“特殊効果の神”が、約30年の年月をかけて完成させた奇跡の1本ーー。

フィル・ティペット監督による、ストップモーションアニメ映画『マッドゴッド』が12月に公開され、じわじわ話題を呼んでいます。
公開直後から満席が続出し、その強烈な世界観と圧倒的な作り込みが口コミで広がっています。
「1人の天才が30年の血と汗と涙で作り出した暗黒神話」
マッドゴッド 1人の天才が30年の血と汗と涙で作り出した暗黒神話。 深き闇の更に奥底にある天国という名の地獄。ひたすら破壊と想像を繰り返すグロくて狂喜に満ちたディストピア。見ているだけで脳を引きずりだされる様な感覚になるこの作品に言葉はいらない。この悪夢の流れに身を任せ呑まれるのみ。
「高熱にうなされたときでもここまでの悪夢は見ない」
『マッドゴッド』観てきたよ!高熱にうなされたときでもここまでの悪夢は見ないであろう、というほどのめくるめく地獄めぐり。なのに不快感はなく、世の理を諭されているような心地よさすらある摩訶不思議アドベンチャー。この想像力にこの生命力。特殊効果の神、おそるべし。
「84分だけど超良い意味で体感その2倍」
『マッドゴッド』試写で観ました。フィル・ティペット御大が30年を費やし作り上げた執念のストップモーション地獄絵巻。台詞は無し。無限に広がる異形世界のイメージをひたすら浴びせ続ける。圧倒的な情報量で目と脳が終わる。84分だけど超良い意味で体感その2倍。それくらい濃密で凄まじい映像体験。
『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ』『ロボコップ』など名作映画の特殊効果の数々を手がけ、アカデミー賞を2度受賞するなど、その後のSF映画に大きな影響を与えたとされるティペット氏。

「人生にはフィル・ティペットが必要だ」(スティーブン・スピルバーグ)
「巨匠であり、師であり、神だ」(ギレルモ・デル・トロ)
など、有名監督たちからも熱烈な信頼を寄せられてる存在です。
30年以上前のアイデアが形に
ティペット氏がこの作品のアイデアを思いついたのは80年代末のこと。
多くの映画にスタッフとして携わるかたわら、自主制作映画として最初のシーンを撮影しました。
しかし、CGの技術が急速に発展するのを目のあたりにし、人形やセットを使った手作りの視覚効果は絶滅するだろうと自分の仕事を悲観。


長く中断していたプロジェクトでしたが、若いクリエイターの協力や、世界中のファンからのクラウドファンディングを経て、足かけ30年を経て完成したのが今作です。
そんなティペット監督が日本のファンの質問に答えるトークイベントを実施。「神」が語ったこととは?
「何もなかったけど時間だけはかかった」
ーー完成まで長い時間がかかった『マッドゴッド』ですが、途中で行き詰まった時にはどう乗り越えてきたのでしょうか?
行き詰まったというか……実は問題はなかったんですよね。何もなかったけど、時間だけはかかったということです(笑)
30年以上も前ですが、最初にビジョンが浮かんだ時に、もう映画の全編が私には見えたんです。


なので、ある意味、これは考古学的な作業でした。失われた遺跡を30年かけて発掘してきたような感覚でした。
当時作ったフィルムはほんの12分くらいだったのですが、それを改めて今見てみると、最終的な作品像がすでに見えたことに気付きました。340枚くらいの絵コンテと短い映像でね。
点々としていたものが全部つながって、今回長編としてひとつの線になったということです。
ーー映画製作で大切なことはなんでしょう?
ほとんどの私の仕事は監督がいて、私がいて、まぁ振付家のような形でキャラクターの動きを担当するというものです。
共同監督的な立ち位置であることもありますが、多くは監督を補佐する立場なんですね。
なので、私が監督として個人的に制作した経験で言いましょう。初期の作品のなかに恐竜を扱った短編があって、結局これが『ジュラシック・パーク』につながっていったと言えます。
ただ、映画の『ジュラシック・パーク』を通して、私はもう恐竜というものをある意味出し切ったと感じて、次に進むことになりました。
そして大学に入ってーーベトナム戦争の時期ですねーーそこで当時非常に流行っていたコンセプチュアル・アートに大きな影響を受けたのです。

つまり何が言いたいかというと、映画というジャンルは好きですが、そんなにこだわっているわけではなくて、必要なのはアイデアだと思います。
浮かんだ発想にきちんと光を当てて、クリエイティブな自分の領域を探求していくということでしょうか。

「日本の方は…変わった作品、好きですよね」
ーー日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
本当に『マッドゴッド』の評判がいい、皆さん喜んでくださっていると聞いて、驚いたと同時に「うん、なるほどな!」とも思いました。
というのも、『マッドゴッド』がどこかで受け入れられるとすれば、それは日本だろうなと思っていたんです。
アメリカ人は結構保守的で、退屈なものを好みがちですから(笑)
日本の方は、こうね……変わった作品、好きですよね!いい意味で。だから受け入れてもらえてとても嬉しいです。
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『マッドゴッド』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中