食糧危機などを背景に新たなタンパク質供給源として世界的に注目されている昆虫食をめぐり、「人間はコオロギを消化する酵素を持たないため、常食したら体がおかしくなる」などとする情報がSNS上で拡散している。
しかし、これは誤った情報だ。
専門家によると、確かにコオロギには、人間の消化酵素では消化できない成分が含まれている。「食物繊維」だ。食物繊維はコオロギだけでなく、野菜類や豆類、エビやカニなどの甲殻類など幅広い食品に含まれている。他の成分と同様、「とり過ぎ」は身体に良くないが、健康のために必要だ。
また、欧州連合(EU)の専門機関で、食品の安全性に関するリスク評価などを行う欧州食品安全機関(EFSA)は、コオロギについて、アレルギー反応を誘発する可能性があること以外は、食品として「安全である」と結論づけている。
BuzzFeed Newsはファクトチェックをした。

拡散しているのは、国際政治評論家・翻訳家の男性が2月27日に投稿したツイート。
信頼している医師に昆虫食について聞いてきた。「人間はコオロギを消化する酵素を持っていないのだから、常食したら体がおかしくなる」
投稿は3月8日午前時点で、8000リツイート、2.6万いいねされており、117万以上表示されている。
人間が消化できない「食物繊維」は含まれているが…

BuzzFeed Newsは、拡散している言説について、栄養管理が専門で、昆虫食についても研究する東大阪大学短期大学部の松井欣也(きんや)教授に取材した。
松井教授は、「人間はコオロギを消化する酵素を持っていない」という点に関して、「コオロギに含まれる食物繊維『キチン』のことを指しているのではないか。それ以外で思い当たるものはない」との見解を示した。
食物繊維は、動物性と植物性のものがあり、いずれも人間の消化酵素では消化できない食品成分だ。キチンは動物性で、カニやエビなどの甲殻類にも含まれている。植物性の食物繊維は、野菜や果物、豆類、海藻類などに含まれている。
松井教授は、「(食物繊維は)何もコオロギ特有のものではない」と強調した。
その上で、「もちろん摂り過ぎれば下痢などを引き起こす可能性があるが、逆に不足すると便秘になりやすくなる。血糖値の上昇を抑制したり、血液中のコレステロールの吸収を抑えたりする効果もあり、基本的には身体に良い働きをするもの」と説明。
「“常食したら体がおかしくなる”というのは全く意味不明」と指摘した。
欧州食品安全機関は「安全である」と結論

食品としてのコオロギについては、欧州食品安全機関が2021年以降、安全性を評価した科学的意見書を公表している。
2021年8月には、冷凍、乾燥、粉末のヨーロッパ・イエコオロギについて意見書を公表。
甲殻類、ダニ類、軟体動物類にアレルギーのある個人に「アレルギー反応を誘発する可能性がある」とは指摘した。エビやカニなどにアレルギーがある人は、控えた方がいいということだ。しかし、この点を除いては、「安全性上の懸念を特定していない」とした。最終的には「当該新食品は提案された用途及び用量において安全である」と結論付けている。
2022年5月には、部分脱脂粉末のヨーロッパ・イエコオロギについても、同様の内容の意見書を発表した。
こうした意見書を受けて、欧州委員会(EC)は、冷凍、乾燥、粉末、部分脱脂粉末のヨーロッパ・イエコオロギを安全が確認された「新規食品」として承認。
「冷凍コオロギはビスケットに30gまで使用可能」など用途および用量や、アレルギー反応を誘発する可能性を知らせる文言を商品上に記載することなどを規定した上で、欧州域内での販売も許可している。
こうした科学的検証を見ても、「常食したら体がおかしくなる」という言説は事実に基づかないと言える。
昆虫食をめぐっては最近、さまざまな陰謀論や誤情報が拡散している。注意が必要だ。
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