go to content

テロリストの息子はテロリストではない ザック・エブラヒムさんの証言

現在、平和に足りないものは何か。

人を憎しむよう教え込まれた子でも、平和の道を選ぶことができる」。そう語るのはアメリカ人のザック・エブラヒム(Zak Ebrahim)さん、32歳。テロリストと呼ばれた父とは別の人生を歩む決意から、名前を変えた。

エブラヒムさんは、エジプト人技術者の父と、キリスト教からイスラム教に改宗したアメリカ人教師の母の間に生まれた。故郷はアメリカのペンシルバニア州。父エル・サイード・ノサイル氏は助けた女性から強姦したと訴えられたが、結果は冤罪だった。その後、職場で感電事故に遭い、しばらく働けなかった。

父はその頃からイスラム教の原理主義にはまり込んでいく。オサマ・ビン・ラディンの師であるアブドラ・ユセフ・アッザムと出会い、「ジハード(聖戦)」と口にする機会が増えていった。父はアメリカ国内でテロを起こそうと、射撃の練習も始めた。エブラヒムさんも射撃訓練に参加させられた。「その頃、狙ったランプに命中させると、周りがみんな喜んでくれた」。

やがて、父は「アメリカ本土で人の命を奪った最初のジハーディスト(イスラム教の聖戦主義者)」として、その名が知られるようになる。

エブラヒムさんが7歳だった1990年、父はユダヤ人極右組織「ユダヤ防衛同盟」の創設者ラビ・メイル・カハネ氏の射殺事件に関わったとされ、逮捕。殺人容疑では無罪だったが、銃の不法所持で有罪となった。

1993年、世界貿易センタービル爆破事件が起こる。爆破を実行したのはエブラヒムさんが「おじさん」と呼び、親しんでいた男たちだった。この事件には服役する前の父が関わっていた。服役中の父も爆破事件の罪に問われ、終身刑が確定した。

残された家族は、10年足らずの間に20回の転居を繰り返した。殺害予告、メディアから取材攻勢、そして宗教、人種差別発言。学校でいじめにあったエブラヒムさんは自殺を考えるようになる。

周囲から差別を受けながらも、エブラヒムさんは父と同じようにテロリズムに染まらなかった。

「テロの犠牲者の方々のために私は立ち上がり、こうした非情な行為に断固反対し、私の父の行いを非難します」。インターネット上でこう宣言した。

2014年に各界の著名人がスピーチをするTEDカンファレンスに参加。スピーチをもとにした『テロリストの息子』を出版した。本は昨年、日本語訳された。

今年1月、富山県氷見市で行われたTEDxHimiの講演に来日しているエブラヒムさんは、BuzzFeed Newsの取材に対し、彼が選んだ道、そして彼が考える平和の意味を語った。


過去を語ってこなかった、エブラヒムさん。なぜ大勢の前に立った?

「実は昔から、アメリカで反戦運動の活動をしていました。その時、思ったのです。

もし、私と一緒に抗議している人たちと私に反対している人たちが私の経験を聞いたら、なにか学び得られるのではないかと。

イスラム過激派の教えをうけたことは、珍しいことだと自覚していました。私が教えられたことは、イスラム教の主流で教えられていることではないのです。私の経験は、多くのイスラム教とは無縁であると人々に理解してもらうことにもつながります。

過激派の父の教えをうけても、私は平和を推進するようになった。そして、人を憎むように教え込まれた人でも自分を変え、自ら道を選択することが可能であると言えるようになりました」

エブラヒムさんの演説に対する反応はどうだったのだろうか。

「99.9%はポジティブな反応です。みんなに受け入れてもらえ、支持を得ている私は非常にラッキーだと思います。講演するのは、私の人生で最もやりがいのあることです」

エブラヒムさんのスピーチはネット上にアップされている。そこでは「人間の善意に対する信頼を持続させるため、もっと彼のような話を聞く必要がある」「(生まれた家の教えが)残忍であっても、縁を断ち切る勇気が必要だと思った」などとコメントが書き込まれている。

憎悪が連鎖すると言われるテロリズムの道。エブラヒムさんはどうして別の道を選ぶことができたのか。

「私がテロリズムと決別できたのは、ユダヤ人の友人ができたことです」

この友人とは、社会問題の解決方法を話し合う学生会議で出会った。

「私は、イスラム教徒とユダヤ人は友だちにはなれないと教育されてきました。私たちは、根本から理解できない敵であると。ユダヤ人と仲良くなった、たった数日間で、教え込まれたことが真実じゃないと考えさせられました」

同じように父から教え込まれた「同性愛は罪」「ゲイは悪い影響を与える」という考えも、バイト先でゲイの友人と一緒に仕事することによってなくなった。

「だから私は異なる宗教間の対話、そして多くの文化間の交流に力を入れたいのです。人の交流こそ、思い込みを打ち破る最も簡単で確実な手段だからです」

しかし、過去のインタビューでエブラヒムさんは、自分の過去を友人に告白した時に、「全員に受け入れてもらえないことに気づいた」と語っている。過去を受け入れてもらえない場合、どう対処してきたのか。

「私の過去について、私が何を言っても異議を唱える人がいることはわかっていました。世の中には『父親がテロリストなら、息子もテロリスト』と思う人もいるのです。『あなたの血の中には、テロリズムが流れている』というメールが送られてきたこともあります。

全員が納得することはありえません。憎しみを食い物にして生きる人も世の中にはいます。私ができるのは、私に反対する人々に耳をよく澄ましてもらい、話を聞いてもらうことです。最終的には、コミュニケーションによって、それまでとは異なる視点で見られるようになるからです。大事なことは、非暴力的に反対することです

「人を憎むのは、もううんざり」。エブラヒムさんの母親の言葉だ。しかし、テロの被害者の中には、いまだ苦しみを抱えている人もいるだろう。その人たちにどう語りかけるのか?

「無差別の暴力によって愛する人を失うと、憤慨するのは当たり前だと思っています。しかし、そこで自分に問いかけてみてください。人を憎しみ、どんなことができるでしょうか?

人を憎しみ、テロに走った父は、この世界を何も変えられなかったことに気づきました。テロによって事態を悪化させています。

なので、私は恨む人たちに問いたいのです。あなたは憎しみが連鎖する世界に住みたいですか? それとも、暴力を終わらせたいですか?

憎しみと暴力は、さらなる憎しみと暴力を引き起こすしかないのです

今、父親に何か言葉をかけるとしたら?

「今まで、父親の行動と、それが私にどのような影響を及ぼしたか考えていました……何年か前にはメールのやり取りもしました。父の悪行のせいで私と家族がどれだけ苦しんだのか知ってもらいたかった。

結果的に、父との会話で……彼の意見はもういらないということに気付いたのです。正直に言うと、どんな話をしたらいいのか、よくわかりません。もう、彼の答えを欲しいとも思わない

現在、世の中には様々な暴力が存在する。エブラヒムさんが最も恐れる暴力とは?

「ISのように、人々をターゲットにした暴力に影響されるのは、被害者だけではないのです。彼らは、社会に精神的な攻撃をしている。影響力は広いのです。暴力は、長い間ネガティブな影響を社会に与えます。

テロの恐怖を利用する政治家もいます。政治家の発言はさらなる憤りと隔たりを作り出すだけなのです。これは、まさにISが望んでいることです。ISは、社会でこのような現象が起きることを熟知しています。

私たちが人種や宗教によって、仲たがいしたり、お互いを恐れたりすることは、ISにとって利益でしかないのです」

エブラヒムさんにとって、平和とは何か。

「平和は単なる暴力の欠乏ではありません私たちは、自由な社会では、信仰の名のもとに暴力に走る人々が必ずいることを知っています。だけど、人間は同感し、共感し、そして優しくなれる。そして、これらが私たちが推進すべき理想なのです」

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Eimi Yamamitsuに連絡する メールアドレス:Eimi.Yamamitsu@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here.