10月24日に初の小説、エッセイ集『空洞のなかみ』(毎日新聞出版)を上梓した松重豊。
本の発売に先駆け、公式YouTubeチャンネルを開設。収録している12編の短編をひとつずつ、それぞれ別のアーティストの伴奏付きで自ら朗読していく企画を始めた。
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向井秀徳さんの伴奏で、朗読する編
豪華アーティストとの贅沢な共演に、ファンからは「これ無料でいいんでしょうか」「心地よい時間でした」などの絶賛コメントが多数寄せられている。
TwitterやInstagramもスタートし、SNSを積極的に活用し始めている松重さん。コロナ禍を経て、大きな心境の変化があったという。
近所のレストランがステイホーム中に始めたコロッケのテイクアウトが美味くて、やめないように買い続けている。
出演オファーは自らメールで
――朗読企画、向井秀徳さんとの共演にはじまり豪華なゲストですね。
いやぁ、本当に豪華ですよね。12編の朗読、それぞれ別のアーティストの方に伴奏していただいて。尊敬する大好きな人ばかり……僕にとっては最高のメンバーです。
――松重さんが自らお声掛けしているんですか?
そうです。ラジオにゲストで来ていただいた方が多いですね。「こんな企画なんですがどうでしょう?」と手ずから一人ずつメールしています。
誰かの作品を勝手に読み上げるわけにはいかないですけど、自分の原作だったらどうやってもいいですからね。
毎回一発撮りなんですが……毎回すごくおもしろいです。僕は物語を声に乗せて、彼らは気持ちを音階や打楽器に乗せて。音楽っていいなぁ、楽しいなぁ、と思います。
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Kan Sanoさんの伴奏で、朗読する編
出演作は見返さないけど…
――俳優として出演作は見返さないそうですが、ご自身の小説を読み返すのはどうですか?
台本と自分の書いたものは全然違いますね。プレッシャーも全然ないですし。わくわくする気持ちだけです。
台本は何十回も読んで咀嚼していく対象で、セリフにして映像になったものは、もう監督さんにお渡ししたもの、という意識。
自分が書いた言葉を朗読するのは、納得する音になっているか確認できるし、何よりミュージシャンと一緒にやるのが非常に楽しいです。
本日、YouTubeにて著作「空洞のなかみ」第3弾〜ガベル〜の朗読を配信いたします。今回は初挑戦!ベーシストの Shingo Suzukiさんの伴奏でお届けいたします。 https://t.co/tdnwxj6V2m
動画を見て、他の役者さんが自分も朗読したい、このミュージシャンの伴奏で、と思ってくれたら、あのバーでよければご紹介しますよ! と言いたい。
僕が楽しくて始めたことですが、伝染していけばいいなと思っています。

ステイホームを経て変わった意識
――YouTubeに加え、Twitterやインスタもスタートし、Webサイトもリニューアル。何か心境の変化があったんでしょうか。
ステイホームの期間、「もう二度と映画が撮れない世界になってしまうのかもしれない」という危機感が強くあったんですよね。少しずつ再開し始めていますが、この先どうなるかわからないですし……まだ払拭しきれていない部分もあります。
あの何もない時間を経て、「待っているだけでじゃ何も始まらないかもしれない」「これからは自分で手を広げていかないと」と考えるようになったんですよね。
本を書くこと、小さな空間で演じること、世界に向けて発信すること――自分でできる範囲で、やれることをやらなければ、というところに今自分の情熱が向いているんです。

――YouTubeは「演じること」の延長なんですね。
そうです。YouTubeという場所の上で、どんな面白い表現ができるか? を考えたいんですよね。
見てくれる人からどれくらい、どんなリアクションがあるかなって考えながら、YouTubeと遊んでいる感じです。それが一番の楽しみですね、今。

松重豊(まつしげ・ゆたか)
俳優。1963年生まれ。福岡県出身。明治大学文学部在学中より芝居を始め、1986年に蜷川スタジオを経て、2007年に映画『しゃべれども しゃべれども』で第62回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。2012年『孤独のグルメ』でドラマ初主演。2019年『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』で映画初主演。2020年放送のミニドラマ『きょうの猫村さん』で猫村ねこを演じて話題に。「深夜の音楽食堂」(FMヨコハマ)では、ラジオ・パーソナリティーも務めている。