「モフモフできる恐竜を教えてください」5歳の女の子の質問に、恐竜学者はどう答える?

    NHKラジオ「子ども科学電話相談」でも大人気。“ダイナソー小林”が語る発掘と研究の面白さ。

    ダイナソー小林。その人は、愛を込めてそう呼ばれています。

    日本、そして世界を代表する恐竜研究者の一人、北海道大学総合博物館教授の小林快次(よしつぐ)先生。

    多くの図鑑や展覧会を監修し、全国の恐竜好きキッズのあいだでは「憧れの人」「神様」として抜群の知名度を誇っています。

    小林先生の魅力をたっぷり味わえるのが、NHKのラジオ番組「子ども科学電話相談」です。

    さまざまな分野の第一線の研究者たちが子どもたちの質問に真面目に答えるこの番組は“大きなお友達”たちにも大人気! Twitterでの実況もしばしば盛り上がっています。

    「恐竜のお肉はおいしいんですか?」

    「恐竜をモフモフしたいです。いっしょに遊べる優しい恐竜がいたら教えてください」

    「ナヌークサウルスは寒いところに住んでいたのに、なぜ体が小さいんですか?」

    子どもたちの質問のレベルもさまざま。時に易しく、時に専門的に、子どもたちの理解度に合わせてアツく語る姿が多くのリスナーに愛されています。

    そんな小林先生の発掘記「恐竜まみれ――発掘現場は今日も命がけ」では、アラスカやモンゴル、北海道での過酷で刺激的な発掘作業の日々がつづられています。

    グリズリーに襲われたり、灼熱のゴビ砂漠を1日で20キロ以上歩いたり……その姿は、学者というよりもはや冒険家!

    日本の恐竜研究を引っ張る小林先生に、ラジオの裏側、研究の面白さを聞きました。

    ダイナソー小林、とお呼びしていいですか?

    ――早速ですが先生はファンの皆さんに愛を込めて「ダイナソー小林」と呼ばれていることはご存知なんでしょうか。

    はい、知っています。実は北海道大学の博物館でもそう呼ばれているんですよ、そこからラジオのリスナーに広まったのかな? どうなんだろう。

    博物館のスタッフに偶然「小林」が何人かいて、担当分野ごとに「昆虫の小林」「キノコの小林」なんて言われてたんです。その流れで僕も「恐竜の小林」から「ダイナソー小林」に。カッコいいなと満足しています(笑)。

    #ダイナソー小林 先生 「多分、恐竜全体で何十万種、何百万種って存在してたと思うんですね。」 現在ごく一部しか分かっていない恐竜研究 まだまだ探検が続いていきます✨ Nスペ #恐竜超世界 は来週も!

    NHKさんも呼んでいた

    ――では、公認ということで(笑)。「子ども科学電話相談」には、いつからご出演なんでしょうか?

    2010年ですね。その年、NHKさん主催の「地球最古の恐竜展」の宣伝を兼ねてラジオに呼ばれたんですよ。その1回だけだと思ったら、毎年お声掛けいただくようになって……もうすぐ10年ですね。

    ――毎年「このラジオのために帰国しました」とおっしゃっていますが。

    本当にそうですよ! 去年までは基本、夏休み期間の放送だったので、8月1週目はまるまるラジオのためにスケジュールを空けて、帰国していました。(注:冬休みシーズンに放送があった年もある。また、今年から長期休みだけでなく、毎週末のレギュラー放送が始まった)


    「恐竜版桃太郎」を一緒に考えて!

    ――「恐竜まみれ」でも、毎年夏の間はアラスカやモンゴルにいると書かれていますし、合間を縫ってラジオとなると大変ですね。

    「忙しいのに」ってよく言われますけど、結構楽しいんですよ、ラジオ。自分が楽しくてやっているんです。

    ――先生が楽しんでいらっしゃるのは、聴いていても伝わってきます。

    昔は「恐竜オタク」な子どもたちたちからのマニアックな質問が多かったですが、小さい子の素朴な質問も増えてきてうれしいです。僕は未就学児の子の質問を中心に答えるようにしているんですが、最近印象に残っているのは「恐竜バージョンの桃太郎のお話を考えて」かな。

    植物食の翼竜はいますか。自由研究で、恐竜のバージョンの桃太郎のお話を考えています。植物食恐竜たちがティラノサウルスを倒しにいくお話です。おとものキジの代わりになる植物食の恐竜、翼竜が思いつきません。植物食恐竜の仲間にするなら、小林先生は、なにがいいと思いますか。(こうたろうくん、小学1年生)

    ――桃太郎! あれは名質問でしたね。

    よかったですね〜、真面目に考えました。キジ以外はトリケラトプスとアンキロサウルスにしたいっていうのは決まっていて、僕が提案したのはオヴィラプトルだったかな。翼はあるけど飛べない恐竜なので、こうたろうくんには妥協してもらったんですけど。

    小林先生:難しいね…飛ばなくてもいいなら、たとえばオヴィラプトルとかいいかな、って思ったんだけどね。植物食で、翼もあって、飛ぶ直前までいってるから。それでもいいかな、とか思ったんだけど、それじゃだめなんだ。

    こうたろうくん:うん…ないなら、しょうがないかな。

    ――そのあと、先生が「でも、このままじゃティラノサウルスに勝てないと思う」と真剣に戦略をアドバイスしていたのも面白かったです。

    小林先生:ストーリーちゃんとつくってみて、1回。もしかしたらね、パキケファロサウルス、いいかもよ。サルの代わりに、すばやい動きで、ドンと脚をやっつけるっていう。脚がいいんじゃないか、ティラノサウルスを攻撃するんだったら。倒しちゃえば、からだが大きいから、なかなか起きあがれないでしょう。だから、脚を攻撃できるような、パキケファロサウルスでアンキロサウルスなんていいと思うよ。

    こうたろうくん、後日完成した「恐竜版桃太郎」のストーリーを送ってくれたんですよ。すごくよくできていました。あと、「モフモフ」もよかったなぁ。

    ――「恐竜をモフモフしたい」ですね! 小さい女の子、かわいかったです。

    キチパチ(シチパチ)とオルニトミムスにモフモフしたいけど、蹴られたら痛そうだそうだから、いっしょに遊べる優しい恐竜がいたら教えてください(ひなこさん、5歳)

    小林先生:デイノケイルスって言う、オルニトミムスの親戚みたいなのがいるんだけど、これはモフモフできる、毛が生えていてあまり動きが速くないんだよね、のろまというか。あまり蹴ったりすることないので、でも大きいからね、11メートルぐらいあるんだよ。だからモフモフしようとしても足をモフモフするだけで、体モフモフはできないと思うんだけど、デイノケイルスの赤ちゃんとかだったらいいんじゃないかなぁー。

    小林先生:おとなはちょっと11メートルで大きいから、あの子どもだったらね、たぶんね、ひなこちゃんモフモフできると思う。ひなこちゃんわかった?

    これが「デイノケイルス」です!! 毛並みが綺麗ですね😍 #恐竜超世界

    デイノケイルスは先日のNHKスペシャル「恐竜超世界」にも登場。本の中では、長年謎が多かったこの巨大恐竜の全身骨格が発掘されるまでの秘話も書かれています

    正直モフモフって意味がよくわからなくて、周りの先生たちに「モフモフ……わかります?」って聞いたんですけど、みなさん「モフモフ?」「なんだろう…?」自信がなさそうだったので、スタッフさんにちゃんと確認しました。

    ――(笑)。ジェネレーションギャップが!

    モフモフ、恐竜学者は使わない言葉でしたね。

    詳しすぎる恐竜キッズを圧倒する奥の手

    ――素朴な質問もかわいらしいですが、学術用語だらけで質問してくるガチ恐竜キッズに圧倒されるのも、この番組ならではの楽しさです。

    知ってる子は本当によく知ってますからね。そういう子はもはや質問したいわけじゃなくて「これだけ知ってるんだよ」って聞いてほしいんだと思います(笑)。

    とはいえ、彼らも僕が作った図鑑を読んで勉強しているわけですから、知識量で言ったら僕の勝ち戦ですよ! なので、「これはまだこれは論文になってないんだけど」と最新の研究結果で圧倒することにしています。

    ――出ました、「まだ未発表だけど」! リスナーの皆さんもその言葉が出ると「きたあ!」と盛り上がっていますよね。先生だからできる最強の返しだ……。

    子どもたちをコテンパンにしたいわけではなくて、図鑑が全てじゃない、まだまだ研究の世界が広がっているんだよ、と伝えたいんですよね。彼らも「その先」を知りたくて聞いてきているんだと思いますし。

    詳しい子は学術的なところまで求めてきますし、子ども相手とはこちらも思っていないです。

    ――そんな恐竜キッズに向ける「北海道大学に来なさい」も先生の決めゼリフのひとつですが、実際にラジオをきっかけに進学してくる子もいるんですか?(※「もっと知りたかったら自分がいる北海道大学に進学してね」の意)

    いますよ、10年もやっているとね。「小学生の頃から聞いてます!」とか結構言われます。

    ――すごい! それは先生としてもうれしいのでは?

    うれしいというか……恐怖を感じます(笑)。「こいつ、真に受けて本当に来たのか!」と思いますね、責任重大だなぁって。でも、日本の恐竜研究では北大が今一番アツいのは間違いないですよ。

    ところで、鳥は恐竜ですか?

    ――リスナーの皆さんには「バード川上」こと川上和人先生との掛け合いも人気です。

    川上 勝手に鳥の研究するの、やめて下さいよ!

    小林 鳥も恐竜ですから!

    川上 いや、恐竜が鳥ですから!

    川上和人×小林快次「鳥類学者 無謀にも恐竜学者と語り合う」より)

    本にも書きましたが、近年の研究で、恐竜は鳥類に進化していったことがわかっているんですね。なので、川上さんとは進化の線のこっちとあっちを研究している感じ。着眼点も違うので話していると勉強になります。

    爬虫類的な恐竜から、鳥型の恐竜へと進んだのが大きな進化の流れだ。(略)いまや恐竜ファンの子どもたちは誰でも知っていることだが、念のために言っていこう。いま現代に生きている鳥類は恐竜である。(『恐竜まみれ』より)

    ラジオでは「恐竜の肉はおいしいの?」という質問に鳥の肉の観点から答えてくれて、へえ〜!と 思いましたね。

    ――「鳥は恐竜」「恐竜は鳥」と言い合っているのにニヤニヤしちゃいますが……どっちなんですか?

    (笑)。川上さんも僕もわかっていて、言葉遊びですね。「こういう考え方もできるよね」と。……でもまぁ、鳥は恐竜です!

    えっどういうことですか? #バード川上 こと川上和人先生、「なお先に述べておくが、私はこの本を人に勧めるつもりはない」なんて!! #恐竜まみれ 恐竜はズルい! 「新種発見」ダイナソー小林の命がけ生活に、バード川上が嫉妬する https://t.co/GZAThzThjH

    川上先生の書評、アツいです

    サイエンスの面白さを子どもたちに

    ――大人になったからか、子どもたちの「いつか一緒に先生と発掘に行きたいです」なんて言葉にぐっときてしまいます。

    ここまで徹底的に、自分の目で見て、自分の手で掘り出しているタイプの恐竜学者は、日本では僕が初めてだと思うので、僕を見て憧れてくれるのはうれしいです。

    恐竜化石の発掘って、お金も時間もかかるんですよ。何千万円も必要だし、今やっても成果が出るのは10年後。その上、医療やIT技術のように実生活が目に見えて変わるものでもない。

    僕も今年で48歳ですから。今取り組んでいるものが出てくる頃には定年目前でしょ? もう先が見えているので(笑)若い人たちにつなげていかないと。

    ――いやいや、先生はいつまでもフィールドを離れそうにないですが……!

    それはそうですよ! 定年しようがなんだろうが、やりたいことは勝手にやります。

    ――先生のお話聞いていると「研究って楽しそう!」とわくわくしますね。

    恐竜に限らず、サイエンスは本当に面白いんですよ。自分の手で謎を解く快感を知ると虜になる魔力がある。

    書籍やラジオを通して、恐竜研究の面白さのほんの一部でも皆さんに届けたいですし、その先にサイエンスの面白さを知ってほしい。恐竜には、それだけの力があると思います。

    「恐竜研究は、人のためになっているのか」

    今、はっきりとした答えはない。しかし、私が初めてアンモナイトの化石を掘りに行った時に抱いた、ちょっとした興味。これが、私の人生を変えた。もしかしたら、恐竜を切り口に新しい道ができ、子どもたちの夢の選択肢が増えるかも知れない。(『恐竜まみれ』より)