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下着ブランドのヴィクトリアズ・シークレット「多様な体型重視で株価下落」とフェイク画像が拡散。実際の経緯は…?

「多様な体型を重視するブランディング戦略によって株価暴落」などとするツイートが拡散。添付された画像のうち1枚は無関係な別のアパレルブランドの画像を加工したものであるほか、ツイート内容も根拠不明で注意が必要です。

米国発の下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」をめぐって、「多様な体型重視で株価下落」とする誤情報がTwitterで拡散した。

添付された画像のうち1枚は無関係な別のアパレルブランドの画像を加工した、フェイク画像だ。

また、ツイートの内容自体も時系列が正しいとはいえず根拠不明なもので、注意が必要だ。

1月6日夜に投稿され、拡散したツイートは以下のような内容。

セクシー下着大手のヴィクトリアズ・シークレット、僅か1年で株価が44%も下落しCEOも退任に。これまでのグラマラス路線を捨てて「多様性モデル」に走ったのが要因ではと話題。

ツイートには、下着を着用したモデルらを写した2枚の画像が添付されている。

1枚目には“victoria’s secret then”(=過去のヴィクトリアズ・シークレット)、2枚目には“victoria’s secret now”(=今のヴィクトリアズ・シークレット)と記載されている。

ヴィクトリアズ・シークレットは長身で細身なモデルを起用して人気を誇ってきたが、画一的な美のあり方を見直す社会の風潮から、近年は多様な体型や見た目を重視するブランディングに力を入れ始めている。

投稿は既に削除されているが、約6600いいね、約3000リツイートと広く拡散した。

フェイク画像は遅くとも2021年から拡散

BuzzFeed Newsは、2枚の画像の引用元を調べた。

1枚目の画像は、モデルや衣装から、2003年11月13日にニューヨークで開催されたヴィクトリアズ・シークレットのファッションショーで撮影されたものだと確認できた。

だが、2枚目の画像は、米国のアパレルブランド“UNIVERSAL STANDARD”から引用されたものだった。画像は同ブランドのコンセプト資料に掲載されているほか、公式ウェブサイトには同じモデルと衣装による別カットの画像も掲載されている。

また、この2枚目画像には、背景にヴィクトリアズ・シークレットのブランドロゴが見え、左手前に人の顔が映り込んでいる。しかし、オリジナル画像の背景は白無地で、映り込む人はいない。画像には加工が施されたと見られる。

なお、このフェイク画像は今回初めて拡散されたものではない。確認できた限りで、ロシア語のTwitterアカウントが2021年6月23日、「ブランドの新しいモデルたち。ヴィクトリアズ・シークレット」という文言とともにこの画像を投稿していることが分かっている。

今回の投稿の発信者は8日、画像に対してTwitter上で誤りが指摘されたことを受け、当該画像は「他社の宣材を加工したもの」と認め、投稿を削除している。

“多様な体型重視で株価下落”は本当か?

拡散したツイートでは、ヴィクトリアズ・シークレットの株価下落やCEO退任は多様な体型を重視するブランディング戦略によるもの、などと発信されている。

しかし、時系列を整理すれば、同ブランドの売上などの下落傾向は、多様な体型を重視するブランディング戦略を始める前から起きていたことがわかる。

1990年代から2010年代にかけて、欧米の女性を中心に絶大な人気を博したヴィクトリアズ・シークレット。だが、2015年から親会社であるエル・ブランズの株価は大きく落ち込み、店舗の売上高も下落するなど、“衰退“が指摘し始められた。

ワシントンポストによると、背景には、ショッピングモールの減少やエル・ブランズの当時のCEOレスリー・ウェクスナーが性犯罪者のジェフリー・エプスタインとの親密な関係で批判を浴びたことのほか、同ブランドの過度にセクシーなマーケティングが時代にそぐわなくなったことがあるという。

記事は、2017年の#MeToo運動の盛り上がりを背景に、人々が体型や体型に関しても多様性と表現を求めるようになったなどと指摘している。

実際に、米国では近年、アメリカン・イーグルの「エアリー(aerie)」など、ありのままの体型や見た目を賞賛する「ボディ・ポジティブ」の考えに寄り添うブランドが急速に成長している。

こうした背景から、ヴィクトリアズ・シークレットは2019年頃から、多様な体型を重視したリブランディングを開始。プラスサイズのモデルを広告に起用するなどの取り組みに乗り出している。

なお、2023年1月6日、CEOのエイミー・ハウク氏が在籍期間約8カ月で退任を発表したが、その理由は公式には明かされていない。

こうしたことから、拡散している情報そのものも根拠不明だと言えるだろう。

SNSなどで拡散する画像やニュースには、根拠がはっきりしなかったり、誤ったりしている情報も多くある。拡散には注意が必要だ。


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