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男性しか使えないのでは? 国際基督教大学が「オールジェンダートイレ」に男性用小便器を設置した理由

国際基督教大学(ICU)にできた「オールジェンダートイレ」。16室の個室が連なっており、男性用小便器も個室ブースになっています。すべて座るタイプの個室トイレにするという選択肢もある中、なぜ男性用小便器のブースをつくったのでしょうか。

国際基督教大学(ICU)に2020年9月、「オールジェンダートイレ」が設置されました。

このトイレは、いわゆる「多目的トイレ」や「誰でもトイレ」のように“大きめの個室が1つある”ものではありません。一般的なトイレのように個室が連なっており、ジェンダーに関係なくすべての人が利用できるものになっています。

男女別トイレの「使いづらさ」や「居心地の悪さ」を訴えていたセクシュアルマイノリティの学生たちの声に応えて設置されました。

オールジェンダートイレの詳しい記事はこちら

オールジェンダートイレの設置に携わったICU学生部長の加藤恵津子教授は、「オールジェンダートイレは、人権を大切にするICUのポリシーの体現でありメッセージでもある」と語ります。

「人権というのは、『マジョリティの人がマイノリティの人の人権を認めてあげる』というものでは絶対にないんです」

男女別のトイレも残っており、オールジェンダートイレという「選択肢」が増えたわけですが、学生からは戸惑いの声も上がりました。大学はそれらの声に応え、さまざまな工夫を凝らしたといいます。

実際に使ってみて

オールジェンダートイレの個室は、音漏れを考慮し、隣室との仕切りは音を通しにくい素材で上までぴっちりしまる設計。ドアも、上下ギリギリまで隙間が小さくなっています。

使ってみると、密閉感があって安心しました。

また、盗撮カメラが設置できないよう、個室内の凹凸も少なくなっています。

「トイレで異性とはち合うのが嫌」という声に配慮し、個室の入り口を風車のように取り付けて全体的に入り組んだ構造にしたといいます。

トイレ全体の入り口を二つ設けて、なんとなく「女性が入りやすい入り口」と「男性が入りやすい入り口」を設けるなどの工夫もなされています。

さらに、各個室には「非常呼出しボタン」が設置されており、押すと学内の保安室に通報されて保安員が駆けつける仕組みになっているそうです。

犯罪行為があったときだけでなく、急な体調不良などにも対応できるよう考慮されています。

オールジェンダートイレの導入に携わったICU管理部管財グループの高田晃志さんは、「(オールジェンダートイレは、)環境や状況を考慮した上で設計していく必要があります」と語ります。

「今回設置したオールジェンダートイレは、50以上の男女別トイレがあり、多様な選択肢が取れる『大学』という環境のなかで実現できたものです。例えば、一ヶ所しかトイレがない公園などに同じ設計のオールジェンダートイレを設置することができるかというと、それはまた別の話になってきます」

「その施設の利用者や利用形態に応じた考え方で、個別に(丁寧に)設計できればいいですね」

男性用小便器は、男性しか利用できないのでは?

オールジェンダートイレは、16の個室で構成されています。そのうち11室は座るタイプの洋式便器、4室が男性用小便器です。

男性用小便器も従来の男女別トイレとは異なり、それぞれ個別のブースになっていてプライバシーが守られる作りになっています。

残りの1室は、出入り口付近に配置した上で広めにスペースを取り、車いすを利用する方も使いやすくなっています。

全体としては“オールジェンダートイレ”ですが、男性用小便器のブースは実質、男性しか利用できません。なぜ、あえて作ったのでしょうか?

男性用小便器を導入した理由を、加藤教授と高田さんに聞きました。

もともとは、すべて座るタイプのトイレにしようと考えていた

加藤教授は、「もともとは、オールジェンダートイレはすべて座るタイプの個室にしようと思っていました」といいます。

「『男性の皆さんも、小をするときも座ってください』というインストラクションを壁につけようか、ということまで考えていました」

しかし、加藤教授と高田さん、財務理事らで構成した「トイレ委員会」でオールジェンダートイレについて話し合う中で、迷いが生じたといいます。

「そこで、ICUのジェンダー・セクシュアリティ研究メジャーの教員の会議で、意見を聞きました」

加藤教授も含めた会議のメンバーは、日本出身、カナダ出身、フランス出身、男性・女性など属性に多様性があり、さまざまな意見を聞くことができたといいます。

「教員の会議で、男性用小便器のブースは作ったほうがいいという結論が出たんです」

「私たちトイレ委員会では、男性用小便器を作らないことが一番のジェンダー平等かと思っていました。でも、最先端でジェンダー研究をしている教員たちが『やっぱり男性用小便器ブースは作ったほうがいい』という意見だったんです」

男性用小便器を設置した理由

ジェンダー・セクシュアリティ研究メジャーの教員の会議で「男性用小便器ブースも作るべき」という結論が出たのは、トイレの汚れを懸念してのことでした。

「男性の中にも、座って小用を足すのに慣れている人もいれば、慣れていない人もいるかもしれない。上手に使うことができない人もいるかもしれませんよね」

「個室が汚れてしまうと、みんなが『いやだ』といってそこを使わなくなってしまう。そういうことを考えて、教員たちが『やっぱり男性用小便器のブースは作ったほうがいいよ』という結論を出しました」

また、管財グループの高田さんも「(オールジェンダートイレについての)事前アンケートで『男性が使用した後のトイレが汚い』という理由で、オールジェンダートイレに否定的な意見が複数あった」といいます。

高田さんは「原因として、座るタイプのトイレで便座を上げて小をする際に汚れが生じることが考えられました」と語ります。

「座って小をするように指示するポスターを貼る他に、便座を上げられないようにすることなども検討しました」

しかし最終的に、男性用小便器を設置することで問題を解決することを選んだといいます。

「『小便器が併設されている男子トイレでは、あえて大便器ブースに入って便座を上げて小をする人は少ない(大便器周辺はそれほど汚れていない)』ということがわかりました。なので、男性用小便器を併設することで問題を解決することにしました」

「オールジェンダートイレといっても、女性が利用を敬遠するようでは意味がないです。小便器を設置することで、座るトイレを綺麗に保ち、誰もが快適に利用できる環境づくりを目指しました」

さらに高田さんは、混雑緩和の意味合いも含んでいるといいます。

「小便器を使用するほうが利用者の回転が速くなるため、混雑緩和につながるのではないでしょうか」

全室座るタイプの個室にする可能性も

現在は男性用小便器のブースが4つ並んでいますが、このブースを作り直してすべて座るタイプの個室にすることも、構造上は簡単にできるそうです。

加藤教授は、「今後、男性が座って小をする習慣が世界的に普及してきたら、時代の流れを見てフレキシブルに改築していきたいですね」と話します。

今回設置されたオールジェンダートイレは、「ジェンダーフリートイレ」や「誰でもトイレ」などさまざまな呼び方ができます。

「オールジェンダートイレ」という名前をつけた背景には、「あなたのジェンダーを放棄しなさい」という意味に捉えられるような誤解を招きたくないという思いがあった、と加藤教授はいいます。

「ジェンダーフリーというのは本来、『ジェンダーバイアスフリー』という意味です。ジェンダーに基づく偏見から自由であるという意味で使われています。でも、男と女の区別をなくせという思想なのかとか、温泉や銭湯も混浴にすべきなのかとか、誤解して批判する人もいます」

「大学は、自分のジェンダーアイデンティティを放棄してほしいと言っているわけではありません。『自分は女性だ / 男性だ』と思っている人たちも、『両方です』という人も、生まれたときに割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人たちも、決してジェンダーと無関係に生きている(フリーである)わけではないですよね」

「自分のジェンダーアイデンティティを持っていることはまったく悪いことではない。それを放棄しろというメッセージだと誤解されないようにしたい、と考えて『オールジェンダートイレ』と命名しました」

ジェンダー意識の押し付けはしたくない

命名に関する配慮は、オールジェンダートイレ内の鏡のスペースにも及んでいます。

トイレの一番奥、人の出入りがもっとも少ない場所に設置されたこのスペースは「ミラー&カウンター」と名付けられています。

こうしたスペースは、「パウダールーム」という名称で目にすることのほうが多いのではないでしょうか。

加藤教授は、「パウダールームという言葉は、『(特に女は)化粧すべきだ』という固定観念を再生産してしまいます。だからその言葉は使いたくないと主張しました」と語ります。

「だからシンプルに『ミラー&カウンター』にしました。特にジェンダーのニュアンスが出ないようになっています」

改善を重ね、使いやすいトイレにしていきたい

さまざまな思いが込められたオールジェンダートイレ。

設置から1ヶ月が経過した昨年11月に実施したアンケートには200人を超える学生が回答し、「大変満足」と「満足」が約60%、「普通」が約30%でした。

実際にオールジェンダートイレを利用した人に限ると、約60%が「男女別トイレと同じように使っており特に何も意識していない」、約15%が「やはり不安だ」と回答しました。

加藤教授はこうしたアンケートの結果も受け、これからも改善を重ね、より使いやすいオールジェンダートイレにしていきたいと語ります。

「今はコロナ禍のため、本来の大学の姿ではまったくないですから。もう少し人が増えてトイレが混んできたときに、オールジェンダートイレで人の流れがどうなるのかには非常に関心があります」

「今まで見えてこなかったような何かが見えてくるかもしれないし、改善点が出てくるかもしれない。十分に注意して聞き取っていきたいと思っています」