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古代ローマの宴から新撰組の食卓まで  数千年の時を超え「当時の食事」を再現する人がいる

文献を読んでレシピを研究し、古今東西の歴史料理を再現する男性がいます。もともと料理が好きで…?と聞くと「いや違うんです。突然目覚めたんですよ」。一体どうして?

「音食紀行」は、そんな思い浮かべることすらできない世界各国の数百年、数千年前の歴史料理を再現するプロジェクトだ。

東京を中心に、月に数回程度、数十人規模の料理会を実施している。珍しい料理を食べられるだけでなく、当時の音楽の生演奏や専門家によるトークも盛り込む。

「音食紀行」を1人で企画・運営するのが遠藤雅司さん。彼は料理人でも歴史の専門家でもない。会社で働きつつ、週末を使って活動している。

「いや……それが全然違うんです。ある日突然目覚めたんです。それまで料理なんて、積極的にやったことはありませんでした」

運命のパエリア

遠藤さんが本格的に料理を始めたのは、2011年末のこと。

何もアクシデントがなければ、年末年始の休暇を利用して、友人とインドを旅行するつもりだった。しかし、同伴者の急な事情で旅行は直前で中止に。バカンスのために休みを取った約2週間がいきなり白紙になってしまった。

インド旅行で心がいっぱいだった遠藤さんは意気消沈。年末の東京の喧騒の中、何もする気になれず、だらだらとベッドの中でネットの動画を流し見する日々を過ごしていた。

ふとしたきっかけで「スペイン人が教える簡単パエリア」の記事が目に入ったのが転機だった。

手近な材料でお米すら洗わずに作るようなズボラメニューに「これなら自分でもできるかも」という思いが湧き、30分後には食材を調達し、キッチンに立っていた。

「思い立った、としか言いようがないんですよね……とにかく料理を始めたのは、ものすごく暇だったから、です」

手順通りにやれば完成し、結構おいしくできる。完成までのステップと得られる成果が明確なところが気に入った。最初がスペインだったから、次はフランスのガレットを作ろうか。アジアや南米の料理も面白そうだ。

かくして料理に目覚めた遠藤さんは、その後週に1つずつ新たな国の料理を作り続け、2012年の1年間で約50カ国を制覇することになる。

作った料理をFacebookのアルバムにまとめていると、友人から「食べてみたい」という声が上がるようになった。今の「音食紀行」の原型として、大きめのホームパーティーのような形で世界の料理を食べる会を初めて開催したのは2013年5月のことだ。

「この頃はまだ再現料理ではなくて、現代の各国料理でした。歴史と組み合わせることにしたのは、自分が大学時代に研究対象にしていた『音楽』のことを思い出したからです」

食と音楽は切っても切れない

遠藤さんの大学時代の専攻は、音楽。特定の楽器ではなく、作曲理論や歴史を学ぶ分野だった。

自分でもクラシックギターを片手に古代から現代まで世界中のあらゆる音楽を一通りさらい、特にバッハ以前の「古楽」と呼ばれるルネサンス、バロック時代の音楽や楽曲に興味を持った。学内でサークルを作り、当時使われていた楽器リュートやチェンバロを学んだ。

「音楽のことを思い出して、料理も遡れないかな? と思ったのが最初です。珍しい楽器のプロとのつながりもあったので、ある時代の料理と音楽を一緒に楽しめる場が作れたら面白いんじゃないかと」

「レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に、ドレッシングの配合が走り書きしてあったりするんです。それを実際に食べられたら、天才を身近に感じませんか?」

2014年3月に「レオナルド・ダ・ヴィンチの音楽と料理」を開催。音楽と料理を通じて、時代と世界を旅する、「音食紀行」のコンセプトが固まった。

場所も時間も超えて、現代に

しばらくは「バロック音楽と中世フランス料理」「スペイン大航海時代」など、遠藤さん自身の興味に合わせてテーマを設定していたが、徐々に“ネタ切れ”し、集客に苦戦する回も出てきた。

凝り性かつ飽き性の遠藤さんは、リクエストやオファーを受け付けることにした。

「オリエント方面を開拓しよう」と、古代ギリシャ料理の会を主催し、当時の音楽を演奏できる音楽家にオファー。歴史好きのお客さんに「新撰組の食べた料理を食べてみたい!」とリクエストされ、「江戸時代の江戸料理」の会をセッティング。時代性を加えたことで、研究者や専門家も参加するイベントになっていった。

毎回まったく違う時代の料理を作るのは簡単なことではない。日本語や英語の文献にあたりながら、当時のレシピを読み、現代で手に入る食材で再現できるよう、試作を重ねてアレンジしていく。

古代ローマ料理はこのあたりから抜粋いたします。見ての通り、アピキウスの料理帖が大元になります。2冊がその原典をまとめたもの、残る2冊は一章ほどそれに言及しています。どの料理で構成していくか考えたい次第です。どうぞよろしくお願いいた… https://t.co/JnVdjBufCn

「とにかく、おいしい料理を出すことが最優先。テーマがキャッチーでも、料理会である以上、味に満足してもらわなければ意味がありません。次につなげていけるか、常にお客さんにオーディションされている気持ちです」

「私、古代メソポタミア料理が食べたいんです」

一部で話題になった「古代メソポタミア料理会」も参加者からのリクエストだった。

「なんでもやるのでなんでも言ってくれ! とは言ってましたけど『古代メソポタミア料理が食べたい』と言われた時は、その場では何もイメージできなかったです(笑)。楔形文字とハンムラビ法典しか知らないぞ! って」

その名も「最古の料理」という、楔形文字で石板に記された料理を解読した本をベースにレシピを探っていった。

メソポタミアブイヨンいい感じになってます。こちら、古代の楔形文字でタブレットに書かれたブイヨンを引っ張りだして、4000年の時を経て現代日本で堂々再現です。

「困ったことは……スープ料理ばかりなことです。会ではリゾットにアレンジしてコースとして成立するよう工夫しました」

「おすすめはメルス、『かき混ぜる』という意味の焼き菓子です。ドライフルーツとハーブ、そしてにんにくを入れた、お好み焼きのような見た目。現代にはない組み合わせの味で面白いですよ」

#音食紀行 メルス! 「かき混ぜる」という意味の焼き菓子です。ドライフルーツとハーブとニンニクの効いたパンケーキのようなお菓子でした。(ニンニク?って感じですが、意外と美味しい)

漫画やミュージカルを「料理」に

歴史的な側面にフォーカスするだけでなく、漫画や小説、ミュージカルの舞台となった時代をイメージした企画も好評だ。

12月に実施した「19世紀のドイツ・クリスマス食事会」は漫画「軍靴のバルツァー」のファンから寄せられた企画で、過去最大の48人を集めた。「ヘタリア」などドイツやプロイセンに関連する他の作品のファンも訪れた。

軍靴のバルツァー6巻まで読了しました。作中の料理はすべて作れそうです。あとは、1850~1880年代の史実に基づくところを確認していきたい次第です。1700年代以降のドイツ伝統料理は過去作ったことがありましたが、1850年頃の流行も加えられれば幸いです。

19世紀ドイツファンの皆様!プロイセンファンの皆様!音食紀行では、プロイセン国旗を2枚入手いたしました。これで、25日名実ともにアザブ=プロイセン王国に近づきました。この国旗を会場のAzabu House Oneの玄関と会場ホール… https://t.co/21dBGZHzUo

今年は5月に「レ・ミゼラブル食事会 」「シャーロック・ホームズの食卓」を開催予定。どちらもファンのあいだで口コミが広がり、特に後者は100人規模での開催になりそうだという。

「料理で学ぶ世界史、として教育的なところでも生かせるんじゃないかと思ってるんですよねぇ。『トマトっていつからどんな風に使われているの?』を実際に食べて体験してもらうとか」

今年は東京だけでなく、名古屋や福岡、大阪など地方への「ツアー」も決まっている。夏にはこれまで作りためたレシピを出版する予定だ。

「ボランティアや遊びではなく、ライフワークとしてずっと続けていきたいと思っています。これまでも必ずお金をいただいて、赤字を出さないようにしてきましたし、ゆくゆくは事業化も考えていければ」

「僕の理想は、中世宮廷の宴なんです。食べたり飲んだり議論したりの横で、楽団が延々と音楽を演奏している。コンサートホールやライブハウスで聞く閉じられた音楽じゃなくて、食事を軸にした音楽や学びの空間を作りたいんですよね。実は、結構、壮大な話なんです」


バズフィード・ジャパン ニュース記者

Haruna Yamazakiに連絡する メールアドレス:haruna.yamazaki@buzzfeed.com.

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