「人種差別を助長する」「問題の背景を適切に説明していない」ーーNHKが6月7日、Twitterに掲載した動画に批判が殺到。9日に「配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします」と謝罪、削除した。
批判を集めたのは、NHKの番組「これでわかった!世界のいま」の公式Twitterに掲載した約1分20秒の動画。
ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさん(46)が、警察官に首を膝で押さえつけられ死亡した事件を発端に、全米で起こっている抗議デモ。その背景にある「アメリカの白人と黒人の格差について」説明するという動画だった。
白いタンクトップを着た黒人男性がやや荒々しい言葉で、白人と黒人に7倍の貧富の差があること、多くの黒人が新型コロナウイルスの影響で失業や短時間労働を強いられていることを語っている。
動画に加え、補足説明として以下のようなツイートもしていた。
白人警察官には黒人に対する漠然とした恐怖心があって、今回の抗議デモの発端となったような事件がなくならないとも言われているんだヨーソロー。
アメリカ社会は、考え方の違う両者が互いにののしり合って、どんどん分断が深まっていってしまったんだ。
現地取材にアニメを交えて解説
6月7日放送の番組では、「アメリカ抗議デモ 黒人の怒り」と特集し、NHKの国際部デスクと現地特派員が生放送で解説した。
現地取材、アメリカ社会の分断などに関する構造的な話を組み合わせ、デモの背景にある問題の全体像を伝えようとする内容だった。
「白人警察官には黒人に対する漠然とした恐怖心がある」という箇所は、実際にパトロールに同行したことがあるという国際部デスクが当時の取材をもとに番組内で語ったこと。
取材時のエピソードや、黒人が警察官に射殺されて死亡する確率は、白人よりも2.5倍高いというデータなどを紹介したのち、「黒人は警官による差別だと感じていますが、別の不満も抱えています」という流れで、アニメーションが再生された。
大坂なおみ、駐日米国臨時大使も反応
この動画や一連のツイートについて「黒人への偏見を助長する」「抗議デモの背景にあるのは『互いにののしり合って』いるわけでなく構造的な問題」などの批判が国内外から寄せられた。
「『黒人が格差を前に怒っている』というような単純な理解を国営放送で流して人種差別を助長するのはやめてください」
「米国だけでなく、世界で、何百万人の人が闘っている偏見と構造的な差別を象徴」
「ステレオタイプな黒人の描写も酷いし、これではアフロアメリカンの人権のためのプロテストではなく、金のために暴動を起こしている印象しか与えない」
テニスプレイヤーの大坂なおみさんは、該当ツイート(現在は削除済み)を引用して、呆れたような表情をする黒人男性のGIF画像を投稿。
「The Japan Times」などに寄稿しているニューヨーク出身の黒人記者、Baye McNeilさんは「話が聞きたいなら我々はここにいる。しかしこのBS(醜悪極まる嘘)は許されない」とツイート。
ジョセフ・M・ヤング駐日米国臨時代理大使も、「もっと多くの考察と注意が払われるべき」「使われたアニメは侮辱的で無神経」とコメントした。
「掲載にあたっての配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします」
多くの反響を受け6月9日、NHKは動画を削除した。
「これでわかった!世界のいま」のツイッターに掲載した CG アニメーションにつきまして、多くのご批判・ご意見をいただいております。
掲載したアニメーションは、6月7日放送の「拡大する抗議デモ アメリカでいま何が」の中で放映したものです。
番組では、デモの発端が、黒人男性が警察官に押さえつけられて死亡した事件であることを紹介したうえで、今回の事件に様々な人たちが怒りを募らせている背景やトランプ政権の対応とそれに対する批判、アメリカ社会の分断の現状などを 26 分間にわたってお伝えしました。
CG アニメーションは、番組の中で、アメリカの黒人の人たちが置かれている厳しい状況をわかりやすくお伝えしようと、格差のデータや指標とともに約1分20 秒間にまとめたものです。
しかし、視聴者からこのアニメーションについて、問題の実態を正確に表していないなどというご批判をいただき、掲載を取りやめました。
掲載にあたっての配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします。
NHK では、人権を尊重し、取材や制作のあらゆる過程で細心の注意を払うよう取り組んでまいります。
UPDATE
6月15日、NHK報道局国際部長名義であらためて「6月7日の放送についておわび」が発表されました。
今回、私たちが問われたのは、人種差別の問題を取り上げるにあたって、人権や多様性に対する意識を持って制作したかという点でした。アニメは、経済格差のデータを分かりやす
く伝えようと、編集責任者やデスクが確認しながら制作しました。しかし黒人の人たちの描き方については、人権や多様性に対する認識が甘かったと思います。その結果、尊厳を傷つけてしまうことになりました。今回の問題をうけNHKでは今後、取材・制作者への研修を改めて行い、人権に対する意識を徹底していきます。また、あらゆるテーマについて、多角的な視点を持って、いっそう丁寧に議論しながら取材・制作にあたってまいります。