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「インターネットメディア協会」とは何をやろうとしているのか

紙もテレビも、ニュースもエンターテイメントも。ネット上の情報の信頼性を高めるためのシンプルな方法を提案している。

インターネットで情報を発信するメディアが、自ら信頼性を高めていこうと「インターネットメディア協会(JIMA)」設立へ動き出した。期待の声とともに「ネットの検閲をするのか」という批判の声もある。何をやろうとしているのか。

ネットからも紙からも発起人に参加

2月26日に都内で開かれたJIMA立上げ準備会の会見では、発起人として9人が登壇した。ネットメディアだけでなく、新聞や出版業界からの参加もあった。筆者(古田)もその一人だ。

発起人の一覧と会見で示された活動方針は、以下の通り。

  • 小川 一 毎日新聞取締役・編集編成、総合メディア戦略担当
  • 長田 真 DIGIDAY[日本版] 編集長
  • 工藤博司 J-CASTニュース編集委員
  • 阪上大葉 現代ビジネス 編集長
  • 竹下 隆一郎 ハフポスト日本版 編集長
  • 藤村厚夫 スマートニュース執行役員 メディア事業開発担当
  • 古田大輔 BuzzFeed Japan創刊編集長
  • 楊井人文 GoHoo編集長
  • 山田俊浩 東洋経済オンライン編集長


ガイドライン設定を中心とする活動方針

ネット専業メディアだけでなく、新聞、テレビ、雑誌などネット上で情報を発信するメディアやプラットフォーム、ソーシャルネットワークを対象とします。

ネットでの情報発信の参考となるガイドラインを設定し、加盟団体が遵守に務めることでネットメディアの信頼性向上に寄与します。

テクノロジーや社会状況の変化とともに発展していくために意見を交換するとともに知見を共有し、ネット上の情報の質の向上を目指します。

紙もテレビも「ネットメディア」

なぜ、新聞や出版など、いわゆる「ネットメディア」ではないところからも参加しているのか。それは「インターネット上に情報を出しているのであれば、ネットメディアだ」という思いがあるからだ。

新聞の全国紙や大手出版社、テレビ局などが運営するウェブサイトの読者数は、ネット専業メディアを上回ることが多い。インターネット上の情報の信頼性を議論するのであれば、その存在は欠かせない。

また、自ら情報を発信せず、情報の流通に携わる「プラットフォーム」からもスマートニュースの藤村氏が参加した。無数にあるネット上の情報を集めてユーザーに届けるプラットフォームの影響力は大きく、こちらも議論に欠かせない。

WELQとアメリカ大統領選がきっかけに

JIMAのような組織が必要だという議論は2016年12月に始まった。DeNAが運営する健康情報サイト「WELQ」が不正確な情報や著作権の問題で閉鎖され、アメリカ大統領選でフェイクニュースが話題となった時期だ。

もともと新聞社の出身で、2015年にネットメディア「BuzzFeed」に移った筆者は、多くの人から相談を受けた。

ネットメディアの人からは「もともと報道やメディアの経験がなく、情報の確認や検証をする方法を知らない」。新聞やテレビの人からは「ネット上でどういう情報発信が求められているのかわからない」。

ネットメディアには議論の場すらなかった

新聞には日本新聞協会、テレビには放送倫理・番組向上機構(BPO)がある。「マスコミ倫理の向上と言論・表現の自由の確保」を掲げるマスコミ倫理懇談会全国協議会という組織もある。

それらは各業界の課題について議論し、知見を共有したり、一定の見解が提示されたりする。例えば、日本新聞協会の「取材と報道に対する見解等」のページを見ると、「取材源の秘匿」や「選挙報道」など様々なケースについて、どうするべきか見解が示されている。

しかし、ネットメディアには行動の見解どころか、何が業界の課題かを組織を超えて話す場すらほとんど存在しなかった。

ネット警察にはならない

2016年に議論を始めた際、有志たちで意見が一致したのは「何が正しくて、何が正しくないかを検閲するネット警察のような組織にはしない」ということだ。

そういう組織にしてしまうと、加盟団体間で意見が分かれてしまうし、報道の自由や表現の自由を制限してしまう恐れもある。

情報検証する団体は、すでにファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)がある。BuzzFeedを含め、個々にファクトチェックに取り組むメディアもある。

JIMAとはそれらとは違い、個別の記事やメディアについてファクトチェックなどをすることは活動方針に入っていない。

対象はニュースに限らない

JIMA立上げ準備会の会見を報じる記事には「フェイクニュース対策の団体」などと紹介するものがあった。ただ、上記に述べたようにネット警察になるわけではないし、フェイクニュースだけを問題視しているわけではない。

WELQ騒動の時には、不正確な医療健康情報が問題となった。不正確な情報でユーザーの不利益になるのは、ニュースに限らない。日々の生活情報やエンターテイメント情報も、その内容が誤っていれば、ユーザーに迷惑をかけることがある。

例えば、テレビ業界では「ニュース番組」と「情報番組、報道バラエティ」などを区別しているが、視聴者から見たら、テレビ局が発信している情報に違いはない。ネットでの炎上にも、ニュース番組と報道バラエティの区別はない。

BuzzFeed自身もニュースとエンターテイメント両方のコンテンツを発信しており、その両面で不正確な情報発信にならないよう社内ルールを設けている。

JIMAもニュースメディアだけを対象としていない。幅広いメディアに参画を呼びかけていく方針だ。

活動の中心となるガイドラインとは

ネット警察にならないと言いつつも、ガイドラインを設定することで、それに違反する記事やメディアを排除することになるのではないか。記者会見では、この部分への質問が出た。立上げ準備会でもこの点は議論してきた。

JIMAが設定を目指すガイドライン(行動指針)はごく基本的なものだ。例えば、以下のようなものが想定されている。

ウェブサイトやサービスには運営元と問い合わせ窓口を明記する。

ユーザーや記事の関係者らから問い合わせや間違いの指摘などが寄せられたら、適切に対応する。

訂正やコンテンツ削除などをする場合には、ユーザーへの説明責任を果たす。

これらはメディアを運営する上で、基本中の基本と言える。しかし、実際にはこれらの基本を守っていないメディアは多く、また、これが基本だということを知らないメディア運営者も少なくない。

ある一社が「こういう基本を守るべきだ」と言うよりも、会社組織を超えた団体が業界健全化のためにガイドラインとして示した方が、業界の内外への説得力は格段に増す。それがJIMAが目指す姿だ。

6月にもJIMA正式発足へ

会見後、発起人たちの元には、詳しく話を聞かせてほしいというメディアからの問い合わせが相次いでいる。

今後、立上げ準備会でそれらの声を取りまとめ、ガイドライン草案を示し、会員を募った上で、2018年前半、6月にも正式立上げをしようと準備を進める。

インターネットの世界においては、広告業界には日本インタラクティブ広告協会(JIAA)がありながら、広告と密接に関係するメディア側には協会が存在しなかった。

JIAAが広告倫理綱領ネイティブ広告に関する推奨規定などを発表して、業界の健全な発展を目指してきたように、メディア側もガイドラインの発表や会社組織を超えた知見の共有を通じて、インターネットのさらなる発展を目指す。

そしてそれは、多くの人がネットを通じて情報を得る現代日本の健全な発展にも繋がる。