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爆速で成長したBuzzFeed Japan創刊編集長を退任します デジタル時代のメディアのあり方を求めて

2015年に日本の第一号社員になってから3年余り。その間、メディアをめぐる状況は激変しました。デジタル時代のメディアの生態系を作り上げるための議論や実践が世界で広がっています。

インターネットメディア「BuzzFeed」日本版として、BuzzFeed Japanがサイトを立ち上げてから3年余り。ニュース&エンターテイメントを記事で、動画で、ソーシャルで拡散させ、日本有数の規模のメディアに育ちました。

私は一人目の社員として立ち上げから関わってきましたが、5月31日に創刊編集長を退任することにしました。この機会にBuzzFeedの日本での成長を振り返りつつ、現在とこれからのメディア状況について考えたいと思います。

ニュースとエンターテイメントを両立させる

BuzzFeed Japanを始めるうえで、編集長として最初の決断は、ニュースとエンターテイメント両部門を同時に立ち上げることでした。

BuzzFeedはもともとエンターテイメントメディアとして、2006年にニューヨークで発足。ソーシャルネットワークの発展と共に、笑える記事や可愛い猫の画像などが爆発的にシェアされて急成長しました。

トランプ大統領とロシアに関するスクープや、フェイクニュース検証、女性やマイノリティの権利などの積極的な報道で名を馳せるニュース部門は、2011年に現在のBuzzFeed News編集長を務めるベン・スミスが加わってからです。

イギリスやブラジルなど、新しい国にオフィスを展開する際もエンタメから始め、読者基盤を作ってからニュース部門を立ち上げてきました。

でも、私は日本ではこれは難しいと考えました。

エンタメはニュースよりも広く読まれ、愛されます。しかし、日本だと、最初にエンタメメディアの印象が根付くと、ニュースを書いても「どうせエンタメでしょ」と言われがち(実際、今もそういう人は多くいます)。

それに日本のメディア業界は人材の流動性が低い(他の業界もだけど、メディアは特に)。エンタメメディアとして有名になると、ニュースメディアの人間は採用しづらくなります。

なので、最初からニュースとエンタメ両方を立ち上げ、新聞など伝統メディアやウェブ系の人をバランスよく採用する計画を立てました。

2016年1月16日、サイトオープン初日のトップ記事は福島第一原発の現場ルポ。そして、BuzzFeed流エンタメ記事や翻訳記事。バランスを考えた結果です。

ネットの話題について本人に話を聞く

「バズフィードいいね」。ネットにそんな書き込みが増えてきたのは、2016年春ごろ。そういう評判につながったのは、例えば、こういう記事でした。

拡散しているツイートに関して、本人に話を聞いて記事にする。BuzzFeedが「ソーシャルニュース」と呼ぶ手法です。

当時、こういったネットの話題に関して、取材をせずにツイートなどを転載し、感想を書くだけのいわゆる「バイラルメディア」が人気でした。

そんな中で「バズフィードは本人にちゃんと話を聞く」と評判になりました。このソーシャルニュースは本格的な「ハードニュース」とエンタメの中間とも言えます。

「これは自分のこと!」と思えるコンテンツ

エンタメ部門でもヒット記事が誕生するようになりました。例えばこれ。

どうやって生きてるの…。 【New!】視力1.5と視力0.01の世界。どれだけ違う? 再現してみた https://t.co/Mp7u9s6otF

視力1.5の人と0.01の人が見ている世界を再現することで、お互いに「自分が見ている世界はこれだ!」と自己紹介ができる記事。BuzzFeedではこういう記事をアイデンティティ系コンテンツと呼びます。

ユーザーが自分ごと化してくれるアイデンティティ系、心を動かすエモーション系、学びがあるナレッジ系など、BuzzFeedが世界で積み上げてきたノウハウですが、日本では最初は滑ってばかりでした。

でも、それはこれらのノウハウが日本で通じないということではなく、日本のユーザーが反応するように表現を調整することが重要だと気づきました。

スクープがBuzzFeedの名前を一気に広げた

BuzzFeedが熱心なネットユーザーだけでなく、より広く注目を集めるようになったのは、スクープがきっかけです。

2016年には不正確な情報や不適切な引用を大量に発信し、急成長した健康情報サイト「WELQ」の問題。その後も、#metooLGBTフェイクニュース検証長時間労働など、これまで日本の新聞やテレビがあまり光を当ててこなかった問題で、独自の取材に基づいた発信を続けました。

「ネットニュースは新聞やテレビの情報をまとめたもの」と言われてきましたが、逆に「BuzzFeedによると」という発信が新聞やテレビでも見られるようになったのは、大きな変化だったと思います。

ネットに不可欠な3つの戦略

新聞記者時代は、記事を書いたらそれで終わりでした。あとはその記事が印刷され、読者の元へ届けられる。しかし、ネットはそうではない。馬に食わせるほどある無数のコンテンツの中で、ユーザーに選んでもらわないといけない。

そこには3つのレイヤーの戦略が必要です。

  • コンテンツ戦略(何を、どうやって作るか)
  • ディストリビューション戦略(誰に、どうやって届けるか)
  • エンゲージメント戦略(ユーザーをどう巻き込むか)

ディストリビューション(配信)一つをとっても、考えるべきことは大量にあります。

TwitterやFacebookやInstagramなどの「ソーシャルプラットフォーム」、ヤフーやスマートニュースやグノシーのような「アグリゲーションプラットフォーム」、YouTubeのような「動画プラットフォーム」、Googleのような「検索プラットフォーム」、TikTokのような「新興プラットフォーム」...。

コンテンツが適切なディストリビューションでそれを望むユーザーのもとに届き、高い評価を得て、ユーザーの行動(エンゲージメント)に繋がる。そこまでデザインする必要があります。

Twitterで発信しているBuzzFeed KawaiiはRTやいいねの数が数千、数万に達します。可愛いもの好きなTwitterユーザーに合わせて、コンテンツ、ディストリビューション、エンゲージメントをデザインしたとても良い例です。

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プラットフォームごとにカルチャーは異なり、エンゲージメントの生まれ方も異なる。しかも、テクノロジーやアルゴリズムが変わればカルチャーも変わる。メディアはそれに柔軟に対応する必要があります。

動画チームの設立と拡大

中でもここ数年、動きが早かったのは動画です。BuzzFeed Japanがローンチした2016年に世界を席巻していたのは、短尺の料理動画。そこから始まり、ニュースやカルチャー番組、ライブ、現場からの中継など、拡大してきました。


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youtube.com

自分らしく生きるタレントのぺえさん(@peex007)とりゅうちぇるさん(@RYUZi33WORLD929 )は、過去に様々な言葉を受けてきました。 2人が前を向くまでのエピソードを明るく、笑いながら語りあってくれました🌈✨

メディアの世界共通の課題は2つ。信頼性と収益性

こうしてBuzzFeed Japanは3年でビジネス部門含めて70人規模にまで成長しました。この間、僕は毎年、世界各地で開かれるメディアや報道に関する国際会議に参加してきました。

そこで語られてきた議題は主に2つに集約されます。信頼性と収益性です。

2016年のアメリカ大統領選で世界的にフェイクニュースが注目されました。問題はデマ情報がネットで急速に拡散されるようになったことだけではなく、新聞やテレビ、ネットなどメディアが発信する情報の信頼度が下がっていることです。

新聞は特に紙の発行部数とともに売上も急減しています。テレビはまだまだ強いですが、若い視聴者層はネットに流れ、安泰とは言えません。

ネットメディアも海外のプラットフォームが独占的な地位を固め、収益が伸び悩んでいます。

特に厳しいのはニュース業界です。

アメリカでは2008年から2017年にかけて新聞の記者や編集者など編集局で働く人員が7万1000人から3万9000人に45%減りました(Pew Research Center調べ)。

同期間に日本の新聞記者は2万1093人から1万9327人に1割減りました(日本新聞協会調べ)。新聞の販売部数や売上減を見ると、日本で記者が本格的に減るのは、これからです。

また、アメリカではBuzzFeedを含め、巨大ネットメディアが次々と生まれていますが、ネットメディアやテレビなど他メディアを含めても編集局で働く人員は同期間に23%減っています。

ネットメディアだけが頑張ってもニュース業界の衰退は止められません。

デジタル時代のメディア生態系が必要

一社だけや、新聞、テレビなどの縦割りされた業界単位だけで何かができる状況ではありません。より大きく、デジタル時代にメディアがきちんと情報発信を続けられる生態系を作るために何が必要かを考える必要があります。

そこで私は今回、BuzzFeed Japan創刊編集長を退任して独立し、より広い分野で活動する道を選びました。

BuzzFeed Japanを「シニアフェロー」としてサポートしつつ、個人として他メディアやその他の組織のデジタル化や、欧米で進む業界横断的なコラボレーションなどに役立ちたいと思っています。

創刊編集長の仕事の傍ら、2年半かけてインターネットメディア協会(JIMA)の設立に参画してきたのも、個別の組織を超えた協力が必要だという考えがあったからでした。

インターネット悲観論を受け止めつつ進む

フェイクやヘイトとともに、インターネットに対する悲観論が広がっています。しかし、誰もが情報を気軽に入手し、発信し、共有できる素晴らしさは今も変わらず、テクノロジーの進化はさらに加速しています。

BuzzFeedの創設者CEOのジョナ・ペレッティは先日、アメリカで開かれたイベント「SXSW」でこう語っていました。

喜びと真実を拡散させよう。
それが、インターネットが必要としていることだ。
それが、世界が必要としていることだ。
私たちはやれる、一緒に

課題は修正しつつ、情報が行き交い、人が交流する場として、インターネットをさらに発展させていく。一緒に。

これが、デジタル時代のメディア生態系を作るために必要だと思っています。