新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴い、国民一人あたりに10万円を支給する「特別定額給付金」が発表された。

一人ずつ支給されるはずの給付金だが、現状案では「受給権者は世帯主」。世帯主の指定した口座に家族分がまとめて振り込まれる予定だ。
この方法に対し、家庭内暴力(DV)や虐待の被害者が受け取れない可能性があると批判や懸念が殺到。ハッシュタグ「#世帯主ではなく個人に給付して」にも多くの意見が寄せられている。
「世帯分離」という手段
「毒親持ち世帯で10万貰えなさそうな子は今すぐ役所に行って世帯分離して」「搾取されそうな方は世帯分離の手続きをしてほしい」
そんな中、話題に上ったのが「世帯分離」という手段。4月21日には一時Twitterトレンドに入るなど注目を集めた。
今回の給付は4月27日時点の住民基本台帳に基づくため、世帯分離をする場合はそれまでに申請が必要となる。
しかし、目先の10万円だけを目的とするとデメリットが上回る可能性もあるので注意が必要だ。
現在、DVや虐待被害にあっている人はどうすべきか? 世帯分離した方がいいケースは? そもそも「受給権者は世帯主」という記述の問題点は?
DVやハラスメントに詳しい弁護士の寺町東子さんに聞いた。
!! 4月27日現在、ということは、 DVや虐待で逃げている人は、 4月26日までに世帯分離すれば、 世帯主に受給権を取られなくて済む。 世帯分離、急げ!! https://t.co/Zjr2cWJthW
最大のデメリットは健康保険料
世帯分離とは、住民票に「同一住所に居住する」と登録されている1つの世帯を、2つ以上の世帯に分けること。住所を変更せず、自分が新たに世帯主になることができる。
DV被害者の中には、住民票はそのままに、別の市町村で避難生活をしている人も少なくない。
今回の給付金が住民票に基づく世帯単位の申請である以上、DV加害者の夫が、別居中の妻子の給付金まで自分のものにする――ということが考えられるが、分離をしていればそれは避けられる。

だが、世帯分離をする上で、寺町さんが最大のデメリットとしてあげるのは、健康保険料が上がること。
「原則として、分離した世帯は、別途健康保険に加入することになり、多くは国民健康保険料を自分で負担することになります」
「DVで逃げている方の中には、配偶者の扶養家族として医療機関にかかると足がつく=現在の居住地がバレてしまうことを恐れて、健康保険を利用した受診を避けている人もいます。その場合、世帯分離で新たに健康保険に加入した方が、メリットが上回ると思います」
「とはいえ、基本的には事案ごとにケース・バイ・ケース。どの方法を取るべきか、都道府県の配偶者暴力相談支援センターや、基礎自治体の女性相談、福祉事務所、内閣府が設置した24時間対応の受付窓口『DV相談+』などに相談するとよいでしょう」
DVから逃げている人→住んでいる市町村で受け取れる
今回の給付金に関しては、すでに別居状態であれば、世帯分離せずとも受け取りが可能だ。総務省が20日に発表した指針には以下のように記載がある。
配偶者からの暴力を理由に避難し、配偶者と生計を別にしている者及びその同伴者であって、基準日において居住している市区町村にその住民票を移していないものについては、一定の要件を満たし、その旨を申し出た場合には、当該市区町村において給付対象とする。
22日には具体的な手続きも発表。24〜30日の間に、配偶者からの暴力を理由に避難していることが確認できる書類とともに、現在住んでいる市町村に「申出書」を提出すれば、住民票上の世帯主とは別に受け取れると明記された。


同居しているケースは「枠外」
問題は、同居しているケースだ。同居し、生計をともにしながらも身体的・経済的暴力にさらされているケースは十分にありえるが、上記の特例でカバーされない「枠外」となっている。
「そもそも同居中の方は、今回の総務省が想定している『配偶者からの暴力を理由に避難している人』の枠外です」
「離婚協議中だけど同居中、虐待を受けていて極力家に寄り付かないが同居して扶養されている――というような方の問題は解決していません」
世帯とは「住居及び生計を共にする者の集まり」であり、世帯分離の要件は「住居又は生計を一つにしていない」こと。
夫の収入に頼って生活しているとみなされる場合、世帯分離は難しい上、デメリットが重くのしかかる。
「そもそも経済的DVの人が円満に渡してくれるとは考えにくいですが……。それでも受給権者が誰なのか、世帯主なのか各個人なのかによって、『自分の分を渡してくれ』と主張できるか否かが違ってきます」
「受給権者は各個人」と明記して
個人でできる抵抗には限界がある。寺町さんは、まずは行政から受給権者は「世帯主」ではなく「各個人」であるとはっきりと明記してほしい、その意義があると訴える。

「受給権者が世帯主という表記は、4月22日の通知からは消えていますが、もともとの総務省のWebサイトには残っています」
「モラハラなどDVの立証が容易でないケースでは、『個人宛給付』だということが明確であれば、世帯主も家族からの請求を拒否できません。受給権者が各個人であると明記されるのは、後から権利を主張する上でも非常に重要です」
「手続き上は世帯主が手続きを行うとしても、支給先は各個人名義の口座とすべきです。これにより、各個人にお金が届く可能性が高まります」