有料なのは女性だけ。常識はずれの婚活サイトが生まれた理由

    婚活サービスの常識を覆す「女性が有料、女性が選ぶ」マッチングサイトが誕生しました。一体どんな女性が、どんな目的で使っているのでしょう?

    「恋愛したい、結婚したい、けど、仕事と家の往復で本当に出会いがない……」。バリバリ働きながらこう嘆く友人、27歳の私の周囲にはそれなりにいます。

    みんなどうしてるの? というと、気軽なところだとマッチングアプリ、本気のひとは婚活パーティや結婚相談所、といったところでしょうか。

    出会いを目的にしたサービスは、ほとんど場合、男性のほうが会費を多く支払う仕組みになっています。登録した女性は“選ばれる”のを待つのがほとんど。

    そんな中、働く女性をターゲットに、入会金も利用料も、支払うのは女性。男性の登録料は一切無料の婚活サイト「キャリ婚」が誕生しました。

    一見、これまでの「当たり前」と大違いですが、一体どういうサービスなんでしょうか? ユーザーはセレブな肉食女子? ヒモ志望の男性?

    「キャリ婚」を主宰する川崎貴子さんと、このサービスを通して結婚を前提とする恋人と出会った3人に「キャリア女性の婚活の極意」を興味津々で聞いてきました。

    発端は「怒り」

    発起人の一人、川崎さんは、経営者としてビジネスに携わりながら2人の娘を育てるワーキングマザー。本業の傍ら、著書やブログ、少人数の婚活塾で多くの女性の恋愛相談に応じてきました。

    川崎さんは「キャリ婚」が生まれたきっかけを「怒り」と話します。

    「女性が恋愛の悩みを克服して前向きになったところで、“まとも”な結婚したい男性に出会える場所が少なすぎる! と知ったんです」

    マッチングアプリで知り合った人はかなりの確率で「遊びたいだけ、ヤリたいだけ」の人。付き合えるかと思った相手は既婚だった。ネットワークビジネスに誘われた……など、ひどい話を、女性たちから何度も聞いたといいます。

    面接必須、隠れ既婚者お断り

    キャリ婚では、男性の登録時は必ず面談の上、「独身誓約書」の提出を求めます。そこまでするの? と驚きましたが、川崎さんのお話で経緯がわかりました、そういう背景があったんですね……(悲しい現実)。

    面談では「結婚したいと本気で思っているか」「共働きで構わないか」の2点を必ず確認し、パートナーに求めるものやコミュニケーションの姿勢もチェック。年収や年齢は問いません。

    長い時は1時間ほど話し込み、1〜2割は「お断り」するそう。「前の恋人とはどうして別れたの?」なんてことも踏み込んで聞くそうです。

    “ヒモ志望”ばかりになるかと思ったら

    正直、始める前は「養われたいヒモ志望の男性ばっかりになったりして…‥」と若干不安だったといいますが、ふたをあけてみたら真逆。

    大手企業勤務や専門職など、「一般的な婚活市場でも大人気であろうハイスペックな男性たち」が予想以上に多く驚いたそうです。

    「仕事も充実していて、家では料理や家事をこなして、2人で一緒に楽しめそうな趣味があって……私たちが結婚したいよ! と思ってしまうくらい(笑)」

    「とはいえ、俗に言う“ハイスペ”の方だけではないですよ。バリバリ会社で働いている女性と、家でお仕事をしているフリーランスの男性の組み合わせも素敵だと思います」

    実際に「キャリ婚」を利用し、結婚を前提とする恋人を作った3人に、お話を聞きました。

    ●キャリ子さん(28歳、女性):IT企業のエンジニア。11月に登録し、3人と実際に会った。うち1人とお付き合い中。

    ●メリ美さん(30歳、女性):広告代理店の営業職。2月に登録し、1人目に出会ったメリ平さんと結婚を前提に交際スタート。1カ月を待たずにマッチング成立。

    ●メリ平さん(30歳、男性):大手メーカー系列企業勤務。メリ美さんと交際中。去年末に登録し、実際に会った女性はメリ美さんを含めて2人。

    「女性側が選ぶ」サービスとあって勝手に「セレブな肉食女子たち?」と想像していましたが、全然そんなことはなかった! キャリ子さんもメリ美さんも、いい意味で“普通”です。

    ――カップルでいらしてくださったおふたりに聞きたいのですが、付き合って間もないという事でしたが、結婚のご意向は?

    メリ美:そ、それは……。

    メリ平:(話をさえぎるように)はい! もちろん結婚前提でお付き合いさせていただいています!

    一同:ああ、かっこいい~♡

    ――即答ありがとうございます! 今日は幸せな取材になりそう……!

    男女それぞれのニーズ

    ――それでは、まず女性陣におうかがいします。キャリ婚に登録したきっかけは?

    キャリ子:仕事柄、男性が多い業界ではあるのですが、身近にはワーカホリックな人が多くて……。結婚を考えると、仕事と家庭のバランスをとれる相手とお付き合いしたいと思いました。

    メリ美:私も似た感覚です。何かを話し合って決めようとする時に「忙しいから今は無理」と逃げる口実にされるのが嫌で。結婚を前提に、前向きに考えられる人と出会えるかなと思って始めました。

    ――なるほど。「恋愛相手」というより「人生のパートナー」を探す感覚なんでしょうか。結婚が前提だからこそ、ですね。

    キャリ子:マッチングアプリも使ったことはあるんですが、数日間でやめちゃいました。遊び目的の人と出会っても意味がないな、と思って。

    メリ美:私も何度か利用しましたが、お互いの目的が合致してるかわからないので、LINEでやりとりしてもなかなか会話が続かないんですよね。確かに出会える可能性は多いのですが、自分の求める「結婚」にこぎつける確率は低いなあと思いました。

    「出会う女性、専業主婦志向が多くて」

    ――男性側としてはどんな動機があったのでしょうか。「面接あり」はわりとハードルが高い気もするのですが。

    メリ平:マッチングアプリや有料の婚活サービスを利用したこともあるんですが、出会う女性は専業主婦願望の強い人が多くて、自分の希望とは違ったんですよね……。合コンもそうです。

    川崎:メリ平さんみたいに聞こえがいい企業にいると、そうなっちゃうよねぇ。

    メリ平:かと言って、マッチングアプリに登録して出会いを探しても、それこそ遊び目的の男たちとは違うってことを、示しようがないですよね。

    なので「登録時に全員面接」は個人的にはありがたかったです。お互い結婚の意思があるという前提で、関係をスタートできるのはメリットでした。

    男性が口をそろえて言う要望

    ――面接、怖くなかったですか?

    メリ平:いやー、緊張しました(笑)。他人に恋愛や結婚の話を正面から聞かれる機会、そうそうないですから。かなり身構えていたのですが、実際聞かれたのは当たり前のことばかりでしたね。思ったより早く終わったような。

    川崎:それは優秀だったからですね。 この人は大丈夫だなって人は一通り話を伺って短く終わります。

    先ほど出た「パートナー」という言葉もそうですが、このサービスに興味を持って面接に来る男性が口をそろえて言う言葉は「きちんと話し合って解決していきたい」です。

    何か問題があった時に、相手と相談しながら理性的に決めていきたい、乗り越えていきたい、という人がびっくりするくらい多いです。みんな、どんな恋愛してきたのか心配になっちゃうくらい……(笑)。

    ――男性の側にも需要があったんですね。

    川崎:そうなんです。恋愛に悩む女性たちにたくさん会う中で、彼女たちに本当に幸せになってほしい、安心して幸せをつかめる場所を、ないなら作るしかない! と思ってこのサービスを始めたので、男性からの反応も上々でよかったです。

    必須条件は「顔文字を使わない人」

    ――女性からアプローチする仕組みは、ユーザーとしてはどうでしたか?

    メリ美:「相手の趣味に付き合いたいタイプですか?」「家事の分担はどのように考えていますか?」など、結婚後の生活についてリアルに想像できる質問が多いのがよかったです。単なる出会いを目的としたマッチングアプリとはそこが違ったかな。

    キャリ子:好みがハッキリしてるので自分からアプローチしていけるのはやりやすかったです。自分の中で基準がある人には、いいと思います。

    ――ちなみに、キャリ子さんはどんな基準で選んでいったんでしょうか。

    キャリ子:私はですね、これまでの恋愛経験で、落ち着いた人とのほうがうまくいくと自己分析していたので「自己紹介でビックリマークや顔文字を使っていない人」です。

    ――ぐ、具体的……!

    川崎:すごくいい、わかりやすいね(笑)。そう、それくらいまで噛み砕いて認識できているのって大事ですよね。

    メリ美:私も譲れない条件を3つ言語化していました。「話し合いができること」「家族にコミットしてくれること」「神経質でないこと」。

    ――それは「こちらから選ぶ」前提があったからなんでしょうか。

    メリ美:もちろん、それはあります。やっぱり恋愛って、情が移ると欠点や不満があっても「これくらい我慢したほうがいいのかな」「ここ以外はいい人なんだけどな」ってなってしまいがちじゃないですか。

    だから、最初に自分の中で条件を決めて、アプローチする相手はある意味ドライに探していきました。結果的に、1人目に出会った人とうまくいってよかったです。

    選ぶために必要なのは、自己分析

    川崎:感動してきちゃった……! そうなの、まずは自分のことを自分でわからないといけないんです。

    女性の恋愛や結婚の悩みを聞いてきて心から思うのは、とにかくみんな受け身だということ。自尊心が低い!

    こんなに仕事を頑張ってて、素直で、素敵な女性たちが、どうして恋愛になると迷ってしまうんだろうと思うのだけど、そこなんです。「自分がどんな人が好きなのか」「どんな人と人生を歩みたいのか」ちゃんと考えられてないんですよね。

    男性より女性のほうが、ピンとくる幅が狭いというか「この人、なんとなく好き」「生理的になんとなく合わないな」がハッキリある気がするんですね。ですから、最初は女性が選んだ方が良いカップリングが生まれると思っています。

    メリ美:「選んでもらえるとうれしい」感覚も正直わかりますが、そうやって待ってても時間だけが経つので……。

    川崎:そう、自己肯定感を恋愛で補ってはいけないのよね。男性からアプローチするのが“当たり前”の意識だと、どうしてもそうなってしまいがちな気がします。

    自分の基準を持て!

    ――ユーザーの動向を見ていて「こんな人には向いている」「向いていない」はありますか。

    川崎:繰り返しになりますが「自分の好みをハッキリ自覚できている人」は出会いやすいです。でもこれは「キャリ婚」を使う使わないに関わらず、でしょうね。

    例えば、まだベータ版の頃。数十人の女性から一気にアプローチを受けていた男性ユーザーがいたのですが、彼がモテた理由はなんだと思いますか?

    すごくイケメンなわけでも、すごく高学歴なわけでも、すごくお金持ちなわけでもなく……他の登録者と比較して、さまざまなパラメータがすべて“標準値”だったんです。

    おそらく、スタートしたばかりだったこともあり、彼を選んだ人たちは自分の中のハッキリした基準がなかったんでしょうね。なんとなく世間的に“よい”とされている条件を満たしそうな人、という理由でアプローチしていた。

    結局、彼はあまりの人気集中に気疲れしたからか退会してしまったのですが、この時に“選ぶ”女性ユーザーの側にどんなことを伝えたらいいか、どんな意識でいてもらうべきか、ヒントが見えた気がしました。

    その方向性でよかったと、今日2人の話を聞いて確信に変わりました。「ビックリマークや顔文字を使わない人」という自分の基準で選ぶのは正しい!(笑)

    キャリ子:(笑)。周囲の友人も婚活に悩んでいたら、ぜひすすめたいですね。お会いしたもののお付き合いに至らなかった人たちも、いい飲み友達にはなれそうでした。人間として素敵な人に会える場、なのはいいなぁって。

    川崎:流されずに自力でパートナーを見つけた彼女たちの幸せそうな笑顔を見ることができて、私も今日は幸せです。

    侶だけは選べる

    ――川崎さんにお聞きするのも恐縮ですが……結婚は人生の選択肢として「おすすめ」ですか?

    川崎:もちろんです。 考えてみると、家族の中で、伴侶だけは主体的に選べるんです。

    親も子供も親戚も選べないけれど、伴侶だけは自分の采配で、自分の目で、選ぶことができる。だから、女性達がもっと積極的に、主体的になっていいし、なるべきだと思っています。

    このサービスを準備していた昨年の秋、乳がんであることがわかりました。告知を受けて乳房の全摘を決めて夫に報告した時、私は泣いていないのにボロボロ泣き崩れる彼を見て「結婚ってすごい」と強く思いました。

    彼は泣けない私の代わりに泣いていたからです。家族になるって、他人だった人がすべて自分事としてうけとめてくれることなんだなぁ、と改めて思いました。

    もうすぐ結婚10周年なんですが、私たち2人は夫婦であり、恋人であり、兄弟であり、親友であり、戦友であり、ユニットですね。

    2人で子育てしてきて培われた絆もあり、お互いの代わりなんか世界のどこにもいないといつも思っていますし、そう思える夫と結婚できて毎日幸せです。結婚、おすすめですよ!