DVシェルターへの財政支援策の変更で、命が危険にさらされる理由

    ドメスティックバイオレンス(DV)被害者支援団体「ウイメンズエイド(Women’s Aid)」の調査結果によると、支援住宅への財政支援に関する政府の改正案が通れば、半分以上のシェルターが閉鎖やサービス縮小を迫られるという。

    ドメスティックバイオレンス(DV)被害者支援団体「ウイメンズエイド(Women’s Aid)」が2017年12月はじめに発表した調査結果によると、支援住宅への財政支援に関するイギリス政府の計画案が通れば、イングランドにおけるシェルターの半分以上が、閉鎖やサービス縮小を迫られる恐れがあるという。

    イングランドにあるシェルターのうち600床が危険にさらされる可能性がある、とウイメンズエイドは述べている。

    暴力的な元パートナーに絞め殺されそうになり、生後6カ月の赤ん坊を連れてシェルターに逃げ込んだ、あるDVサバイバーは、こうした極めて重要な場所が失われたら、「さらに多くの女性が命を落とすことになるのは明らか」と語った。この分野で働くスタッフも同様の警告を繰り返し、サービスは今でもぎりぎりの状態であり、弱者である大勢の女性や子どもの入所がすでに拒否されていると述べた。

    「レフュージ(Refuge)」やウイメンズエイドなど、この問題を専門とする慈善団体は、シェルターが不可欠であるのは、女性が殺されるリスクが最大になるのが、暴力的なパートナーの元を去る別離の時点だからだと指摘する。

    カウンティング・デッド・ウィメン(Counting Dead Women)」によると、2017年1~9月に殺されたイギリス人女性は、未成年者を含め106人だ。BuzzFeed Newsによるさらなる調査では、10~11月には、12人以上の女性が男性に殺されている。

    他の男性親族に殺された女性も多かったが、ほぼ半分の事例では、現パートナーや元パートナーが女性の死に関係しているとされた。


    ローラは、20歳の時に妊娠し、元パートナーから精神的・身体的虐待を受けた末に、何とか逃げ出した。

    「彼は私よりもかなり年上ですが、私はかなり早く妊娠して、元パートナーから精神的な虐待を受けました。私が妊娠して外に行かなくなると、徹底的な虐待が始まりました。彼はとにかく私を支配をしようとしました。家も金も車もすべて自分のものだから、私を支配できると彼にはわかっていたのです」

    ローラは、家から外に出かけなくなり、働くことができず、友人とも疎遠になったと語る。「妊娠が進むにつれて、いさかいが増えました。それに心理戦が激しくなりました。出産の後は、ますます暴力的になっていきました」

    「私が誕生日を迎える週末のこと、2人で食事に出かけることになっていました」。当時パートナーだった彼は、夕方には友達と飲みに行くが、ローラをランチに連れて行くと約束していた。「私はパブに行き、雨の中、外で3時間立っていました」とローラは語る。

    「パブに入って飲み物を注文するお金がなかったので、娘に授乳できませんでした。『娘を連れて帰る。ずぶぬれになるし、おむつを替えないといけないから』とメールを送ると、『そこにいろ』と書かれた返信メールが届きました」

    彼はパブに現れ、「私の腕をつかみ、娘をベビーカーに放り込みました。そうなるとわかっていました」とローラは言う。

    家に帰ると、ローラは4パイント(約2リットル)入りの牛乳パックを投げつけられ、「反射的に」それを投げ返した。

    「牛乳パックが破裂し、首を絞められました。もっと圧力が掛かるようにと彼が体重移動した時に、彼の睾丸を膝蹴りしました。娘を抱き上げて走り、二度と戻りませんでした」

    「靴も鍵もお金も持っていませんでした。隣人の家に行って、母に電話すると、『警察に電話しなさい』と言われました」。警察が来て、元パートナーを逮捕した後、私物を取りに30分ほど家に戻ることができたという。

    「ベビー服とおむつを詰めただけでした。私物の98%は家に残してきました」

    元パートナーに居所を知られるし、母と兄弟を危険にさらしたくなかったので、実家に戻ることはできなかった、とローラは語る。シェルターには空きがなく、代わりに、「悲惨」なホームレス用宿泊施設をあてがわれたという。

    「小さなバンガロー式住宅のようなものです。私の部屋は、麻薬の売人の隣でした。出入りが多いところで、これまでで最も恐ろしい体験でした。ベッドを引っ張って、ドアの前に置いておきました。車が見えるたびに、『ああ、彼が来た』と思い、息を潜めなければなりませんでした。とにかく人の出入りが怖かったのです」

    1週間後、ローラはウイメンズエイドのシェルターへの入所を認められた。人生が変わったのはそのおかげだ、とローラは思っている。

    シェルターでは、それまで請求したことがなかった給付金の申請を手伝ってもらった。そして、政府の支援を受けられるようになるまでの10週間の待機期間には、自分と娘の分の食料と衣服を与えられた。トラウマからの回復に役立つようにカウンセリングも提供され、GP(家庭医)登録も手伝ってもらった。福祉相談員などの専門家はシェルターを訪れてくるので、ローラが出かける必要はなく、安心感を得られた。

    「ホームレス用の宿泊施設とは雲泥の差でした。本当にすばらしく、期待をはるかに超えていました」とローラは言う。

    シェルターに約8カ月滞在した後、ローラは引っ越した。「実家近くの村にある家に私を住まわせ、娘を保育所に預けられるようにしてくれました。シェルターに入るのを手伝ってくれたのと同じように、シェルターを出るのも手伝ってくれたのです。シェルターを去った後も、カウンセリングは受けられました。シェルターを去ってから数カ月間は、必要な時に電話で質問に答えてくれました」

    シェルターが閉鎖や支援の規模縮小に追い込まれたら、「さらに多くの女性が命を落とすことになるのは明白です」とローラは言う。

    「メンタルヘルスの問題が増え、育つ環境から悪影響を受ける子どもも増えるでしょう」とローラは付け加えた。

    ローラは、シェルターで出会ったある女性の話をしてくれた。「過去に4回、夫の元を去ろうして失敗したらしいのです。5回目にようやく、250マイル(約400キロメートル)離れたところで、利用できる場所が見つかりました。彼女が自分の人生を歩み始め、家に戻らない選択をしたのは、そのときが初めてでした」

    「社会そのものが、女性を受け止めることができなくなっています」


    イングランドにおけるシェルターサービスに関するウイメンズエイドの緊急調査によれば、政府の計画に従った場合、シェルターでは推定588床が失われ、2058人の女性と2202人の子どもが施設を利用できなくなる。

    調査に回答したのは、イングランドにあるシェルター270カ所のうち3分の1にとどまるので、これは氷山の一角に過ぎない可能性がある。

    ウイメンズエイドが調査結果を発表したのは、政府がDVや虐待に関する法案について、審議を開始する予定だからだ。この法案は、DVおよび虐待担当委員の任命や、法律におけるDVの定義など、様々な措置を通じて、被害者を保護することを目的としている。

    政府が提案する支援住宅への財政支援モデルは、シェルターにとって最後の安定した資金調達手段である住宅手当を廃止し、住居費を地方自治体に委譲することで、「地域のニーズに合うサービスに資金を提供する」というものだ。

    この新計画の下では、DVシェルターにこれまで直接支払われていた賃貸料が、地方自治体に対して支払われる。このため、シェルターは事実上、資金をめぐって他の地域サービスと競い合うことを強いられることになる。

    シェルターは現在、全国ネットワークとして運営されており、地域のニーズの評価だけに基づいてサービスを提供できるわけではない。女性や子どもがDVから逃れる場合、加害者による追跡を恐れずに生活できるように、地元ではない自治体のシェルターに逃げ込むケースが全体の3分の2を超えており、問題は大きい。

    ウイメンズエイドのシェルターを運営し、DV分野で30年以上働いてきたトレイシー(自身のフルネームやシェルターの所在地を明かさないよう求めた)は、財政支援に関する改正案が通れば「女性たちが死んでしまう」と語った。

    トレイシーは次のように語る。「シェルターはまず安全を提供します。シェルターに来るのは、絶望のどん底で命がけで逃げてきた女性たちです。『見つかったら殺される』と多くの女性が言います。女性たちは怯え、命の心配をし、やつれ果て、打ちのめされています。子どものために逃げ込む場合も多いのです」

    「こうした女性たちは、あざだらけで傷を負い、歯が折れています。人に加えられるあらゆる種類の身体的ダメージを目にしてきました。女性たちは心も傷ついています。ショックを受け、ストレスを感じています」

    「昨日は、ネグリジェ姿のある女性が、2人の子どもといっしょに、所持品が入ったTESCOのキャリーバッグを持って、警察署からやって来ました。お金も書類もパスポートも持っておらず、靴も履いていませんでした」

    トレイシーによると、シェルターは安全な場所であるだけでなく、実質的な支援も提供している。住む場所を与えるだけでなく、子どもの学校を探すのを手伝ったり、精神衛生上のサポートを提供したり、麻薬やアルコールの問題について支援したりしているという。

    「生理用ナプキンや歯ブラシ、衣服、食料を与え、ベッドを提供します。住宅手当の申請を手伝って、住む場所を確保して、子どもを再び学校に通わせます。精神面でのサポートや職業サポートを提供し、法定サービスへの橋渡しをします。生活を再び軌道に乗せる手助けをするのです」

    トレイシーが働くシェルターは29床(単身用が8床で、残りは、子どもがいる女性用)だが、単身用についての問い合わせが先月だけで42件あり、41人の女性が受け入れを拒否された。「平均すると、たぶん1床につき7~15件の問い合わせがあります」とトレイシーは語った。

    トレイシーは、地方自治体がすでに「手一杯で、いたるところで削減を行っている」ので、地方議会がシェルターへの資金提供を打ち切るのではないかと恐れていると語る。そして、政府案は「シェルターが提供するものとその仕組みについての理解不足」を示していると述べた。

    「シェルターに来る女性のほとんどは、その地域から離れる必要があります。けれども、私が住む地域は、他の地域から来た女性を支援する目的では、シェルターに資金を提供しないでしょう」

    「われわれには十分なスペースがありません。財政支援の打ち切りや閉鎖が行われたら、女性たちの命が危険にさらされます。女性たちと子どもたちが死ぬことになります。命を落とす危険がある場所にとどまらざるを得なくなるのです」

    シェルターへの予算削減は、精神衛生や麻薬、アルコール、児童保護に関連するサービスへの負担増大にもつながる、とトレイシーは指摘する。「女性が追いつめられていると感じたり、行く場所がなかったりすれば、他のあらゆる種類の問題が大きくなるでしょう」

    議員になる以前にウイメンズエイドで働いていた労働党のジェス・フィリップス議員は、「その影響で、女性が地域の境界線を越えて移動するためのセーフティネットが破綻する恐れがあります」と述べ、「地方自治体が、すでに約束しているDV関連支出の埋め合わせにその金を充てて、DV関連支出を半減させるのではないかという懸念があります」と付け加えた。

    ウイメンズエイドのチーフエグゼクティブであるケイティ・ゴースは、次のように言葉を重ねた。「シェルターに対する需要はすでに供給をはるかに上回っており、提案されている財政支援モデルが限界に達する恐れがあります。シェルターは、さらに多くの女性や子どもの入所を拒否するか、永久的に閉鎖するかという、ひどい現実に直面します」

    「平均すると、イングランドとウェールズでは、週に2人の女性がパートナーや元パートナーに殺されています。シェルターがもつ意味は、一晩泊まれる場所というだけにとどまりません。多くの女性と子どもにとって、最後の頼みの綱なのです。専門家のアドバイスを無視して、こうした不可欠なサービスをリスクにさらすのは、危険なことであり、多くの女性たちにとって致命的となる可能性があります。全国的なシェルター網のための長期的で持続可能な財政支援モデルを構築して初めて、すべての女性と子どもが無事にDVから逃れられるようにできるはずです」

    ウイメンズエイドは、政府に政策変更の中止を求める嘆願書を作成した。2017年11月30日午後までにすでに3万人以上が署名している。

    政府報道官は次のように述べている。「DVは悲惨な犯罪です。政府は、被害者が必要な支援を断られることがないよう対策を講じようとしています。政府はすでにこれまで、2020年までで4000万ポンド(59億円)の予算を充て、イングランド全体で80のDV対策プロジェクトを支援して2200床以上を提供し、1万9000人以上を助けてきました」

    「すべきことがもっとあることは理解しています。それが理由で、加害者を裁くだけでなく、被害者とその子どもを保護・支援するためにも、『家庭内暴力・虐待法案(Domestic Violence and Abuse Bill)』の草案を提出しようとしています。それに加えて、地方自治体が弱者向け施設の基準を引き上げられるよう、保証された資金を地方議会に委譲する計画も策定しました」

    *個人の保護のため名前は変更しています。


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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