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褒め言葉はいつも「ハーフだから」だった…。ある女性が偏見に打ち勝ち、異文化間教育を始めるまで。

幼い頃から、どんなほめ言葉も「ハーフだから」が前置きだった……。自身の体験に基づき、社会に存在する外見・国籍に対するステレオタイプを失くすために立ち上がった、ある女性を取材しました。

多文化共生社会の実現に向け、子ども達に異文化教育を続ける女性がいる。株式会社Culmonyで代表取締役を務める岩澤 直美さん(25)だ。

幼い頃から「ハーフ」と呼ばれ、偏見に苦しんだ過去がある岩澤さん。ステレオタイプの押しつけにあらがい、子どもたちの多文化理解を育む教育の場を提供するようになるまで、どんな道のりがあったのか。

高校3年生で起業

Culmonyは、子どもたちに異文化間教育のサービスを提供している。

・有料の英語教室「カルモニースクール(Culmony School)」

・ショッピングモール等での無料イベントの開催

・学校での出張授業



など、ニーズに合わせて国の文化・習慣などに触れながら、異文化との共生について学ぶ授業内容となっている。

岩澤さんがこの会社を設立したのは、高校3年生の時だ。

きっかけとなったのは、インターナショナルスクールの土曜学校でのアルバイトでの経験だったという。

土曜学校では、子ども達が外国にルーツがある高校生・大学生と関わりながら、英語で音楽や体育などを体験する。



「こうした交流の場は、すごくいいなと思いました。ですが同時に、インターナショナルスクールに通うにはすごくお金もかかりますし、そういう学校に子どもを通わせる保護者はもともと国際理解がある保護者だったので、経済的に余裕がなかったり、国際理解が少ない保護者の子ども達は、そういう(国際交流の)機会がないだろうなと思ったんです」

「経済的理由から、保護者が通わせられない国際交流の場を無料で提供したい」という思いを持つようになった岩澤さんは、

「カルモニー」を立ち上げた。

カルモニー(Culmony)は、カルチャー(Culture)とハーモニー(Harmony)をかけ合わせた造語だ。

「色々な文化が調和する、尊重する社会にしたい」というメッセージを込めている。



「テレビやメディアが流すステレオタイプを受けてそのまま育ってしまう子も多いと思いました。色んなルーツを持っている人と交流できる場が限られていて、不慣れな人がいることが、その原因だと思うようになったんです。

だから。もっと子どもの頃から、。多様性に触れられる場があるといいなと思いました」

ずっと「ハーフ」のステレオタイプに苦しんできた。

日本人の父と、チェコ人の母をもつ岩澤さんは、幼い頃から日本社会に存在する「ハーフ」へのステレオタイプに苦しんできた。

「なんで外人なのに英語が喋れないの」「なんで日本にいるの」「自分の国に帰らないの」と、友人から心ない質問を投げかけられることも多かったという。スーパーや街中で、他人からジロジロ見られたり、突然声をかけられたりすることもあった。

「日本だとハーフはモデルみたいに、綺麗で細くなくてはいけないというステレオタイプがあって。そうじゃないと『残念ハーフ』と呼ばれたりだとか。小学生の頃から『なおみはハーフだから背が高くて綺麗ね』などと言われていました。

「相手は褒めているつもりでも、『背が高くて綺麗じゃなかったら逆のことを言われるんだろうな』という不安も感じました」

「友人に『ハーフなのに金髪じゃないの』と言われて、それがすごく気になって金髪に染めることもしました。褒め言葉でもいつも『ハーフだから』が前置きになって。だから私自身は、ずっと『ハーフ』として見られているんだ、という感覚がありました」

「こんなに楽な世界があるんだ」

岩澤さんは小学校6年生から中学校3年生の途中まで、家族でドイツに移り住み、現地のインターナショナルスクールに通った。その環境は、今までの日本の学校とは全く違うものだったという。


「学校には本当に色んなルーツの人が通っていました。私がハーフだなんて誰も気にしないし、私の外見についても誰も何も言わない。『こんな楽で、ありのままにいられる世界があるんだ』って感動しました」

ドイツで「ハーフ」として見られる日々からは解放されたが、中学3年生で日本に帰国すると、元通りの状況となってしまった。



「学校はインターナショナルスクールだったので、校内では気にすることはそれほどありませんでしたが、バイト先の回転寿司屋さんで以前と同じように『ハーフだから』と言われることがありました」

大切にするのは「ステレオタイプを助長しないこと」。

岩澤さんは「ハーフ」のステレオタイプに苦しみながら、そうした言動が、悪意ではなく、様々なルーツを持つ人々への知識・理解不足によるものなのではないかと、徐々に思うようになった。

だからこそカルモニーの授業では、「特定の国のステレオタイプを助長するような授業をしないこと」を大切にしている。業務が拡大しても、設立当初からの教育方針も一貫しているという。

「ゲストに授業をお願いするときは『自分の国ではこうです』ではなくて、『あくまで私の文化はこうだけど、同じ国でも他の人は違うんだよ』というように、表面的な文化だけではなく個人的な価値観を教えてもらうようにしています」

「話す内容も工夫しています。一番最初は『好きな映画』や『何をしている時が一番幸せか』などを小さなグループで話し合います。そうすることで、『何人とかは関係なく、この人はこういう人なんだ』というように、ステレオタイプから抜け出して、個人として話せるようになると思います」

子どもたちの変化

カルモニーの授業を初めて受ける子の中には、様々なルーツを持つ人に出会った経験がなく、警戒する子も多いという。またゲストの出身国についてのイメージを聞くと、ステレオタイプに基づいた意見をいう子もいるのだという。


「『アメリカ人は、金髪で青い目でかっこいい人』と言ったり、東アジアの国に対してのネガティブな意見もあったり。それらが、偏った経験から学んだことなのか、保護者の意見やメディアによって生み出されたステレオタイプかは分かりませんが、周囲から影響を受けていることは、事実としてあると思います」

そうした子どもたちの考えは、様々な国出身のゲストと共に文化や生活を学ぶことで変化すると、岩澤さんは語る。

「最初は警戒して泣いていた子も、授業後は『もっと話したい』と質問をしに追いかけてくるようになったりとか。目に見える変化は多くあります」

真の「多文化共生社会」とは

自らの経験に基づき、様々なルーツを持つ人々への偏見をなくすための活動を続けている岩澤さんが思う、多文化共生社会とは何なのだろうか。

「一人一人が相手をカテゴリーで判断しない社会、個人として向き合えることが、多文化共生社会には不可欠だと思います」

「色々なルーツ、色々な文化、色々な言語を話す人がいて、その違いを『素敵だな、魅力的だな』とポジティブに捉えられる社会になるといいなと思います」

「そのためには見た目で判断しないことが必須です。体型、髪や目、肌の色など、外見で判断されることが今は多いけれど、それがどうでも良くなる、もしくはあえて言及しなくなる、それよりも本質的な中身の部分に目を向けられるように一人一人がなるといいなと思います」

「そういう社会を実現するためにはSNSの発信、メディアなど、色々のアプローチがあると思うのですが、私は教育という分野で頑張っていきたいなと思っています」