「障害がある人が創作するモノ=安いモノ」?アートが生み出す「異彩」を信じて、奮闘する人たちがいる。

    「障害」という言葉に対するネガティブな印象を、アートの角度から変えようとしている会社があります。

    「障害者が描いてるの?なんでこんな高いの?」

    障害のある作家のアート作品が展示された美術館型店舗で、あるスタッフの男性にかけられたこの一言がTwitter上で話題になっています。

    「障害」という言葉に残るネガティブなイメージを変えようと奮闘する、ある会社を取材しました。

    話題となったツイートをしたのは、株式会社ヘラルボニーで働く大田雄之介さんです。

    「障害者が描いてるの?なんでこんな高いの?」 今日、店頭で言われたひとこと。 なるほど。 「障害がある人が創作するモノ=安い」 そう捉える方もいるのか。 僕たちは、ちがいの面白さに可能性を感じている。 しかし、ぼくはこれらの作品を見て、安いと思うことは一生無いだろう。最高だ。

    今回ツイートされたのは、愛知県名古屋市の商業施設「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリパーク)」にて、株式会社ヘラルボニーが事業の一環として出店している「サステナブル・ミュージアム」での出来事でした。

    大田さんの勤める株式会社へラルボニーは、知的障害のある作家が描くアートを軸に、障害という言葉がまとうネガティブなイメージを変容し、障害のある作家たちが活躍できる場を創生することを目的とした「福祉実験ユニット」です。

    障害をもった作家が手がける約2000点のアートを管理し、この作品を元に、アートプロジェクトやブランドの立ち上げなど幅広い事業を展開しています。

    「障害者が描いてるの?なんでこんな高いの?」と投げかけられた質問に対して、大田さんは自身のツイートでこう答えています。

    「僕たちは、ちがいの面白さに可能性を感じている。ぼくはこれらの作品を見て、安いと思うことは一生無いだろう。最高だ」

    アートを軸とした新しい福祉の形を模索し、「障害」のイメージを変えようと奮闘する、株式会社ヘラルボニーとはどんな会社なのでしょうか。

    「この絵、何が描かれていると思いますか?」

    取材の冒頭で、大田さんはある絵(上の写真を参照)を見せながら、突然記者にこう質問を投げかけました。

    
「突然質問してすみません、この作品、実は『桃太郎』を描いたものなんです。確かに言われてみれば、真ん中の桃からウワッと桃太郎が飛び出ているように見えてきませんか?」

    

「これまでこの作品をご覧いただいた方に桃太郎と言い当てた方はいませんでした。僕たちは、作家さんたちが見ている世界を、あえて『普通とは違う』という風に言ってるんですけど、この違いにこそ可能性があると考えているんです」

    ヘラルボニーの理念は「異彩を放て」。障害のある作家の活躍の場を広げることで、障害のイメージを変えていくことを目指しているのだといいます。

    「障害のある作家さん一人一人を『異彩』と捉え、異彩を世の中に発信していく。それによって、まだまだ残る障害に対するネガティブなイメージを変えていくことを目指しています」

    設立のきっかけは、CEO・COOの「兄」の存在。

    会社設立の背景には、会社設立の背景には、一卵性の双子であるCEO松田崇弥さんと、COO松田文登さん兄弟の、4つ上の兄・翔太さんの存在があったといいます。

    翔太さんには自閉症という先天性の障害があることから、幼い頃から周りに「可哀想」と言われることが多かったといいます。

    「同じ感情を抱いている人間なのに、なぜ兄は『可哀想』と見られるのだろう?」と、疑問を持ち続けていた松田さんらは、「知的障害のある方々に関わる仕事がしたい」と思いでへラルボニーという会社を立ち上げたのだといいます。

    高校生の頃から松田さん兄弟と知り合いだったという大田さんは、就職後会社を立ち上げようと奮闘していた松田さんの強い思いに触れ、徐々にヘラルボニーの事業に関わるようになっていきました。

    「ヘラルボニー」という社名に込められたメッセージ

    社名である「へラルボニー」という言葉は、松田さんの兄が7歳の頃に自由帳に書いていた言葉なのだといいます。

    検索しても意味がヒットしない不思議なその言葉に、松田さんは強く惹かれました。

    「世の中にとっては何の意味も持たない言葉かもしれない。けれども、7歳の頃の兄にとっては、言葉の耳心地・響きが良かったのかもしれない。言葉の字面が良かったのかもしれない」

    こう考えた松田さんは、「一見意味がないと思われる思いを、企画によって世の中に価値として創出させたい」という思いを込めて、この社名を採用しました。

    福祉業界の領域を拡大していく

    ヘラルボニーは、社のバリューとして「アソブ、フクシ。」を掲げ、福祉の領域を拡大することを目指しているといいます。

    「まだまだ作家さんたちのアートが、福祉の業界内に留まっていると思っています。彼らの活躍の場を、福祉業界だけでなく、いろんな分野に拡張していくことが大事なのかなと思っています」

    そのために「障害」というイメージを変える必要がある、と考えている大田さん達は、作家たちのアートをより多くの人に作品を見てもらうことが大切だと考えています。

    「(イメージを変えるためには、)『必然的な出会い』をしてもらうことが必要だと思っています。だからこそ、工事現場の壁紙や駅を利用したアートプロジェクト、アパレルブランドの立ち上げなどを行っています」



    福祉ユニットという形態をとりながら、社内に福祉のバックグラウンドを持つ人がいないというのも、ヘラルボニーの特徴だといいます。

    「CEOは広告代理店、COOはゼネコン出身ですし、私は元々輸出入や貿易などの業界にいたんですよ。そういった多様なメンバーが集まることにより、固定概念にとらわれない仕事の幅が広がっているのかもしれません」

    作家の口から、初めて聞いた「楽しかった」の一言。

    作品を手がける作家たちからは、様々な反応があるといいます。

    その中でも大田さんの思い出に残っているのは、小林覚さんという作家の方のエピソードでした。

    「岩手県のJR釜石線の電車の外装に、小林 覚さんという作家のアート作品が採用された時のことでした。覚さんはいつも、お父さんとの食事の場で、食べ物の話しかしない方なんですよ。でも、自分のアート作品が描かれた電車を見に行った日、いつものように覚さんがお父さんと夕飯を食べていると、お父さんに『今日の電車の出発式が楽しかった』って話していたんです。その時に、『あぁ、覚さんも喜んでいるんだな』と感じて、本当に嬉しかったです」

    「持っている力をもっと平等に、社会に出せる場を作りたい」

    冒頭のツイートでも書かれた出来事をはじめ、社会には未だ「障害がある人が創作するモノ=安い」という偏見が残っています。これについて、大田さんは自身の思いをこう話しました。

    「社会にこう変わってほしいというのはなくて、結果で勝負するしかないと思っています。作家さんたちが作りだす作品は本当に素晴らしいですし、私たちが信じるかっこいいものを広めていきたい。障害があるから値段が低いとかではなく、1つの作品として、アーティストとして見られる世界がくるという信念を持って活動しています」

    
「作家さんたちが持っている力をもっと平等に、社会に出せる場を作って行きたいと思っています」