女性アスリートが支払い続ける代償とは

    「最高のプレイができる自分になるために体を鍛えています。だから、見た目は二の次なんです」

    アマンダ・ファルージア/AFLウィメンズ

    「立ち直る力がすごく要求されるよ。それから、たくさんの勇気も」

    もし過去に戻り、オーストラリアン・フットボールを始める前の自分に何かを語ることができるのならば、アマンダ・ファルージア(33)はそう言って聞かせるだろう。

    「すごくお転婆で、BMXやスケートボード用のスロープを自分でつくってました」とアマンダは話す。子どものころは、兄といっしょに裏庭でオーストラリアン・フットボールに明け暮れていたという。

    アマンダは、BuzzFeed Newsが今回のGetty Imagesとの共同企画でインタビューを行った7人のアスリートのなかのひとりだ。

    20代半ばを迎えたころ、バスケットボールやタッチフットボールに物足りなさを感じるようになっていたアマンダは、「女子もシドニーのオーストラリアン・フットボール・リーグ(AFL)でプレイできるか?」とググってみた。

    アマンダは現在、「グレーター・ウェスタン・シドニー・ジャイアンツ」のキャプテンを務めている。ジャイアンツは、2017年に発足した「AFLウィメンズ」に参加する最初のチームのなかのひとつだ。

    Anna Mendoza/BuzzFeed News

    このリーグは、オーストラリアに以前からある男子AFLの女子版だが、厳密には「プロフェッショナル」ではない。選手には、プレ・シーズン中は週13時間分、イン・シーズン中は週10時間分の報酬しか支払われないのだ。

    AFLの男性選手の平均年俸は35万2470豪ドル(約2937万円)であるのに対し、女性選手はシーズンあたりで8500豪ドル(約70万円)、トップクラスの選手でも2万豪ドル(約166万円)ほどだ。

    AFL女子リーグでプレイするほとんどの選手と同じく、アマンダも定職に就いている。シドニー西部で体育の教師をしているのだ。けれども、いつかきっと女子リーグも「れっきとしたプロスポーツ」として認められる日が来る、と彼女は信じている。

    「少しずつでしょうが、女子もプロとしてフルタイムでプレイしたければ、仕事をやめられるようになっていくと思います」とアマンダは語る。「そうなるころにはとっくに引退していると思いますが、それでもそんなことを考えていると、ワクワクしてくるんです」

    「ウエスタン・ブルドッグス」のティアーナ・アーンストも産科医をしている。「メルボルン・デーモン」のシャーリー・スコットも本職は酪農家だし、「ジーロング・キャッツ」のリシェル・クランストンも造園家だ。

    「女性アスリートにとっていちばん大きな障害は、スポーツの世界で成功するために払わなければならない犠牲の大きさだと思います」とアマンダは語る。

    「私のチームにも、メンタルヘルスに問題を抱えている女の子が大勢います。背景には、実家を離れなければならなくなったり、お金に困っていたり、お互いが別々の州で暮らしているせいで恋人との関係にヒビが入ってしまったりといったことがあります」

    「たしかに、私たちと同じような問題を、ほかの多くのアスリートも抱えているかもしれません。でも、私たちはセミプロで、使えるお金には限りがあります。これが大きな障害になっていることは明らかです。男子と比べると、私たち女子がぶつかる壁はとてつもなく大きいのです」

    アマンダは2012年、プレシーズン・トーナメントの9人制の試合でのプレー中に、前十字じん帯を切ってしまった。じん帯再建術を受け、ひざ関節のまわりの筋肉のリハビリに1年を費やした。

    「AFLはそのぐらい過酷なスポーツなんです。おそらく、私が知っているほかのどのスポーツよりも、自分の体に注意を払わなければならないと思います」とアマンダは話す。

    走りすぎのせいで、彼女は軟部組織の損傷や、使いすぎ障害を「数えきれないほど」経験してきた。いまも外脛骨(足の内側にある骨)を損傷しており、まだ完治には至っていない。

    「女がコンタクトスポーツなんかするからケガをするんだ、というおかしな主張をよく耳にします」とアマンダは語る。

    「でも、コンタクトスポーツは、それをプレイしたい人、勇気を持ってそれに挑戦したい人であれば誰にでも開かれています。私は本気で取り組んでいます」

    ピップ・マローン/重量挙げ、クロスフィット

    「一流のアスリートはいつでも、壁にぶつかりながらも最後にはトンネルを抜けるものです」。オリンピック重量挙げ選手のピップ・マローン(29)は、笑いながらそう言う。

    「普通の人は、家でソファーに座りながらオリンピックを観戦します。すごいアスリートたちが、すごいことをしているところを。でもその陰では、計り知れないほどの犠牲が払われていることは知られていません」

    「幸運」にも、骨折したことはまだ一度もないとピップは言う。

    「いつもどこかしらケガしています。じん帯や腱の断裂、肉離れ……本当にあちこち損傷しています」と彼女は話す。

    持ち上げるウエイトは日増しに重くなっていくため、重量挙げの選手にとって、痛みはトレーニングの「欠かせない一部」だ。

    「トレーニングのあと、いつもコーチに言うんです。『目玉が飛び出しそうになったわ』って」とピップは語る。

    「いつも、何かが外れて落ちてしまいそうな気がするんです」

    骨盤には、「仙骨」と呼ばれる大きな三角形の骨が、丈夫なじん帯でつながれている。ピップはそのじん帯を「きれいに切って」しまったことがある。

    「そのときは気づきませんでした。あとになって、完全に切れてしまっていることがわかったんです。6週間ぐらい休むことになってしまいました」と彼女は話す。

    重量挙げの前に体操をしていたころには、ほかの女子選手が複雑骨折を負ったり、「両方のすねの骨が脚から飛び出したり」、ひじを脱臼したりするところを目撃することもあったという。

    今年、コモンウェルスゲームズ(イギリス連邦に属する国や地域が参加して4年ごとに開催される総合競技大会)に出場する直前のこと。ピップは、バーベルのキャッチを「少し失敗」してしまった。

    「1時間後、鎖骨が黒い卵のようになっていました」と彼女は語る。「折れていなくてラッキーでした」。

    ピップは体操をやめた後、自分の体との「関係」がよくなったと語る。

    「体操の場合は小柄であることが期待されます。でも重量挙げなら、自分の体が目的に合っているのがわかります。こういうことはなかなかないので、ありがたいなと思ってます」

    「クロスフィット(高強度フィットネス・プログラム)のジムに行くと、私みたいな体格の女の子たちがいて、その体格が称賛されていたんです」と彼女は語る。

    重量挙げにとっては、今後も継続してドラッグを取り締まっていくことが重要だと彼女は言う。

    「これからは、いままでは重量挙げで優秀な成績を収めてこなかった国からナチュラルな選手がどんどん現れてくると思います。私たちはみんな、とんでもない重量を持ち上げられるけど、ひげが生えたりしているわけではなく、ごく普通の女子アスリートだということを、メディアが目の当たりにしているところなんです」

    エミリー・チャンセラー/ラグビーユニオン

    エミリー・チャンセラーは、以前はネットボールの選手だった。けれども女子ラグビーチームに入らないかという大学からの勧誘メールを受けとったとき、彼女は思った。

    「ラグビーって相手を地面に押し倒してもいいんでしょ? タックルのしかたが学べるんだったら、ちょっといいかもって」

    そして6年後、エミリーは女子ラグビーのオーストラリア代表チーム「ワラルーズ」の一員になっていた。対戦相手にタックルするときの彼女は、まったく躊躇しない。

    「相手と接触するときに慎重すぎると、かえってケガをするリスクが高くなるんです。思い切って全力でいかないと。そのほうが痛くないですし」と彼女は話す。

    とはいえ、エミリーもそれなりにケガを負ってきた。昨年は足を負傷し、足の親指と人差し指のあいだのじん帯を切ってしまった。

    「2度の手術を受けて、半年後に復帰しました」

    回復には「時間がかかり」「活力を奪われ」「精神的に疲れた」という。

    「ケガをすると、なぜ自分はこのスポーツをしているのかという問いと向き合うことになります。でも、どうしてこんなことをしているのか、本当にこれがしたいのか、ということをじっくり考えられる、ちょうどいい機会だと思います。私の場合、答えはすごく簡単でした。もちろん、イエスです」

    エミリーは、女子ラグビーの未来に胸を高鳴らせている。オーストラリアが8月に、「女子ラグビーワールドカップ2021」の開催国に立候補したことにもだ。

    「ここ数年の選手たちのがんばりのおかげで、女子にコンタクトスポーツは無理だという誤解は払拭されたと思います」と彼女は語る。

    「オリンピックに出場した女子選手たちは、女性にも目を見張るようなプレイができることを証明しました」

    「女性は体つきも違いますし、担う役割も違っています。それは十分にわかっています。でも、いまの世の中に目を向けると、職場でも競技場でも、女性が男性にまったく引けをとっていないことが証明されていると思います」

    グレース・スチュワート/フィールドホッケー

    グレース・スチュワート(21)は、女子フィールドホッケーのオーストラリア代表チーム「ホッキルーズ(Hockeyroos)」に所属している。2016年のリオデジャネイロ・オリンピックにも弱冠18歳で出場した。幸運にも「本物の」ケガをしたことがないと彼女は言う。

    「ご存知かどうか知りませんが、ホッケーのボールはすごく堅いんです。そのせいで歯を一本失ってしまいました。顔を何針か縫うケガも負いました」とグレースは語る。

    「でも、すぐにトレーニングに戻りました。何事もなかったみたいに」

    グレースは、5歳の時からフィールドホッケーをプレイしている。その過程では生活の拠点も、ニュー・サウスウェールズ州のサウスコーストから、西に何千キロも離れたウエスタンオーストラリア州パースに移した。

    「家族とも、友人とも、離れなければなりませんでした。自分を支えてくれるのは家族や友人だと思いますし、大きなプレッシャーのなかでプレイしなければならないエリートスポーツでは、彼らの存在がとくに重要なんです」と彼女は言う。

    グレースは、トレーニングを週5日行っている。重点を置いているのは「脚」だ。彼女に言わせると、脚こそがホッケー選手の「土台」なのだという。

    「最高のホッケー選手になるためにトレーニングしています。最高のプレイができる自分になるために体を鍛えています。だから、見た目は二の次なんです」

    国際ホッケー連盟は2018年、FOXスポーツ・オーストラリアと、5年間のパートナーシップ契約を結んだ。オーストラリアの女子ホッケーが知名度を上げられる大きなチャンスが来たとグレースは言う。

    「今度、みんなでテレビに出ることも決まったんです。すごく楽しみです」

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    ダニエル・プライス/新体操

    片方の目のまわりにできたあざと欠けた歯をのぞくと、ダニエル・プライスのケガのほとんどは、コモンウェルスゲームズとオリンピック、7度の世界体操選手権に向けたトレーニングと本番で体を酷使したことが原因だという。

    「たぶんいちばんひどかったのは、大腿骨がつながっている寛骨臼の亀裂だと思います」と彼女は語る。

    「新体操の選手は二重関節の持ち主で、脚も高く上がります。ケガの原因は、脚をいつも、あり得ないほど高く頭の位置まで上げていたせいでした」

    彼女はトレーニングを週6日行っている。「体操に特化したトレーニングだけで週30時間、そのほかにピラティスとストレングス&コンディショニング、フィットネス、水泳もしています」。

    ダニエルは現在26歳(本人いわく「新体操の世界では、どちらかというと、もうおばあちゃんです」)。この16年間の大半を、どうすればレオタードを着てしっくりくるのか、その方法の模索に費やしてきた。

    「新体操の選手の場合、思春期を経て大人になると、自分の体との付き合い方は大きく変わります。それじゃダメだって言われるんです」と彼女は語る。

    「大会までに10キロ落とせって何度言われたかわかりません」

    「私の場合、自分の体と対話することをいつも重視しています。よく食べ、よく眠ることを心がけ、理学療法やマッサージも受けて、いつも体をやさしくいたわっています」

    ゆくゆくは「カーペットの反対側に足を踏み入れる」ことをプライスは楽しみにしている。

    「現役生活を終えたら、自分の手でチームを育ててみたいんです。そしていつか、オリンピックやコモンウェルスゲームズに連れて行けたら」と彼女は語る。

    「私が現役時代に積み重ねた経験をそのまま伝えるのではなく、少しでもいいものに変えることに情熱を傾けたいです。体やトレーニングの仕方、トレーニング中の選手の扱われ方などについてね。次世代の女子選手が積み重ねる経験がポジティブなものになるよう、こうしたことを変えていきたいんです」

    クリスティアナ・マヌア/ネットボール

    「ジャイアンツ・ネットボール」に所属するクリスティアナ・マヌア(23)は2016年、アキレス腱を断裂した。

    「誰に蹴られたのか確かめようと振り返りましたが、そこにはもう誰もいませんでした」と彼女は言う。

    クリスティアナを待っていたのは、1年間のリハビリだった。

    「すごくきつかったです。たぶんいちばんつらかったのは、自分の体のため、そして、コートに戻るためには何をしなければならないのかがわかったときです」

    クリスティアナは現在、週に5~6回トレーニングを行っている。その内容は、ランニングやウエイト・リフティング、ボクシング、コートでのプレイと多岐にわたっている。彼女はいまも、ネットボールを強い精神力が要求されるスポーツだと感じている。原因は、途絶えることのない批判やフィードバックだ。

    「まわりにいる人たちやチームメイト、コーチからのコメントのことです」と彼女は語る。「内容はさまざまですが、強い心を失わずに受け入れるのは本当に難しいです」。

    クリスティアナがネットボールを始めたのは楽しみのためだった。体を動かし、友だちといっしょに時間を過ごすための一手段だった。ところが、高校生活が終わりに近づいたころ、ネットボールは彼女が職業として追い求められるスポーツであることに気づいた。

    かつての自分に言葉をかけるとしたら、彼女はこんなふうに言うだろう。がんばり続ければ、きっと最後にはすべてうまくいくと。

    「全力で努力を続ければ、物事はうまくいくんです」と彼女は語る。

    オーストラリアでは女子スポーツがどんどん大きくなりつつあるとクリスティアナは言う。

    「AFLウィメンズとウィメンズ・ラグビーリーグが誕生し、女子スポーツのフィジカルな側面が世間に伝えられるようになったと思います」と彼女は語る。

    「ネットボールも露出が増えてきたおかげで、私たちは何よりもまずアスリートであるということをわかってもらえるようになってきました」

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    エマ・ネドフ/体操競技

    体操競技選手のエマ・ネドフ(22)も、アキレス腱を切ることがどういうことなのかを知っている。

    「いつもと同じようにタンブリング(床やマットの上で跳躍や回転を行う運動)の練習をしているときでした。ダブルバックフリップ(2回転後方宙返り)をしようとしてジャンプしたときに切れてしまったんです」とエマは語る。彼女は、両ひざのキーホール手術も受けている。

    「小指にはネジが入っています。ひじを脱臼したこともあります。足関節のじん帯を断裂したことも。まあ、そんなところです」

    体操はコンタクトスポーツではない。しかし、エマは「床や器具と」しょっちゅうコンタクト(接触)していると話す。

    「もしバーをつかみそこねたら、床の上にベチャッと落ちることになります」と彼女は語る。

    「一見やわらかそうですが、5メートルの高さから落下すると、マットはそんなにやわらかくないんです」

    体の部位が互いにつながっていること、足のケガが背中のケガの原因にもなりかねないことを、エマは身をもって学んできた。

    「トレーニング中は、何かがおかしかったら、自分を信頼しきることの大切さも学びました」と彼女は語る。

    「歳をとるにしたがって、自分の体で状況を直感的にとらえることが大事になってくるんです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan