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学校に行くのはなんのため?アフターコロナの時代、「積極的不登校」が増えるかも。

学校より、オンラインで学びたい――。新型コロナ以後、「積極的不登校」を選択する親子が増えていくかもしれません。

新型コロナウィルスの感染拡大を受け、3月2日に突如始まった臨時休校。

学校の授業のオンライン化がなかなか進まないなか、民間が用意したネット上の学びの場がいくつも生まれました。

そのひとつ、NPOカタリバが運営する「カタリバオンライン」は、3月4日とかなり早い時期に立ち上がりました。

イタリアや韓国、モロッコなど海外の子どもたちと交流したり、3月11日には東日本大震災の被災地と中継をつないだり。「オンラインだからできる」新たな学びの形、子どもたちの居場所作りを模索してきました。

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年齢も住む場所も違う画面越しの“クラスメイト”たちと、生き生きとおしゃべりする子どもたちの中には、不登校や、持病で学校に通えない子も少なくありません。

少しずつ学校は再開し始めていますが、今村さんは新型コロナ以後、「積極的不登校」を選択する親子が増えていく可能性を感じています。

新たな選択肢としての「オンライン教育」。ただし、すべてが万能なわけではありません。

カタリバ代表の今村久美さんに、カタリバオンラインの3ヶ月を通して感じた、可能性と限界を聞きました。

趣味でつながるクラブ活動

カタリバオンラインの特徴は、受動的に学ぶだけでなく、子どもたち同士が積極的に交流する時間を多く作っていること。

毎週テーマを決めて行われているクラブ活動は、「顧問」と呼ばれるファシリテーターが子どもたちのやりたいことを引き出し、そして他のメンバーとともにひとつのことに取り組み、土曜日に発表会をしています。

演奏する曲を自分たちで決め、好きな楽器や歌で合奏を楽しむ「音楽クラブ」、得意な料理や創作レシピを披露しあう「家庭科クラブ」、演劇や工作を楽しむ「クリエイティブクラブ」など活動はさまざま。

元スタジオジブリのスタッフに絵を習う「おえかきクラブ」の週もあったとか……なんて貴重なチャンス!

最初はネットで「知らない人」と出会うことになんとなく抵抗がある子も、同じ趣味や興味を持つ友達と少しずつ仲良くなっていくといいます。

画面越しの“クラスメイト”

年齢も住む場所も違う子どもたちが多い時は100人単位で集うカタリバオンラインが大事にしている時間が、朝と夕方の「サークルタイム」です。

少人数で今日はどんなことをしたいかを宣言し、今日はどんな一日だったか、子どもたち一人ひとりが自分の言葉で振り返ります。

「震災で被災した子どもたちのケアにあたった際、生活リズムが壊れるリスクを強く感じたのがこの時間を作ったきっかけです」

「一度昼夜逆転してしまうと、なかなか元の生活に戻りにくく、メンタル面も不安定になる。朝と夜、時間を決めておしゃべりすることで1日の過ごし方が安定したら」

「本を読む」「お昼ごはんを作る」「宿題をする」など、プログラムと無関係なことでもOK。誰かが話したことがきっかけで「それ、みんなでやってみよう」と企画に発展することもあるそうです。

毎日顔を合わせて声を聞く“クラスメイト”ができ、安心感が増すことで話しやすい空気を作ることにもつながっています。

全員がみんなの前で発話するチャンスを作る、という意味も大きいです。少しきっかけを作ってあげれば、子どもたちは自分たちでどんどんコミュニケーションするようになっていきます」

今村さんがそう話すように、子どもたちは自らネット上でのコミュニケーションの作法を学んでいきます。

「時にはいきなり口論を始めたり、チャットを荒らしはじめたりなんてトラブルも。でもその度に、みんなが気持ちよく使えるには? 今日新しくきたひとがびっくりしないためにはどうしたらいい? と丁寧に話し合います」

「大人が想像するよりずっと、子どもたちのリテラシーは高いです。ここでは受け入れてもらえるんだ、と感じれば、のびのびと過ごしてくれる」

完全オンラインで作詞作曲

そんな自由な空気の中で、子どもたち発案の企画もいくつも生まれています。

5月5日におこなわれた「カタリバオンラインフェス」は、「こどもの日なんだから、子どもたちが企画するフェスをやりたい」と声が上がったのがきっかけ。

テーマソングは「音楽クラブ」のメンバーが作詞作曲を手掛けました。もちろん、作曲作業は完全オンライン!

今村さんは、カタリバ公式サイトでこうつづっています。

いつも音楽クラブは、毎週月曜に何を演奏したいのか話し合って決めて、香川の中学2年生“すみれハムスター”が部長となって譜面に落として、全国の小学生と中学生をまとめる。リコーダー、ピアニカ、ピアノ、ウクレレ…いろんな楽器をもちよって、楽器がなければ歌で参加する子もいて、1曲~2曲、オンライン演奏をつくりあげ、土曜日に発表会をする。

でも、オンラインで子どもたちが歌をゼロから作るって、そんなのできるのか?なんて思っていた。けど、できた。

敏郎さん(編注:音楽クラブ顧問のボランティアスタッフ)いわく「みんなで今の気持ちを話し合って言葉にして、つないで立派に作詞して、いつも通り“すみれハムスター”が曲をつけた。そしてピアノが弾ける東京の小学生“鈴”が弾いて、みんなでそのyoutube動画をみながら練習したんだよ。僕がしたのは、はじめての映像編集。安いソフトだし、たいへんだけど、編集できるようになってきたよー」とのことだった。


代表のつぶやき

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「積極的不登校」の受け皿に

全国的に緊急事態宣言が解除され、長かった休校期間も終わりが見えてきました。ですが、カタリバオンラインの活動はこれからも続く予定です。

「学校に行けない不登校の子の居場所になれるのはもちろん、これまでは学校に行けていた病気がちな子、呼吸器に持病がある子など、感染リスクを鑑みて学校に行かない選択肢を選ぶ人もいるはず」

加えて、「学校に行かなくても学ぶことができる」と知った子どもや保護者の中で「積極的不登校」を選ぶ人が増えていく可能性も指摘します。

実際、カタリバオンラインを利用する保護者へのアンケートでは、「学校再開後も『平日日中』に利用したい」という回答が約4割にのぼりました。

もともと不登校気味なので、学校・家以外の居場所も学びの機会もなかった。とはいえ遠方に送迎するのは難しいし、所属学校から離れたいわけでもないので、家にいてオンラインで第三者と交流できるのは有り難いし、子供には大変に大きな意味があると思います。何より久しぶりに子供がとても楽しんでいる姿をみて安心しています。(小4の保護者)

国や自治体を巻き込んで、経済的な理由からフリースクールに通えない全国の不登校の子ども達数万人の受け皿となって欲しい。公立のオンラインスクールが日本にも必要だと思う。

学習以外の楽しみ方で子ども達を引き込む方法は、今の不登校問題を解決出来ると感じた。学習支援だけでは子ども達は集まらない。自主性や楽しさを重んじる教育方法が大切。(小4の保護者)

とはいえ、「今までなかった新しい選択肢になりえる」と同時に「オンラインが万能だとも思えない」と今村さんは強調します。

理由のひとつは、ネット環境の格差。オンライン学習は一見万能なように見えて、経済的な格差、家庭環境の格差が色濃く出てしまいます。

「本当に必要な層に届いていない」という問題意識から経済的理由でネット環境が整えられない家庭に向け、PCとWi-Fi機器を貸与する無償貸与する活動「キッカケプログラム」を3月下旬にはじめました。

「学校が果たしていた役割の中で、教科学習はほんの一部。オンライン学習ですべてを代替できるとは思えません。先生や友達と、主体的な個人としてつながる場であることが子どもたちにとって一番大事なんだと思います」

「ただ、リアルな学校“ではない”場所が選択肢としてあることもとても大事だとあらためて感じました」

「カタリバオンラインの熱心な参加者の中には、不登校をはじめさまざまな事情で学校に行けない子もいます。安心できる場であれば、彼らがこれだけ生き生きといられるのは嬉しい発見でした

同調圧力が苦手な子も、自分らしくいられる場所がある。学校では友達が見つからなくても、世界に目を向ければ絶対に仲良くなれる子がいる――そんな風に社会を信じられるのは、とても大きなことだと思うんです」