「パーカーは着ない。寝転ぶのに邪魔だから」ひきこもり当事者の声に、役者は真摯に耳を傾けた

    中高年のひきこもり問題を描いたドラマ「こもりびと」がNHKスペシャルの枠で11月22日に放送される。主演の松山ケンイチさんは、出演にあたって当事者のリアルを熱心に学んだという。作品を通して考えたことを聞いた。

    11月22日、NHKスペシャルでドラマ「こもりびと」が放送される。

    テーマは「中高年ひきこもり」。Nスペドキュメンタリー班が取材で得た知見を生かして制作された、リアリティを追求したフィクションだ。

    10年以上に渡って引きこもり生活を送る主人公・倉田雅夫を演じるのが松山ケンイチさん。

    「現場の印象ですか? ずっと部屋の中でゲームばかりやっていたのであまり思い出がないです(笑)」

    松山さんがそう笑うように、ほとんどが家の中、部屋の中のシーンで、武田鉄矢さん演じる父ともほとんど会話がない現実を描く。「キャッチボール“じゃない”現場は新鮮でした」。

    「雅夫は一度は働いていたものの、さまざまな事情で強く傷ついて、部屋から出られなくなってしまう。どうにか抜け出せないかと心の中ではもがいている。言葉や表情が乏しい中でその心情をどう表現するかは俳優として苦心しました」

    自分だってこうなった可能性はある

    髪やひげを伸ばした風貌は、普段の松山さんとはずいぶん雰囲気が違う。出演にあたって、まずはひきこもりの現状やリアルを知ることに熱心に取り組んだ。

    過去のNHKスペシャルのドキュメンタリーを鑑賞し、ひきこもり当事者たちの手記を集めた冊子「ひきポス」を読み込み、実際にひきこもり経験者たちと会って言葉を交わした。

    「パーカーはあまり着ない。ベッドに寝転びにくくて邪魔だから」という当事者の声を聞いて、衣装の変更を提案したこともあったという。

    「『ひきポス』はみなさんにもぜひ読んでほしいですけど、読み物としてすごく面白いんですよね。立場が違う自分には共感できないかなと思ったんですけど、まったくそんなことない。むしろ、共感しかなかった」

    「彼らも同じ人間であって、自分の中にもこうなる要素はある。何かが違っていったらこうなった可能性がある……と強く感じました」

    ひきこもりは「犯罪者予備軍」じゃない

    思索を重ねる中で、あらためて「ひきこもり」の人々への世間のステレオタイプの強さを感じたという。

    「昨年、元農水次官がひきこもりの息子を刺殺した事件がありましたが、その報道もあって、『犯罪者予備軍』というイメージが残ってしまっているように思います」

    「でも、それは1つの側面でしかない。ひきこもりじゃなくても犯罪や事件を起こす人はいますよね。たまたま社会悪にするのにちょうどいい存在がいたから押し付けたんじゃないか、敵を作って安心しようとしたところもあったんじゃないかと思います」

    ステレオタイプを変えていくために

    ひきこもりの存在は、社会に大事なものを訴えかけているようにも感じる――そう話す松山さん。

    誰もが生きやすい社会とはどういうことか? 働くとはどうあるべきか? 彼らが安心して外に出るためには何が必要なのか?

    ドラマを通して、ステレオタイプなネガティブイメージが少しでも変化することを期待したいという。

    「僕が一番わかりやすく感じたのは、『優しさ』です。自分の考えの外にいる人、理解できない人をつい排除したくなってしまう気持ちは自分にもある。でもそうじゃないんだ、いろんな人がいて社会は回っているんですよね」

    「ひとくくりにひきこもりと言ってもさまざまな方がいますし、全部把握できたとはもちろん思っていません。それでも、この国に生きている同じ人間だよってことは忘れないでほしい。このドラマを見た人に、優しさと思いやりを持って一緒に歩いていこうと少しでも思ってもらえればと思います」

    #NHKスペシャル ドラマ #こもりびと 22(日)夜9時〜[総合] 10年以上ひきこもり生活を送る倉田雅夫。厳格な父・一夫は地元でも尊敬を集める元教師。自らの余命宣告を機に、父はもう一度息子と向き合おうとする。一方の雅夫は…。 出演 #松山ケンイチ #武田鉄矢 https://t.co/5utTVMhCnV