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マスメディアの番組制作トップに女性はゼロ セクハラ体質は表現にも影響する

女性の社会進出が進まない原因は、男性優位のマスメディアにあるのではないか。

財務省次官のセクハラ問題をきっかけに、メディア業界の実態が明らかになった。加害者は取材先だけでなく社内にもいる。何が原因で、影響はどこまで広がっているのか。

5月12日に都内で開かれた「メディアと表現について考えるシンポジウム」で、民放労連女性協議会による調査結果が公開された。

2017年10月〜2018年4月にかけての各局の状況。報道はニュース、制作はバラエティ、情報制作は情報番組などをそれぞれ作る、テレビ番組制作の中心だが、女性トップは一人もいなかった。

一般社員の比率を見ても、特に報道は9.4%と、全社員比率の21.5%よりも低い。そもそも2割でも少ない。男性中心の職場に、女性へのセクハラが蔓延していた。

上司や先輩、同僚など社内からの被害も非常に多い

こちらは、性暴力の被害者と報道関係者でつくる「性暴力と報道対話の会(以下、対話の会)」がメディアで働く人を対象にした調査。ネットアンケートに107人が回答し、102人が被害を受けたと答えた。

被害にあっても「相談することを考えなかった」が54.8% 、「相談しなかった」が9.6%をしめた。男性がトップの、男性だらけの職場は相談する雰囲気にかける。被害は表に出ないままに繰り返されてきた。

この調査の自由記述欄には次のような言葉が並ぶ。

女はダメだと批判されることにおびえた。

だんだんと麻痺して、必要以上に笑ってやり過ごせることに価値を置くようになった。

男性中心の職場で、女性も男性的価値観を押し付けられる状況がこれらの言葉に表れている。(この調査は6月末まで続いている。回答フォームはこちら

この状況はメディアの表現にも影響を与えている

上の写真は、テレビ朝日の記者会見。話題は女性記者へのセクハラだが、会見する側も、取材する側もほぼ男性。指示する管理職も男性。これが報道の実態だ。

当然、表現にも影響が出る。記事冒頭で紹介した5月12日のシンポジウムは、その点を議論するためのものだ。

主催は「メディア表現に置けるダイバーシティ向上を目指す産学協同抜本的検討会議(MeDi)。連続シンポ3回目の今回は、メディアの長時間労働や男性優位の職場が女性を疎外し、多様性に欠ける表現に結びつく現状について話しあった。

制作現場で語られている衝撃的な言葉

元アナウンサーでエッセイストの小島慶子さん、放送作家のたむらようこさん、NHK国際放送局の山本恵子さんら、現場を知る人たちが登壇した。

テレビ制作や報道の現場では、こんな言葉が交わされているという。

「ババアは黙ってろ」
「子育て中のママにバラエティのノリなんてわかるわけないだろ」
「記者なんだから犬みたいに子供が3人も4人も生まれたら困るよ」

たむらさんはTV制作会社「ベイビー・プラネット」を女性のみで運営している。男性中心のTVの現場には「数の暴走」「思い込みの暴走」があると語る。

例えば、ある朝番組の企画会議では出席者が男性約40人に対して、女性はたむらさん一人。「朝、ビキニの女性が爽やかにダンスを踊る」という企画が通った。これが「数の暴走」だ。

「思い込みの暴走」とは、作り手の男性たちが持つ視聴者像のことだ。視聴率アップのために50歳以上の女性を狙うが、その視聴者像が偏っているという。

「『そんなのおばちゃんは見ないでしょ』『そんなのはおばちゃんにはわからないでしょ』という言葉が何度も出てくる」

「作り手の男性たちにある謎のおばちゃん像は要するに『難しいことが嫌いなバカ』。そういうイメージが一人歩きしているんです」

登壇者の一人でジャーナリストの白河桃子さんは「法律や制度は国が作る、しかし風土はメディアが作る」という言葉を紹介し、テレビが流す女性像が、日本社会の女性像を規定する危険性を指摘した。

マスメディアが男性優位であり続けることが、ジェンダーギャップ114位という先進国でダントツに女性の社会進出が遅れた日本の現状を生んでいるのではないか、ということだ。

多様性が多様な表現を生み、多様な社会に繋がる

この記事の筆者である私(古田)も登壇した。朝日新聞という日本の伝統的な新聞社から、アメリカのインターネットメディア「BuzzFeed」に移って気づいた多様性への取り組みの違いについて発言した。

朝日新聞も男性中心だったことは間違いない。一般社員の男女割合だけでなく、役職が上がるほど女性は少ない。過酷な勤務が常態化している持ち場が多く、改善の取り組みはあっても、多様性を阻む要因となっていた。

BuzzFeedでは、多様性は自分たちが大切にする価値の一つに位置付けられている。民族的な多様性も、性別の多様性もだ。多様性があるからこそ、多様な表現が生まれ、多様な読者に届く、と考えられている。

ジョナ・ペレッティCEOからはBuzzFeed社内の多様性が保たれているかについて、全社員向けに定期的な報告がある。データは社外にも公開されている。

社員の56%が女性。幹部クラスでもほぼ半数が女性だ

ニュースからエンターテイメントまで、料理やファッション動画などを含む多様で自由な発想に基づくコンテンツをつくるには多様性が欠かせない、という考えは組織全体に浸透している。

2016年1月に日本で発足したBuzzFeed JapanもBuzzFeed全体と同様、70人近い社員らの約半分が女性であり、管理職以上の割合もほぼ同等だ。

編集長として2年半採用に携わってきて、男女比を意識していた訳ではないが、気がつくと、自然とそうなっていた。

もちろん、男女が半分になれば、自動的に表現が多様化される訳ではない。多様な議論が尊重される組織や雰囲気作りも必要だ。

より多様な声を、社内だけでなく社外からも集めるにはどうしたらいいか。我々も日々、試行錯誤している。

その甲斐もあってか、BuzzFeed Japanのユーザー(私たちのコンテンツの会話や行動のきっかけとして「使う」人たちという意味を込めて、私たちは「読者」ではなく「ユーザー」と呼ぶ)の男女比は、ほぼ1:1だ。