不倫にハッピーエンドはありえるか?「二度と会わない」と誓った2人の3年後

    「女性たちは、器用に嘘をつけるようになっている」。禁断の恋が“メジャー化”する裏にあるものは。

    2014年夏に放送されたTVドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」。平日昼、夫がいない時間に別の男性と逢瀬を重ね、禁断の恋に溺れていく「昼顔妻」を取り上げた作品だ。

    上戸彩さんと斎藤工さんが、互いに伴侶がいる“恋人同士”を熱演。生々しいシーン、過激なシーンも多く、女性たちのあいだで大きな話題を呼んだ。

    あれから3年。ドラマのラストで「決して会わない、連絡を完全に経つ、離れた場所で生きる」と誓った2人のその後を描いた、映画「昼顔」が6月10日に公開する。

    「結末をどうするのか。納得できる答えが見つかるまでにずいぶん時間がかかりました」

    脚本家の井上由美子さんはBuzzFeed Newsの取材にこう話す。

    「神様、私はまたあなたを怒らせてしまうかもしれません」

    ドラマの最終回は、北野と会うことを禁じられた紗和のこんな意味深なせりふで終わっている。

    この結末に対しては「ちゃんと忘れて幸せになってほしい」「全然反省してない!」など、視聴者から賛否両論が寄せられた。

    当時はまだ続編の構想はなかったが、井上さんの中でも「いつか何らかの形で2人の物語を帰結させたい気持ちはあった」という。

    映画は、現実の時間と同じく別れから3年経った設定だ。ドラマからぐっと登場人物を減らし、紗和と北野、そして北野の妻・乃里子(伊藤歩)の3人にフォーカス。

    紗和と北野の禁断の恋物語だけでなく、乃里子を通して、不倫によって奪われる側の苦しみや憎悪も描く。

    愛することは、奪うこと

    井上さんが作品に寄せたコメントの一節に印象的な言葉があった。

    人を愛することは、奪うことです。恋敵から奪い、相手そのものを奪い、ときには自分も失くします。

    「愛することは、奪うこと」。この言葉の真意は?

    「人を好きになると、イライラすることも、もやもやすることもあるし、あとで後悔するような馬鹿な行為だってしてしまう。まして不倫だったら、家庭や仕事すら失う可能性がある。誰も好きにならなければ、毎日冷静に落ち着いた生活ができるのに」

    「それでもしてしまうのは……本能、としか言えないですよね。何かを奪う、自分を失うことは魅力なのだと思います。人間が一番裸になれる、どうしようもなくその人自身が出てしまう行為が『恋愛』だと思います」

    ドラマ「昼顔」を構想している時、井上さんの念頭にあったのは「大人の女性のための恋愛を描いてみたい」。

    世間一般的にストレートな恋愛小説やドラマが響きにくくなる中で、仕事をして、結婚して、子どもがいる女性たちに届くラブ・ストーリーとはどんなものか。

    10代の女性向けの「かわいいラブコメ」ではなく、積み重ねた人生の重さから目を逸らさない恋愛を描く要素のひとつとして、既婚者同士でありながら抗えず恋に落ちてしまう「不倫」を取り入れた。

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    メジャー化する「不倫」

    ドラマ放送時はまだ珍しく、過激に聞こえたこの言葉だが、この3年で目にする機会は格段に増えた。

    芸能人や政治家の不倫スキャンダルは絶えず、もはやラブストーリーの定番ジャンルのひとつとしても定着しつつある。

    「思えば当時は『不倫のドラマなんてよくやるよ』という言葉もかけられましたが……今はもうわりとメジャーになっていますよね」

    「女の人たちが強くなっている、“オス化”している風潮はあると思います。少し前まで『不倫』と言えば年上の男性がリードするようなイメージでしたけど、今主導権を持っているのは女性のイメージがあります。LINEでさっと誘うような」

    「現実の女性たちが器用に二股して、器用に嘘をつけるようになっている中で、紗和と北野はどこまでも不器用。うまく別れたり、騙したりできない」

    恋愛映画は戦争映画

    映画は決して、紗和と北野の恋を美化するものではない。

    むしろ2人の重ねる選択は、わがままで自己中心的で、イライラすらする。人を傷つけ、自分と他人の人生を狂わせる。

    あらゆるシーンで決して共感はできないが、少し道を間違えたら自分もあちら側にいってしまうかも、という薄ら寒さもある。

    こんな劇的に恋に溺れられたら、それはそれで新しい何かが見えるのかもしれない……。

    「正しい感覚だと思います。だって、ドラマや映画って、褒められる人を描くものではないので。いけない人間、悪い人間を通して感じる何かもあるはずですから。品行方正な人間だけが出てきてもつまらないですよね」

    井上さんは「女性にとっての恋愛映画は、男性にとっての戦争映画」と持論を話す。

    映画の中では、登場人物たちと一緒に自分を見失っていい。道ならぬ恋に心を乱し、無慈悲な戦場で命を落とす。

    現実と切り離れた世界だからこそ楽しめる、違う人生だ。

    「スクリーンを見つめてたった一時、道ならぬ恋に夢中になってもらっていい。映画館を出てほっと一息ついて、また平凡で静かな日常に戻っていく。そんな“浄化装置”だと思っています」

    禁忌を破った2人の「ハッピーエンド」

    続編の製作にあたって、最も迷ったのは、結末だった。

    最初はまったく違う結末を提案しました。困難を乗り越えて再会し、やっと北野と結ばれた紗和が、ふと「幸せになると愛は冷めるんじゃないか」と怖くなる。そして、結婚式の前日に北野に別れを告げる。永遠の恋を手に入れたいという女性の貪欲さですね。(製作発表時のコメントより)

    ドラマ版に続きタッグを組む西谷弘監督と何度も議論を重ね、最終的にはまったく違うラストになった。

    「考えられうるひとつのハッピーエンド……だと私は思っています。それがよいか悪いかはさておき、紗和はこの恋を生涯決して忘れることはないでしょう」

    「2人はこの激しい感情を“本物の恋”だと信じていますが、その問いに答えがあるわけではありません。誰にとっても解釈が違う、勝ち負けじゃない、善悪でもない。それが恋愛のおもしろく、魅力的な部分だと思います」