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温暖化の不安で、子どもが欲しいかわからない人たち

情緒面で気候変動の影響を受けている人が増えてきた。これはとても重要な動き。

Anna Mendoza for BuzzFeed News / Via Supplied

温暖化が進む中、悲しみ、失望、絶望などの感情と向き合っている人たちがいる。そんな人たちを助けようと、「エコサイコロジー」という新しい心理学が生まれてきた。

アーティストでドキュメンタリー作家でもあるティアン・ベイカーさん(29)は、気候変動のことを幅広く研究しており、世界のエコサイコロジー・コミュニティにも精通している。

ベイカーさんは中国に住んでから、気候変動のことを深く調べるようになり、温暖化について独学を続けた末、精神面での健康を損ない始めた、とBuzzFeed Newsに話している。

「まだ目に浮かぶようです」とベイカーさんは話す。

「環境の悪化を目の当たりにしました。中国では、あまり遠くに行かなくても、水路が明らかに荒廃しているのを確認できます。1年で何日も、空気が呼吸に適さない日があります」

気候変動が発展途上国に与えている影響を考えると、特に悲しくなる、とベイカーさんは続ける。

「大量死や大量移住を目の当たりにするでしょう。私たちが現在抱えている問題の多くは、発展途上国によるものではないため、公平性の問題もあります」

気候変動に直面し、心の健康と葛藤するうちに、同じように不安や悲しみを感じている人たちのネット・コミュニティを知り、ベイカーさんは参加するようになった。

ベイカーさんが参加しているFacebookのグループには、とても深刻なベビーブーマーがたくさんいる。

「人類が滅亡すると信じています。滅亡は不可避で、終わりが近いと信じています。感情的に人生を切り上げようとしている人たちです」とベイカーさんは話す。

「グループの人たちは、『来週、パイプカットをしてくるよ』と書き込んだりします。悲しみに溢れています」

「エコサイコロジー」という考え方は、カリフォルニア州立大学イーストベイ校名誉教授であり、歴史学者であるセオドア・ローザック著の1990年代に刊行された書籍に端を発している。著書の中で、ローザック氏は、個々人のエコロジカルな無意識を理解しようとする新分野の心理療法を提案している。環境と人間の心理には、切っても切れない関係があると同氏は信じていた。

この環境保護主義と心理療法を融合した「エコサイコロジー」は、差し迫る気候変動の現実に真剣に取り組む際に生じる苦悩に対処するために、次第に使われるようになる。

10月初めに発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の「1.5℃特別報告書」では、地球の気温上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑えた場合と、2015年に採択されたパリ協定で努力目標とされている1.5℃未満に抑えた場合の地球規模での環境変化に与える影響の差がまとめられている。

2017年、世界の気温は、産業革命以前と比較して1℃上昇した。IPCCの報告書には、地球温暖化をパリ協定で決められた2℃未満に抑えるには、二酸化炭素排出量を2050年前後までに正味ゼロにしなければならない、と書かれている。

今年初めに気候変動に関する国際イニシアチブのThe Global Commission on the Economy and Climateが発表した報告書は、IPCCよりもさらに厳しい描写をしており、2030年までに「決定的なシフト」をしない限り、世界は後戻りができない地点を越え温暖化を2℃未満に維持できなくなると述べている。

Konoplytska / Getty Images

オーストラリア人の四分の三が温暖化を懸念しているが、感情面での痛手は、環境調査や環境保護活動に携わっている人の間でもっとも大きいかもしれない。

ウェスタンシドニー大学の研究者であり、セラピストの経験もあるサリー・ギレスピー博士は、2010年から気候変動の研究に取り組むようになり、精神面への影響に対処する必要性を感じるようになった。

2014年、気候変動問題に深く携わっている人たちに対する情緒面でのケアの必要性と、人びとの反応についてまとめた論文を、博士は発表した。気候変動の研究にのめり込んだり、長期間にわたり従事したりすると、将来に対して深刻な不安や恐怖を経験する傾向がある、と博士はBuzzFeed Newsに話している。

「仕事や環境保護運動などを通じて、深く携わっている人たちは、孤立感を抱いています。不安、悲しみ、罪悪感、絶望感、怒りを感じることが一般的で、さまざまな感情が湧き起こってきます。無感覚になることもあります」

「深く携わっている人たちと話しはじめると、私たちの文化の中で、自分たちは極めて孤立していると感じていることが分かります。多くの主流メディアの風潮では、気候変動に関して表で話すことがはばかられる雰囲気があるからです」

社会で気候変動について話そうとすると、多くの人は「尻込みしたり、冗談を言ったり、トピックを変えたり」する、とギレスピー博士は話す。

「(気候変動の話をすると)気が滅入る人と思われます」とベイカーさんは話している。

シドニー在住で病院のアカウント・マネージャーを務めるクリスさん(24)は、気候変動が怖くて、心と身体に影響が出てきている、とBuzzFeed Newsに話す。

「気候変動が心配でなりません」とクリスさんは話している。「気候変動の実際の影響を研究してきて、考えていると夜も眠れなくなります」。

気候変動に対して恐怖を感じるようになり、クリスさんは将来的に子どもが欲しいかどうか自身に問い始めるようになった。

「子どもが生まれてくる世界が心配です」と話す。

「異常気象、食糧不足に直面して、子どものQOL(生活の質)は今よりも悪くなります。分かっていながら、子どもを作るのは悪いことのように思えるのです」

アメリカの気候関連の団体によると、20代、30代の人の間で、子どもを持つかを考える上で、気候変動を考慮することが一般的になってきている、とのことだ。

研究を進める中で、ギレスピー博士はこの問題に取り組んでいるたくさんの人たちに会ってきた。

「多くの葛藤が見られます。この問題には傾向がふたつあります。ひとつは、責任感です。ひとり当たりの二酸化炭素排出量が一番高いオーストラリアに住んでいればなおさらです。もうひとつは、子どもが生まれてくる世界は、いったいどのようなものなのか、という懸念です」

心理学者たちは、温暖化が情緒面でもたらす悪影響について、率直に話し合い始めており、人びとが悲しみや絶望の気持ちについて話せるコミュニティを作っている。

オーストラリア心理学会は、環境心理学の利益団体を設立した。

キャロル・ライドさんは、認可されたセラピストで、Psychology for a Safe Climateを主催している。同組織は元々、感情を表す言葉を使って、温暖化について話し合う目的で作られたメルボルンを拠点とする団体だ。

過去3年で、組織の目的は変化してきており、グループセラピーセッションを提供し、温暖化のために気持ちが落ち込んだり、不安を感じたりする人を助けるようになってきている、とライドさんはBuzzFeed Newsに話している。

「憂鬱を感じている人がたくさんいます。科学をよく理解していて、必要な措置がいかに重要かを理解している人たちです」とライドさんは話す。

気候変動に関わった末に苦しんでいる人たちを助けるのが根本的に難しい理由は、「警戒し、心配して、情緒面で影響を受けるのは完全に理にかなった反応」だから、とライドさんは話している。

Psychology for a Safe Climateによると、気候変動を心配している人の多くは、環境問題について話す準備ができていない普通の心理学者と上手くいかないことが多い、とのことだ。同組織では、メルボルン在住の顧客に、蓄積したデータベースから信頼できるセラピストを紹介している。

「この問題の重要性を理解しているセラピストでなければなりません。温暖化の心配をしていることを病的だと考えて欲しくないからです」とライドさんは話している。

セラピーの必要がない人には、温暖化が精神面に与える影響に前向きに対処できるようにする「アクティブ・ホープ(Active Hope)」という方法がある、とライドさんは話す。アクティブ・ホープとは、エコ哲学者であるジョアンナ・メイシーさんが考案したもので、コミュニティ活動を通して順応力を養うものだ。

「コミュニティ・グループにいる人、働いている人、政治活動をしている人など、様々です。解決策はあると思えるように、コミュニティの中で助け合います」とライドさんは話している。

温暖化を心配する様々な個々の動機によって、環境問題に対する感情的な反応に駆り立てられることが、研究で分かっている。

テキサス大学とアリゾナ大学の研究者が昨年行った調査によると、3タイプに分かれる。自分の健康や生活のことを心配する自己中心的な場合、人類全体を心配する社会・利他的な場合、地球や動物などの生態系・生物圏を心配する場合である。

「鬱と一番関連が強かったのは、生物圏の心配をしている人たちでした。環境のことをよく考え、環境に重きを置いている人たちが、環境のことを一番心配していました」とこの調査の筆頭著者であるアリゾナ大学のサブリナ・ヘルム准教授は、BuzzFeed Newsに話している。

ひとりひとりの行動に対するメディアの取り扱いも変わる必要がある、とヘルム准教授は考えている。

「消費者の多くは、自分たちが大きな影響を与えられる立場にいるとは思っていません。ですが、ひとりひとりの小さな行動が重要なのです。まさに、ひとつひとつの行動に価値があります。ひとつひとつの行動自体が影響を及ぼすからではなく、その背後にある動機に意味があります。小さいことができるのであれば、大きいこともできるのです」

ベイカーさんは、コミュニティに参加して、温暖化による心への悪影響を改善させるという考え方は信じているが、どのようにするかは確信が持てないでいる。

「温暖化は大きな問題なので、どのような行動が取れるのか分かりません」とベイカーさんは話す。「ですが、建設的な会話はできると思います」と結んだ。

(プライバシー保護のため、一部苗字は伏せている)

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan