
「僕はもう恋愛なんて信じない」
韓国アイドルグループTomorrow X Together(トゥモローバイトゥギャザー、TXT)のセカンドフルアルバム『The Chaos Chapter: FREEZE』の冒頭曲「Anti-Romantic」で、最年少メンバーのヒュニンカイはそう歌う。
「Anti-Romantic」はアルバムの冒頭を飾るのにふさわしい。本作に収められた全8曲は、昨年から続くコロナ禍の混乱が深まる世界で、大人になることの複雑さに模索する姿を歌う。
前作のミニアルバム『minisode1: Blue Hour』とその前の『Dream Chapter』シリーズに引き続き、本作も各メンバー自身の体験にもとづくパーソナルな面を持ちながら、同時にファンも共感できる曲になっている。
ファンの多くもメンバーと同様、混沌(カオス)の中で大人になる途上にあるからだ。
「僕たちはデビュー以来ずっと、音楽を通じて自分たちのストーリーを発信してきました。だから、世界の現状を反映しているのは自然な流れでした」
19歳のテヒョンはBuzzFeed Newsの取材にそう語る。
メンバー自身もそうだが、TXTの楽曲はその世界を拡張しながら、常に新たな視点で曲のテーマを開拓し続け、ジャンルの境界線を超えていく。
自らについて語る詞、メロディ、ダンスが複雑にからみ合って織りなす作品の世界は、これまで探求するごとに進化をとげてきたが、本作『FREEZE』でもそれは変わらない。
今回収められた曲の中には、過去の楽曲からインスピレーションを得たものもある。
ファーストアルバムの「New Rules」は今回、刻々と変化を続ける世界で「No Rules」になった。
「What If I Had Been That PUMA」は1年前のアルバム『ETERNITY』の曲「PUMA」と対照的なアプローチを探る。
「Magic」では、スビンが言う「僕たちが一緒にいて感じる思い」を歌うが、これは過去の『Dream Chapter』シリーズにも通底する感情だ。スビンはこうも語る。
「TXTの音楽は僕たち自身のストーリーを語っていて、成長する中で僕たちが歩んできた道のりを表しています。これまでの曲とのつながりは、自然に生まれてきた気がします」
これまで同様、TXTが展開する音楽の世界の広がりは、アーティストとしてのメンバー自身の成長と相まって起きている。本作では5人全員が作詞を手がけた。
「自分たちのストーリーをこの新しいチャプターで続けていくことは、TXTにとっていろんな意味で成長できる重要な機会になっています。ニューアルバムでは多彩な音を扱っているので、それも理由の一つです」とヒュニンカイは語る。ヒュニンカイは今回、「Dear Sputnik」で初めて曲のプロデュースに加わった。
ふたを開けてみると、彼らの音楽を受け取る人の幅も広がっていた。リリースから2週間後、『FREEZE』はTXTにとって過去最高となるビルボード・チャート5位に躍進した。
BuzzFeed Newsはスビン、ヨンジュン、ボムギュ、テヒョン、ヒュニンカイにメール取材を依頼し、グループとしての音楽面での進化や、TXTが発信する等身大のストーリーについて語ってもらった。
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『The Chaos Chapter: FREEZE』のコンセプトトレーラー
先日デビュー2周年を迎えましたが、アルバムを出すごとに、メンバーがさらに積極的に曲づくりやプロデュースに関わるようになっていますね。
振り返ってみて、ファーストアルバムをどのように受け止めていますか。当時から今まで、ミュージシャンとしてどのように進化をとげたと考えていますか。
スビン:2年経ちますが、まだつい最近のような気がするし、みんながデビューアルバムに捧げた純粋な思いと努力は今も続いていると感じています。
この成長の歩みをこれからも続けていきたいです。世界に届けたいものがまだたくさんありますから。
ヨンジュン:2年間で、僕たちの音楽のスペクトルは確実に広がったと思います。曲づくりのようなクリエイティブ面に関してもそうです。
ボムギュ:最初のアルバムでは、与えられたことに対してベストを尽くそう、という意識がみんなの間で強かったと思います。
でもそれ以降、次の作品に取り組むたびにしっかり成果を出せるようになって、音楽制作のあらゆる面ですごくいいインプットができていると実感しています。
テヒョン:今、もう一度デビューアルバムのレコーディングをしたら、確実に当時よりいいパフォーマンスになるでしょう。でもこれがありのままの形だからこそ、1枚目には1枚目ならではの記憶が詰まっているんだと思います。
今は曲のレコーディングも間違いなくずっとうまくなっていますね。
ヒュニンカイ:これまでいろんな側面からアルバムづくりの過程に取り組んできた結果、アーティストとしての自分たちの力は確実に伸びています。
今はそれぞれの曲をより深いレベルで理解し、自分と結び付けて考えられるようになっている。自信をもってそう言えます。
これまでは友情や大人になっていくことをテーマにした曲が多かったと思いますが、今回のアルバムの楽曲やコンセプトでは、愛や恋愛に重点をシフトしています。
今、こうしたテーマをより深く掘り下げようとしたのはなぜでしょうか。
ヨンジュン:『Dream Chapter』シリーズでは、わくわくするようなアドベンチャーに出る仲間のことを歌っていました。
『Chaos Chapter』に出てくるのは、世界の厳しい現実を前に立ちすくんでしまった、凍りついてしまった少年です。すべてわかったつもりだったのにそうではなかったと知ってしまい、そのせいで虚しさや自分のちっぽけさを感じています。
『The Chaos Chapter: FREEZE』ではその少年の元に特別な人が現れて、彼の本来の姿を見いだしてくれます。それで彼はその人に「愛」を感じます。彼にとってその人は唯一しっくりくる存在で、今はその世界がすべてなんです。
世界中の若者が、それぞれのカオスな世界と向き合ってきたと思います。それは新型コロナのパンデミックかもしれないし、そのほか、大人になっていく過程で適応したり乗り越えたりしなきゃいけない何かかもしれない。大変なことだと思います。
こんなときには、そのままの自分を見て励ましてくれたり、あるいは成長していく道のりを一緒に歩いてくれたりする特別な存在がいてくれたらどんなにいいだろう、と思ったりするものです。
大切な人が授けてくれる絶対的な強さというのは、この時代を生きるあらゆる人にとって普遍的な、不思議な力だと僕たちは考えています。

TXTのコンセプト写真はいつもそうですが、普通の若者が人生を歩んでいくイメージのものと、一方で今回のアルバムの「WORLD」バージョンのようにファンタジーの要素を取り入れたものもあります。
このまったく違うコンセプトは、TXTのメッセージと個々のメンバーとをどのように表していると考えていますか。
テヒョン:おっしゃる通り、僕たちのストーリーは若者が人生を歩んでいくことをテーマにしていて、この成長していく道のりを描くときはいつも、音楽やパフォーマンスなどさまざまな手段を通してそれを表現しています。
ファンタジーの要素は、それを通して僕たちの世界を見てもらうプリズムのようなものです。
例えばデビュー曲「CROWN」では「頭からツノが生えた」という比喩で「他の人と違う」状態を表しています。
アルバム『MAGIC』の「Can't We Just Leave the Monster Alive?」は、表面的には「最後の強敵を倒すとゲームが終わってしまうから、倒したくない」という詞です。でも実は、「大人になって子ども時代の終わりがきてほしくない」という意味が込められています。
新作では氷という要素を使って少年の目に映る世界を表現しています。彼はその世界で空虚さを感じて凍りついてしまうのですが、特別な誰かが現れて、彼がとらわれてしまったと感じているその氷をとかしてくれる、というストーリーです。

ミュージックビデオもコンセプトトレーラーも、毎回どんどんレベルが上がって質の高いつくりになっています。
今回のアルバムのコンセプトトレーラーは映画のようで、ファンは振り付けからアクロバティックな演出、エフェクトまで魅了されました。
こうしたことに取り組む際、どんな気持ちで臨んでいますか。難しいチャレンジだなと感じたりしたのでしょうか。
ボムギュ:僕たちにとっていつもすごく楽しい、エキサイティングな体験ですね。こうした撮影のときは毎回MOA(モア、ファンのこと)が心の中にあるので。
最新のコンセプトトレーラーは動きの点で凝っていて難易度が高く、メンバーの強いチームワークがとても重要で…でもそれを実現できました!すごくいいものに仕上がったと思います。
ヨンジュン:ちょっとずれるかもしれないですが、タイトル曲のMVのために車の免許を取ったんです。僕が運転して初めて乗せたのがメンバーなので、この先もずっと忘れられないいい思い出になりました。

インスピレーションが感じられないとアートを創造するのは難しいものですが、音楽をつくるときに最もインスピレーションを受けるのはどんな場面ですか。創造力がわいてくるのはどんな時でしょう?
スビン:よくやるのは、仕事の後にゆったり座ってくつろいで、パープルの照明をつけて、スピーカーで音楽を聴くことです。そうすると自分の世界に入って、考えに没頭できます。
ヨンジュン:自分自身の体験もそうですし、映画からインスピレーションを受けることも多いです。
ボムギュ:インスピレーションはだいたい普段、日々考えていることからきます。これまで聞いてきたいろんな曲にもインスパイアされます。
テヒョン:自分のデスクに座って音楽を聴いていると自然にわいてきます。
ヒュニンカイ:映画や、自分が尊敬しているアーティストの曲からが多いです!
ヒュニンカイさんは今回のアルバムでプロデューサーとしても名を連ねました。プロデュースはどんな体験でしたか。音楽づくりについて新たに学んだこと、興味深かったことはありますか。
ヒュニンカイ:自分が書いてプロデュースもした曲をMOAと共有できて、個人的にとてもうれしいです。みんないつも一緒にいてくれて、励ましてくれているので。
曲も自分も進化して、成長して、発展していくのを目の当たりにできたので、この曲づくりもアルバムづくりも最高の経験でした。
「0X1=LOVESONG」「Frost」が特にそうですが、アルバムの中にはこれまでに出した曲とはサウンド的にまったく違うタイプの曲があります。新しいスタイルの曲を開拓し続けることがなぜ大事なのでしょうか。
またこれだけ多彩な曲を扱う中で、どのようにTXTらしいサウンドに忠実でいようとしていますか。
ヒュニンカイ:新しいジャンルやサウンドを開拓することで、僕たちはアーティストとして、チームとして、成長できると思います。僕たちはどんなスタイルの音楽も自分たちの色で改めて解釈できるチームになることを目指しています。
いつか、自分たち自身のジャンルを築けるようになりたいですね。
ボムギュ:どんなジャンルやスタイルの音楽をやっても、自分たちのアイデンティティに忠実でいられると僕は思っています。自分たちの音楽はどれも、僕たちの声、僕たちの語るストーリーが核にあるからです。
僕らは自分たちのストーリーと、同じ時代を生きる若い世代のストーリーを発信しています。そうした普遍的な語りが自分たちのカラーであり、アイデンティティです。
本アルバムでは詞の多くが、深く、ときに重みのある感情から生まれています。こうした感情の中に飛び込んでいって詞を書くこと、そしてそれをレコーディングとパフォーマンスを通して表現することは、どのような体験でしたか。
スビン:僕たちの普段のやり方としては、曲で表現したい気分や感情をふくらませるために、まず映画や番組などたくさんの作品を参考にします。
それから、その感情を自分たちの音楽のスタイルに変換していきます。これは本当にやりがいのある、やってよかったと思える体験です。
僕たちが音楽を通して描いたストーリーや感情を、世界中のファンが理解して共感してくれますから。とてもありがたいと思っています。
MOAはTXTの詞やMVを分析するのも、もちろん曲を聞くのも大好きで、その結果、『The Chaos Chapter: Freeze』はビルボード・チャートでTXTにとって過去最高位を達成しました。こうした反応についてはどのように受け止めていますか。
テヒョン:ファンのみんなにはとても感謝していますし、ファンを誇りに感じています。
これは僕たちが成し遂げたのと同時に、ファンのみんなが成し遂げたことでもありますから、単なる数字以上の意味があります。
僕たちの音楽を聞いて楽しんでくれている人、僕たちのストーリーに共感してくれる人が世界中に大勢いるしるしだと思います。自分たちの曲と思いをみんなと共有できるのは僕らにとって本当にうれしいことです。
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan