賃金の未払い分があったときは?オーストラリアでこんなことが起こってます

    委員会は、クイーンズランド州に対し、計画的かそうでないかを問わず、賃金未払いを犯罪だとすべきだと述べている。

    ルーカス・ハルケス氏(24)はゴールド・コーストのおしゃれなレストランで、バーテンダーとウェイター、マネジャーとして働いていたが、過去2年間で少なくとも35,000豪ドル(290万円弱)の未払いがあると見積もっている。

    彼はほとんどの場合、現金払いで1時間につき20豪ドル(約1635円)弱の支払いを受けていた。休憩なしで13時間のシフトをこなした時や、週末働いた時にも手当をもらうことはなかったし、支払い明細書をもらったこともなかった。

    仕事を辞め、友達に賃金がきちんと支払われていなかったのではないかと指摘されるまで、そのことにハルケス氏は気づいていなかった。そこでフェアワーク・オンブズマン(以降FWO、労働基準監督署のような政府機関)に連絡すると、少なくとも1週間に500豪ドル(4万円強)も支払い不足があることがわかった。

    BuzzFeed Newsの取材に対し、ハルケス氏はそれを知って「むかつきました」と話している。「オーナーと親しかったので、非常に侮辱的だと感じました」。

    クイーンズランド議会は賃金未払いに関して100人強に調査し、報告書を提出した。ハルケス氏はそのうちの一人である。

    自由国民党とカッター・オーストラリア党で構成されるクイーンズランドの教育・雇用・中小企業委員会はクイーンズランド州に対し、計画的かそうでないかを問わず、賃金未払いを刑法上の犯罪とする法案を通すべきだと提言してきている。

    しかし、提言の「但し書き」のなかで、自由国民党のメンバーはこの提言に関して「懸念」もあると述べている。なぜなら、意図的に労働者に賃金未払いをしている雇用者はすべて、その報いを受けるべきだが、現行の刑法で十分だからだ。彼らはまた、この調査を「政治的な動機によるもの」としている。

    「もし私がレジに手を入れて数千ドルを盗んだとしたら、それに対する厳しい追求がありますよね。それなら、なぜ雇用者は私に対して同様のことをする権利を持つのでしょうか」とハルケス氏は述べる。

    委員会の報告書「1日の公正な賃金と仕事とは?」では、437,000人を超えるクイーンズランド州の住人が、もらう権利のある賃金よりも少ない額の賃金を受け取っていると概算している。そしてその結果、クイーンズランドに年間25億豪ドル(約2050億円弱)の財政損失を招いている可能性があるとしている。

    ブリスベン若年労働者ハブの共同創設者でハルケス氏を支援しているマーティン・ド・ルーイ氏は、若い労働者は賃金未払いのターゲットにされやすいと話す。「若い労働者が自分の権利に気づいていないことはよくあります。不安定な仕事に付いていて、どこに助けを求めればいいかも知らないのです」。

    この報告書では、賃金未払いをビジネスモデルの中に組み立て、捕まる恐れのほとんどない一般的な商習慣であるかのように扱っている企業もあることを指摘している。

    ハルケス氏は現在、未払い分の賃金の支払いを求めて裁判で争っている。

    中国出身の留学生アンドレアス*さん(18)は、何ヶ月も職探しをした後で9月にやっと職を見つけた時のことを「大興奮した」と話している。

    彼はブリスベンのサニーバンクにあるレストランでウェイターとして働いている。仕事をする前に、彼はボスに1時間につき18豪ドル(約1480円)が支払われると言われ、一枚の紙にサインするように言われた。しかし仕事を初めて1週間後、彼は現金手渡しで、1時間に10豪ドル(約820円)しかもらっていないことに気づいたという。

    「がっかりしました」とアンドレアスさんはBuzzFeed Newsに話す。「気づいていなかったんです。安くされるだろうとはわかっていましたが、そこまでとは思いませんでした」

    アンドレアスさんの同僚はほとんど中国からの留学生で、同じように賃金を不当に安く支払われている。「同僚がこの状況を受け入れているのは、もし不満を言ったり何かしたら、仕事を失うからでしょう」と彼は話す。

    アンドレアスさんはマネジャーに賃金が安いことについて尋ねた。すると、マネジャーの女性は心配することではないし、彼が首をつっこむことではないと言ったという。

    彼はそれ以上不満を言うのをやめているが、他の仕事が見つかったらその仕事を辞めるつもりである。「最低賃金を支払ってくれる仕事を見つけるのは、簡単なことではありませんが、やってみます」とアンドレアスさん。

    ド・ローイ氏によると、ハルケス氏とアンドレアスさんの経験は典型的なものだという。「経験上、賃金未払いが発生する最も一般的なケースは定額賃金です。それには、罰金や時間外労働など法律が求める条件を含んでいないんです」

    委員会は、州政府にアンドレアスのような留学生が確実にオーストラリアでの労働者の権利に関し、アドバイスを受けたり情報を得られたりするようにすべきだと提言している。そして、委員会は労働者の権利についての幅広い公的教育キャンペーンを実施することも求めている。

    クイーンズランド州カブルチャーに住むシヴァさん*(26)も、議会の報告書に情報提供をした一人だ。彼女はある食品製造会社で臨時労働者として18ヶ月働いていたが、ほぼ18,000豪ドル(約150万円弱)も未払いがあったという。

    彼女は1時間22豪ドル(約1800円)が支払われていた。それが法的な権利を下回っていることは、18ヶ月間働いて、全国労働組合が彼女の職場でミーティングを行うまで気づいていなかった。「ショックを受けました」と彼女は言っている。

    シヴァさんは、金銭的に苦しい状況にあった。祖母の葬儀に向かうための旅費を借金していて、その借金を返すのは大変だったのだ。

    しかし、彼女は賃金の未払いについてマネージャーと対決したくはなかった。「仕事を失いたくなかったのです」とシヴァさんは話す。その代わりに、労働組合が彼女の勤務先の労働者に代わって争った。今、彼女は1時間につき33豪ドル(約2710円)支払われている。加えて、過去に遡って未払い分も受け取り、貯金ができるようになった。

    ド・ローイ氏は賃金未払いにあった若い被害者が未払いを解消するには「大きな障壁がある」という。特に、労働者が賃金の明細書を受け取っていない場合に困難になる。そして、明細書をもらえないこととのほうが一般的なのだ。

    委員会は州政府に対し、賃金未払いを解消するためのプロセスを、もっと簡単で素早く費用をかけずにできるように行動を起こすべきだと提言し続けている。また委員会は連邦政府の役割についても規制制度が不十分だと非難し、賃金未払いに対応できるようにFWOの業績、資金調達、文化を再検討するように提言している。

    ※プライバシー保護のために、姓は伏せています。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:フェリックス清香 / 編集:BuzzFeed Japan