100年前の「文化を織りなおす」。大学生CEOが、着物×洋服のブランドをプロデュース

    群馬県で100年前から受け継がれる着物である「伊勢崎銘仙」を使用した、色とりどりの洋服が販売されます。その背景には、1人の大学生の「伊勢崎銘仙」にかける思いがありました。

    現役大学生が、着物×洋服のブランドをプロデュース!

    ある大学生が、群馬県伊勢崎市の名産の絹織物「伊勢崎銘仙」を使った洋服の販売を開始しました。

    作ったのは、現役大学生でアパレルブランドAyを運営する株式会社AyのCEO、村上采さんです。いまを生きる若者として、「文化を織りなおす」をコンセプトに洋服作りを続ける思いを聞きました。

    洗練されたデザインのパンツには、伊勢崎市の「伊勢崎銘仙」という伝統的な絹織物が使われています。

    約100年前から伊勢崎で作られてきた伊勢崎銘仙の特徴は、100%絹であること、平織りされていること。そして、たて糸・よこ糸に柄をつけてから織る「先染め」という手法で織られていることです。

    伊勢崎銘仙の色鮮やかな柄は、職人一人一人の高度な技術と、協働によって生みだされています。

    このパンツを販売するアパレルブランド「Ay」を運営する株式会社AyのCEO、村上采さんを取材しました。

    慶應義塾大学総合政策学部4年に在学する現役大学生としてアパレルブランドAyを立ち上げた村上さん。「文化を織りなおす」をコンセプトに伝統を継承する服作りをする、その思いを聞きました。

    「100年前に、こんなにレトロで可愛いものを一般の人が着ていたんだ」

    村上さんが初めて伊勢崎銘仙に触れたのは、中学生の時。地元のおばあさんたちが、銘仙を現代に継承することを目的に、銘仙の歴史や作り方を教えるワークショップを中学校で開いてくれたことだったといいます。

    「100年前に、こんなにレトロで可愛いものを一般の人が着ていたんだということに魅力を感じましたし、絹を選ぶ精神やこだわりがすごく素敵だなと思いました」

    明治、大正、昭和の時代にふだん着・おしゃれ着として人気を博した伊勢崎銘仙でしたが、戦後の洋装化などで需要が減るようになりました。作り手の高齢化が進み、技術の継承も大きな課題となっています。

    コンセプトは「文化を織りなおす」。伝統文化のアップデートを目指す。

    新型コロナウイルス感染拡大の影響で、海外へ行けなくなった今、国内で出来ることを模索していた村上さんは、この銘仙を使って服作りが出来ないかと考えるようになったといいます。

    現代に継承したいという年配の方と協力し、「文化を織りなおす」をコンセプトに銘仙の製品化へと踏み出しました。

    「銘仙の着物自体は継承できなくても、職人さんたちが大切にしてきた精神性を、洋服として違う形でアップデートして構築し直して部分的にでも継承していけたらなと思っています」

    伝統文化を、今の若者世代に継承していけるように、デザインも工夫しているといいます。

    「若い人やおしゃれが好きな人に『かっこいい』と思ってもらえるようなデザインを意識しています」

    きっかけは、アフリカに

    村上さんがアパレルブランドAyを立ち上げたのは2019年5月。

    立ち上げたきっかけは、実は伊勢崎銘仙ではなく、アフリカのコンゴ民主共和国で出会ったカラフルな服地との出会いでした。

    コンゴは、独特な色彩と感覚のファッション「サプール」で知られ、世界的な影響を与えるファッション大国でもあるのです。

    村上さんは2019年3月、研究会の活動の一環として4週間、このコンゴに渡りました。

    「日本の学生とコンゴの人々がお互いに学びあって成長する」というコンセプトのもと、現地で文化交流したり、日本語スピーチコンテストを開いたりしました。しかし、村上さんがそこで感じたのは、ボランティア活動の限界でした。

    「イベントは、予想通りには進みませんでした。集客も難しく、現地の人々のニーズをつかむことが出来ないまま、気づけば学生のやりたいことだけをやってしまっていたんです」

    「ボランティアでは、結局自己満足になってしまったと感じて。一方的な手助けでは、私たち自身はあまり成長できていないと感じたんです。その原因は、自分がリスクを負っていないからだなと思いました。そして持続可能なビジネスでなら、自身にも現地の人にも還元することができるのではないかと考えました」

    悩みの中で思い出した、ファッションへの情熱

    渡航してから約2週間が経ち、イベントでの反省から「自分のやりたいことは何だろう」と考えるようになった時に、日本とファッションビジネスを立ち上げたいと考えていたコンゴの若者に出会いました。



    「彼らはファッションへの情熱があったし、本当に自分たちのやりたいことをやっていて。それで『私は何がしたいんだろう』と考えるようになり、昔からファッションやお洋服が好きだったなと思い出しました」


    こうして自身のファッションへの熱意を再確認した村上さんは、「日本とコンゴをつなげるビジネスをやっていこう」と決意したといいます。

    そして渡航の2カ月後、Ayを設立しました。

    

ボランティア活動での反省を胸に、村上さんはブランド作りでも現地とのコミュニケーションを大切にしたと振り返ります。

    「コンゴにいる彼らが持つ、たくさんのアイデアを大事にしています。例えば、彼らは布地の種類や柄にとても詳しいんです。そうした彼らのアイデアと私のやりたいことをすり合わせていく作業を大切にしています」

    こうして村上さんは、コンゴの若者と話し合いを重ねてデザインした洋服をコンゴで生産し、Ayのオンラインショップで国内販売されました(現在は販売終了)。

    村上さんの元には、Ayの服を買った人たちから、様々な声が届きました。

    「『Ayの洋服を着て出かけると、必ず周りの人に褒められる』だとか、『一着一着に愛が詰まっているから大切に着られる』といった声を頂くと本当に嬉しいですし、やりがいを感じます」

    ずっと変わらない、「ストーリーを伝えたい」という思い。

    今年3月にコンゴへの渡航を予定していたのですが、新型コロナの影響で中止となりました。コンゴで服を生産することも難しくなり、ブランド自体も停滞しました。

    村上さんは故郷の伊勢崎に長期間、帰省することになりました。そこで目を向けたのが、伊勢崎銘仙でした。

    コンゴでの洋服作りにいったん区切りをつけ、伊勢崎銘仙の力を活かす方向に、大きな方向転換をすることになりました。

    しかし、村上さんがコンゴでの経験から学んだ、「ストーリーを伝える」洋服作りは変わりません。

    村上さんは、コンゴ人との共同作業で、現地とのコミュニケーションを大切さを学びました。

    だから、伊勢崎銘仙を使った新しいラインの商品開発でも、職人さんや年配の方と意見を交換しあい、自身も銘仙の歴史をしっかり学ぶことを重視しているといいます。

    「私は文化にすごく興味があります。自分が文化を体験して、感じたことを服にすることに魅力を感じています。これからも、実体験を服として表現していく、現地の人と一緒に作り上げる服作りを続けていきたいです」

    若い人目線を大事にした村上さんのデザインが施されたパンツは、伊勢崎銘仙の職人達の巧みな技術を受け継ぎ、Ayオンラインショップで国内販売されます。

    Ayが若い年代をターゲットとしているのにも理由があると、村上さんは語ります。

    

「パッと見たらただのカラフルなパンツだと思うんです。でも、そこから紐解いて背景のストーリーを感じてくださったら嬉しいなと思います。そして若い人がそこから伝統文化や地域に関心を持ってもらえるきっかけになればいいなと思っています」

    「今はまだ知名度は低いですが、さらに若い方に文化を知っていただけるような仕組みづくりをしていきたいと思っています」