日本はじんわりと滅ぶのか 「超少子化」という死に至る病

    「未来に何を残せるのか。世代間の戦いにしてはならない」

    日本は、死に至る病にかかっている。超少子化だ。このままでは人口は減り、高齢化はさらに進み、社会は破綻する。

    今年2月には「保育園落ちた日本死ね」のブログで、子育て支援のあり方が改めて脚光を浴びた。それから初の国政選挙となる参院選。だが、少子化をめぐる議論は盛り上がっていない。

    恐ろしい数字が目の前にある

    日本の人口を保つのに必要な出生率は「2.07」。しかし、20年以上も「1.5」を下回る超少子化が続く。このままでは2060年に、現在より3割少ない8674万人となる。

    特に、労働力の中核となる15~64歳の人口は4418万人に。一方で、総人口の4割に当たる3464万人が65歳以上となる。超少子化であり、超高齢化だ。

    2月に放送されたNHKスペシャル「私たちのこれから #超少子化 」。専門家からは、いまが最後のチャンスだという「最終通告」まで飛び出した。

    25~39歳の女性人口が2000年の約1300万人から、2030年には約800万人に落ち込むことが予想されているからだ。(NHKスペシャル取材班「超少子化 異次元の処方箋」)

    子供を産みやすい世代の女性が減れば、子供は減る。「最終通告」がなされた所以だ。

    盛り上がらない議論

    それでは、各党はどのような公約を出しているのだろう。

    出生率1.8への回復を掲げる自民党は、保育の受け皿50万人分増、保育士処遇の2%改善、幼児教育の無償化などを掲げている。不足する保育士の処遇改善については、民進党など野党も公約に掲げる。

    「保育園落ちた日本死ね」が社会現象となったことを受けて、保育制度を充実させる施策が目立つが、出生率を劇的に回復させる目玉は見当たらない。

    党首討論などでも、憲法改正や安全保障、アベノミクスなどの議論が優先される。各党が対策をとることである程度一致する少子化対策は、争点として目立たない。

    BuzzFeed Newsは、NHKスペシャルの番組制作を担当した神原一光ディレクターに、各党の施策への印象を聞いた。

    「政策の優先順位が明確ではない。社会保障のためだった消費税引き上げも、先送りになりました。NHKの世論調査でも、財政再建や社会保障への影響について不安を感じる人が72%に上っています」

    22年前に見つかっていた処方箋

    実は、と神原さんは話す。

    「超少子化の処方箋は20年以上前に見つかっているんです。実行できていないだけ」

    神原さんが「処方箋」と呼ぶのは、1994年に文部、厚生、労働、建設の4省が策定した「今後の子育て支援のための施策の基本方向について(エンゼルプラン)」だ。

    NHKスペシャル取材班が出版した「超少子化 異次元の処方箋」に、その内容がまとめられている。

    【少子化の原因と背景】

    • 夫婦や家庭の問題ではなく、国や自治体、企業を巻き込む必要がある。
    • 晩婚化によって若年層の未婚率が増加している。
    • 女性にとって仕事と子育ての両立が容易ではない。
    • わが国の子育てには、心理的・肉体的負担感がある。
    • 教育費など子育てコストの増大も、少子化を招いた原因の一つである。

    【子育て支援のための基本的方向】

    • 育児休業制度の充実や労働時間の短縮など、雇用環境の整備を進める。
    • 核家族の進行に伴った育児の孤立感・不安感を防ぐ。
    • 子育ての不安を取り除けるよう、地域社会と連携して豊かな人間性を育む。
    • 子育てに伴う家計の負担を軽減、社会全体の支援方策を講じる。

    現在にも共通する課題と、その処方箋が網羅されている。ところが、エンゼルプランの策定後も、出産・子育て支援の予算が大きく増えることはなかった。

    なぜ、実行できなかったのか

    「超少子化」の本の中で、ある逸話が紹介されている。元国立社会保障・人口問題研究所長の阿藤誠さんが、当時、ある自治体で子育て支援について講演した際に、首長が血相を変えて怒ったという内容だ。

    「『小さな乳幼児を保育所に預けて、母親がほったらかしにして仕事に行くなど持っての他だ、けしからん』と批判されたんですね。(中略)当時は、子育ては女性がするものという伝統的な価値観がまだまだ根強く、国も、働く女性を支援する政策を恐々と進めていかざるを得なかった」

    当時、厚生省で児童家庭局長を務めていた元・内閣官房副長官の古川貞二郎さんは、少子化対策に関して、「合意形成ができなかった」と証言している。

    男女雇用機会均等法が1985年に制定され、女性の社会進出を後押しする流れが生まれていた。そんな中で出生率を回復させようという政策は、反発が大きかったという。

    「『均等法』が施行されて女性が積極的に社会進出をめざす気運が高まったのに、もう一度家庭に戻れというのか」などという反対意見が、省内の女性からも出たという。

    古川さんはこう振り返っている。

    「子どもを産みたいという人への支援が必要なんだと説得したのだが、当時は『産めよ殖やせよ』という戦時中のいまわしい記憶が、国民の中に根強く残っていたのではないか」

    2000年には介護保険法が施行された。「少子高齢化」とセットで語られる社会問題のうち、優先されたのは、高齢化対策だった。

    滅びゆく日本を救うために

    神原さんは超少子化について、「日本がじんわり滅びている」と表現する。

    番組では2万人の視聴者にアンケートをとった。「少子化対策に新たな負担はありか、なしか」。結果は「あり」が8割だった。

    「それだけの危機感を多くの人が持っている」と、神原さんは話す。

    だが、選挙となるとどうだろう。

    出産や子育てに最も関心がある20代の投票率は50~60代の半分、30代でも3分の2ほどしかない。人口が多く、投票率も高い高齢者に候補者の目線が向くのは自然なことだ。

    朝日新聞が6月に実施した世論調査によると、参院選で投票先を選ぶ際に重視するもので、1番多かったのが「医療・年金などの社会保障」 53%、次に「景気・雇用対策」 45%、3番目が「子育て支援」 33%だった。

    ここでも、「医療・年金(高齢化対策)」>「子育て支援(少子化対策)」だ。

    このまま日本は、死に至る病から回復できないのか。

    今回の参院選から18歳、19歳も投票権を得る。18歳による選挙と注目を集めるが、少子化問題が脚光をあびるためには、子育て世代である20〜30代の動きこそが鍵を握る。

    新たな負担を背負ってでも、少子化対策を実施するべきだと答えた8割の視聴者。神原さんによると、その割合に世代差はなく、どの世代も同じような回答だったという。

    「未来に何を残せるのか。世代間の戦いにせず、国民一人一人の問題として、政治家も有権者も考えないといけない」