「AV観たことがバレると射殺される」アラサー脱北者たちの告白に衝撃が走る

    北朝鮮の人々は世界の現状を知らずに生きていると思ってたけど…。

    アラサー脱北者たちの衝撃的な告白が、ネット上で注目を集めている。

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    今年2月に韓国で公開された映画『チャンマダン世代』。

    男女7人の脱北者が顔と名前を出してリアルな証言をするドキュメンタリー作品だ。

    脱北者たちの悲惨な経験や苦難は、これまであらゆるマスコミを通して報じられてきた。

    しかし、脱北者の世代の変化と共に証言内容が驚くほど変わってきている。

    1990年代、北朝鮮で社会主義経済が破綻し国民たちは深刻な飢餓に陥った。

    人々は生きるために想像力を働かせ、自分たちで経済を動かそうと「チャンマダン(闇市)」を作って取引を始める。

    人々が国内を移動し中国との国境を超える中で、チャンマダンは新しい情報やアイデアを交換する場となった。

    政府の抑圧に耐え、人々は法を犯しながらも内側から国をこじ開け始めた。

    本作では、1980年代半ばから90年代後半に生まれ、チャンマダンを通して海外の文化に触れながら波乱の時代を生き抜いた脱北者たちの本音が見られる。

    その一部、4人の男女の証言を紹介したい。

    「AV観たことがバレると捕まって射殺される」

    1985年生まれのシモンさん。

    違法に中国との間を行き来していた姉が、たびたび中国で海外映画が入ったDVDを持ち帰り家族で作品を観ていた。

    「その映画がめっちゃ面白かったから、本当に信用できる親しい人たちを家に呼んで一緒に観ました」

    北朝鮮では海外作品を観ることは違法行為だが、一緒に観れば誰も告げ口をしない。捕まると酷い目に遭うからだ。

    北朝鮮の若者たちは一緒に違法行為をすることで信頼関係を築き、反骨精神も相まって互いに違法行為をする手助けをしている。

    海外作品を観るときは、家中の鍵をかけてカーテンを締め、留守を装って静かに観た。仲間で集まってこっそり作品を観ている時が楽しい時間だった。

    シモンさんはとある韓国映画にとても大きな影響を受ける。

    その映画の内容は、貧しい父親が家族のために犠牲を払いながら息子を育て、父の姿を見た息子が懸命に勉強して幸せになるというサクセスストーリーだ。

    生まれた時に一生の身分が決まることの多い北朝鮮では「頑張れば道は開ける」という考え方は存在しない。

    その映画を観て、海外にはチャンスがあると気付いた。

    「それから韓国映画やハリウッド映画をたくさん観ました」

    ある日、アダルトビデオを偶然観た。

    そのビデオが入ったUSBを職場に持っていったと言うが、シモンさんは「見つかってたら殺されてた。軽率だった」と後悔している。

    北朝鮮では、セックスをしている映像を観ると捕まって射殺されるからだ。

    「いきなり家宅捜査を始めた監査官に、K-POPのCDが見つかって捕まった」

    2008年に脱北したクムジュさん。

    友人の夫が国境警備兵をしており、その友人から中国で買えるK-POPのCDを手に入れた。

    突然家にやってきて家宅捜査を始めた監査官にCDが見つかり、捕まって大変な目に遭ったと言う。

    「事前通告とかないので、対策は何もできません。引き出しや戸棚を全部漁り回して調べ上げられます」

    その時CDは聴いていなかったが、CDが家の中に存在したというだけで罪に問われた。

    北朝鮮では、家にテレビがあっても国の公式チャンネル以外観てはいけない法律だ。

    しかし若者たちは中国の番組を観られるように設定を変え、中国で放送される韓国の番組を観ている。

    「9歳の時。初めて観た韓国映画が『男の香り』という作品だったのですが、主演俳優が超カッコよくて大ファンになりました」

    学校の休み時間にクラスの女子たちで集まって、その映画の話題で盛り上がった。

    北朝鮮ではラブストーリーや日常生活の映画は観れない。

    国内の番組や映画は全て金政権を支援するために作られているため、国が決めたテーマにそぐわないからだ。

    自分の人生を結びつけて観られる海外のラブストーリーに、釘付けになった。

    「韓国女優のファッションを真似したら、学校で見せしめに髪をバッサリ切られた」

    25歳のダンビさん(左)とセヤさん(右)。

    ダンビさんは、2006年に密輸されたノートパソコンを手に入れ、その頃からパソコンとテレビで海外メディアを観るようになった。

    しょっちゅう停電が起きていたが、作品の続きが気になるとテレビを担いで変電所に行き、夜9時から翌朝8時まで作品を観ていたこともあったそうだ。

    「変電所に行く時は焼酎とスルメも持って行って、警備員に賄賂として渡すんです。結構高いものだから、めっちゃ喜んでましたよ」

    家に帰ると、テレビがなくなっているため盗まれたと勘違いした両親が大騒ぎ。

    兄が「テレビが故障したから修理に出してた」とかばってくれた。

    学校では、海外映画の主演女優の髪型やファッションや口調をマネするのが流行っていた。

    作品名を口に出すと誰かに密告されるため、作品を観た人だけの暗黙の了解になっていた。

    一時期、韓国映画の影響で髪型をマネしたい女子が急増し、密輸されたストレートアイロンやカールアイロンの需要が高まる。

    アイロンの使い方が上手な人の家には「あの女優の髪型を再現して欲しい」と女子たちが列を作り、だいぶ儲かったそうだ。

    セヤさんはある日、ブーツカットにハイヒールという当時では真新しいファッションで学校に行った。

    するとたちまち女子たちの間で話題になる。

    他の生徒たちもセヤさんのファッションをマネし始めると、その様子を見た先生たちに捕まえられ、見せしめに校門で髪の毛と履いていたズボンをバッサリ切られた。

    北朝鮮では、女性は特に差別の対象になる。

    「海外作品を観てて思ったのが、海外の方が女性を尊重している。私たちはオートバイに乗る権利すらありません」

    海外メディアを通して、北朝鮮での女性の地位の低さを思い知った。

    また、こんな事も語っている。

    「表面上は金政権に従ってるフリしてたけど、内心は『なんで?』って感じだった」

    北朝鮮の一般家庭には金日成や金正日の肖像画が飾ってあり、おやつを食べる時ですら感謝を口にしてお辞儀をしなければならない。

    小さい頃からの習慣として続けていたが、内心では「なんでこんな事やってんだろう?」と疑問に思っていたという。

    学校では「韓国は家屋が崩壊していて人々はゴミを漁りながら貧しく暮らしている」と教わるが、韓国ドラマを観ていたので豊かに暮らしていることはわかっている。

    北朝鮮政府への不信感は募るばかりだった。

    北朝鮮の若者たちは自由を求めている。だが北朝鮮に自由はない。

    昔の世代は自由とは何かを知らずに生きていたが、若者たちは海外メディアに触れることで自由を見ながら成長してきた。

    自由を知りながら政府から制圧されているため、自由への願望は昔の世代よりも強い。

    ドキュメンタリーに登場する脱北者たちによると、現在、北朝鮮の9割くらいの人々は、世界から見た自国の現状をわかっているそうだ。

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    ドキュメンタリー映画『チャンマダン世代』は全編こちらからも視聴できる。

    制作したのはアメリカの北朝鮮人権団体リンク。リンクは過去十数年にわたり、約850人の脱北者を韓国や第三国に入国させる活動をしている。