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2つの国で「よそ者」だった母が、子どもの給食にこだわる理由

生まれた時から「無国籍」だった女性がいる。「外人」と呼ばれながらも、日本人として母となることを決めた彼女。女性として、母として、彼女が追い求めるものとは。

生まれた国でも、第二の故郷でも「外人」と呼ばれてきたーー。

少数民族に生まれ、国の体制に翻弄されて出身国を追われた女性がいる。生まれた時から「無国籍」だった彼女は、日本で母となった。

自らの民族が迫害を受ける中、彼女はいま、何を思うのか。

「本当に最悪な3年間でした」

Hana Shimada/ BuzzFeed

「本当に最悪な3年間でした。朝がくるのが怖いくらい。わたしはこのまま救われないんだと思っていました。」

日本での最初の3年間をそう振り返る長谷川留理華(30)さんは、ミャンマーで生まれ育った女性だ。現在は都内で夫と4人の子どもと暮らしている。

長谷川さんは、かつて「難民」だった。そして、二つの国で「外人」と呼ばれていた。いじめを、受けてきた。

「私、もともとはロヒンギャとしてミャンマーにいたんです」

ロヒンギャとはミャンマーの少数民族の一つ。仏教国のミャンマーにおいて、イスラム教を信仰しているロヒンギャは、長らく差別の対象とされてきた人たちだ。政府は、ミャンマー人としての国籍を認めていない。

ロヒンギャが国際的に特に注目を集めたのは、2017年8月。ミャンマーのラカイン州で起きた武力衝突がきっかけで開始された、ミャンマー軍によるロヒンギャ掃討作戦からであった。「民族浄化」とも称されるこの作戦によって、現在約90万人が国外避難民となってバングラデシュなどの周辺国に逃れている。

長谷川さんがミャンマーから逃れたのは、2001年。2017年の人道危機の直接的な被害者にはならなかったものの、長谷川さん一家も、迫害を受けなかった訳ではない。

「父は、ミャンマーで高校の教師だったんです。その時期、父の同僚も拘束されるようになって、私の生まれた1年後くらいに、父も指名手配されるようになって。週に2、3回、軍が父を探してきていたようです。ミャンマーでは軍が圧倒的な力を持っているので、彼らが家に来ることは、想像を超える恐怖でした」

Hana Shimada/ BuzzFeed

ミャンマーでは市民と永住者は、政府発行の国民登録証を携帯する事が求められている。これは就学や就労、居住移転など様々な手続きの際に必要な書類だ。

しかし、長谷川さんを含むロヒンギャ民族は、ミャンマー国籍を認められていないため、他のミャンマー人が国民登録証を受理できる年齢になっても、取得できなかった。

つまりそれは、大学進学や就職ができないことを意味する。この年、長谷川さんはミャンマーを後にした。母国での将来を諦めた末での決断だった。

パスポートもなかったため、ブローカーに手配してもらった「離陸許可証」だけを手に、先に父が逃げていた日本へと渡った。父が日本で難民申請し、在留特別許可を得ていたのだ。

来日したのは、2001年のこと。小学校の卒業を間近に、全く日本語がわからない状態からのスタートだった。

『こいつは、いつもこんな弁当を食っているから肌がこんな色なんだ』

Hana Shimada/ BuzzFeed

イスラムの教えに沿っていることを意味する「ハラル」のマークがついた食品

「日本には大きな希望を持って来ていたんです」。しかし、希望の地で長谷川さんを待っていたのは、いじめの日々だった。

「ミャンマーでもKalar(外国人を蔑称するミャンマー語)と呼ばれていたのに、日本に来てもまたいじめかと。本当に、自分は救われないのかという気持ちでした」

長谷川さんはイスラム教徒だ。食事にはイスラムの教えに従う必要がある。このため持参したお弁当が原因で、いじめにあった。

「日本のお弁当は可愛いのに、自分のはそうではなかった。スチールの三段弁当にカレーが普通でした。『こいつは、いつもこんな弁当を食っているから肌がこんな色なんだ』と言われて。言葉も、友達の作り方すらわからない状況だったんです」

その後、高校に進んだ長谷川さんは、このままではいけない、と自分を変えようと決意した。

「自分は、今住んでいるここで負けないようにしないといけない。中学校で3年間いじめにあった分、強くなろうって思ってました。自分から進んで挨拶するし、いつも明るくしてた。自分がガラッと変わったんだと思います。高校デビューしちゃいました(笑)」

17歳の時に、結婚。

Hana Shimada/ BuzzFeed

高校在学中に、結婚した。相手は親が以前から長谷川さんの結婚相手に、と決めていたロヒンギャの男性だった。

ロヒンギャの文化では、結婚の時期や相手は、親や親族が決めることが多い。

相手の男性は当時、マレーシアで暮らしていた。双方から集まりやすいタイに向かい、挙式をした。

「『日本で楽しい高校生活を過ごしていたのによく結婚したね』とよく言われるんですけど、『結婚しないと家に帰れないよ』と親に言われて。その時は学校の友達に早く会いたくてしょうがなくて。早く結婚して早く日本に帰ろうという感じでした(笑)」

初めて日本国籍を取ろうと思ったのは、高校後に進学した、建築の専門学校の2年生の時だった。ヨーロッパ留学のビザがおりず、長谷川さんだけ留学することができなかった事がきっかけだった。

「将来、子ども達にも同じように苦しんでほしくないから、日本国籍をとりました。ロヒンギャの中では日本で最初に国籍を取ったんです」

しかし、その道のりは決して簡単なものではなかった。

「帰化する時ってみなさんが想像するのを、はるかに超える量の書類を提出しないといけないんですよ。それが自分だけじゃなくて父や母の分も。何が一番大変だったかというと、自分たちはミャンマーで国籍さえ持っていなかったので、その書類を集めるのが本当に大変でした。なんとか書類を出した後も、すぐに帰化できたわけじゃなくて、6年前に初めて帰化できました」

長谷川さんが日本に来てから、12年が経っていた。

人と人を繋げる食文化

Hana Shimada/ BuzzFeed

息子の為に特別に作られた献立表を説明する長谷川さん

日本とミャンマー。二つの国で、「よそ者扱い」を経験してきた長谷川さん。自分の子どもに同じ思いをしてほしくないという気持ちから、子育ても工夫しているという。

息子の小学校の入学通知が届くと、学校にすぐ、給食について問い合わせた。息子もイスラム教徒。教えに沿った食事をする必要があるからだ。

学校に、1人だけ特別扱いできないと拒否されても諦めず、教育委員会にも相談した。その結果、学校側の提案で、給食で豚肉などイスラム教徒が食べられないメニューがある日は、事前に献立表で知らせることになった。

そういう日は、長谷川さんが別の料理を作って息子に持たせ、みんなと一緒に食べることにした。

「この話をすると『たかが給食のためにそこまで』って言われます。でも、私は食事が原因でいじめにあったのがすごくトラウマなので、『されど給食』なんです」

「学校から出してもらった温かい食事をみんなと食べるからこそ意味がある。うちの子のために、ここまでして下さったことがとても嬉しくて。これからも周りと違うことに対して、妥協せず、先生たちとコミュニケーションをとっていきたい」

Hana Shimada/ BuzzFeed

食卓には長谷川さんお手製の料理が並ぶ

長谷川さんの話には食事の話がよく出てくる。

なぜ食にそこまでこだわるのか。その理由を聞くと、そこには出生地とは文化が異なる土地で生きる、長谷川さんなりの思いがあった。

「イスラム教徒はお祈りするけど、お祈りする日本人の人は少ない。だからお祈りの話って伝わらないことがあるかもしれない。でも人って絶対食事だけはとってるじゃないですか。食文化って一番人と人が繋がりやすいものだと思うんです」

「帰れない人」に何ができるのか

多くの苦難を乗り越えた長谷川さんはいま、4人の子育てをしながら通訳をしている。多くは同じ立場であるロヒンギャの人たちの裁判や、その実情を伝えるメディアの仕事だ。

文化の違う二つの国の間で、息苦しくなることはないのだろうか。

Hana Shimada/ BuzzFeed

「私が帰化して一番いいと思っていること、なんだと思います?例えば、海外で問題が起きた時。昔の私だったら、無国籍だからどこに帰ればいいかわからなかった。けれど、今は日本が私の国だから、自分の帰る場所がある。ホームがある」

「帰化するまでは、帰りたいという気持ちがすごくありました。でも今は自分を国民として認めてくれた日本の国籍でいながら、人としてロヒンギャ民族に何をできるかなということを考えています。自分が帰りたいとかじゃなくて、帰れない人たちに何をしてあげられるのか。自分は今、居場所があるけど、居場所がない約100万人の人たちはどうするのかな、と。この人たちの為になんとかできたらいいなと思っています」

もちろん、生まれた地を恋しいと思うこともある。ミャンマーにいる祖母の死に目に会えなかったときは、寂しさも覚えた。とはいえ、自らの選択に後悔はしていない。

Hana Shimada/ BuzzFeed

「私も自分なりに色々考えて、今この立場にいます。そしてすごく運がいいと思っています。日本の文化を学ぶ機会があるし、ミャンマーやロヒンギャの文化も学べる。全ての人がもらえるわけじゃない機会を、自分が持っているってすごい事なんだよって子どもにも教えてて。ロヒンギャ、日本、ミャンマーの料理や服装、習慣を子ども達に上手に伝えられたらなって思っています」

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昨日も、きょうも、これからも。ずっと付き合う「からだ」のことだから、みんなで悩みを分け合えたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。

明日もがんばる私たちへ。BuzzFeed Japanでは性や健康について考え、「男らしさ」や「女らしさ」を超えて、自分らしく生きる人を応援するコンテンツを届けていきます。

10月1日から10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)まで、こちらのページで特集を実施します。

アップデート

表現を一部、修正しました。

Contact Hana Shimada at hana.shimada@buzzfeed.com.

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