個人的な意見として僕は部長の「愛の暴走」はピュアでおもしろくて大好きです。
もちろん愛情表現のあり方はセンシティブで気を遣うべきというのが前提ですが、この物語で描きたいのはもっと深い愛の部分。僕らがいたずらに守りに入りすぎるのも、真っ直ぐな恋心の勢いが伝わらない気がして、そのバランスを常に模索していました。
ドラマと映画を通じて意識していたのは、愛がまっすぐぶれていないかどうか。そして、「人を傷つける笑いは絶対しない」ということです。
徳尾:あとは、ドラマ作りって僕らだけでやるものじゃないので、プロデューサー陣に意見を求めながら、可能な限り適切な表現を探していきました。製作現場でも互いに何でも言い合える信頼関係があったから生まれた作品だと思います。