アメリカでペスト感染、「黒死病」は過去の伝染病ではない

    実はアメリカでは毎年、感染者が確認されていた。

    米アイダホ州は6月12日、エルモア郡在住の少年が腺ペストに感染したと発表した。

    14世紀に欧州で人口の半分が命を落としたともいわれるペストは、今もなくなってはいない。アメリカでは毎年、西部や南西部で発生している。

    黒死病とも呼ばれたペストを「歴史の教科書に出てくる過去の伝染病」ととらえている人もいるだろう。だが、現代に至るまでペストは完全に消えてはいない。感染症例は今でも世界各地で報告されている。ただ、感染例は少なく、抗生物質で治療できるため、耳にする機会は多くないかもしれない。

    米疾病対策センター(CDC)によると、ペストの感染事例は毎年1000~2500件で、主な発生地はアフリカ、中央アジア、インド、南米北部となっている。最近では2017年にマダガスカルで流行が起きており、世界保健機関(WHO)によると感染が2417件、死者209人が報告されている。

    アメリカでも、アリゾナ州とニューメキシコ州北部、コロラド州、オレゴン州、ネバダ州を中心にペストの感染が発生している。年間の平均発生件数は7件。2015年には、コロラド州の10代の少年が1週間にわたりインフルエンザに似た症状を示したのち死亡している。

    医療の進歩により、現在は感染の拡大を防げ、命を落とすほど重篤化する前に治療ができる。防護服と鳥のような防護マスクを身につけて黒死病の治療にあたった、中世の「ペスト医師」(左上写真)はもういない。

    ペストはエルシニア・ペスティス(ペスト菌)という細菌によって発生する。ペスト菌は通常、ノミやネズミ(げっ歯類)を介して人に伝播する。

    ペストはペスト菌を保有するげっ歯類に発症する感染症だ。ペスト菌に感染した動物にノミが寄生し、菌を保有するノミが皮膚に咬傷をつくり、人に感染する。そのほか、菌を有する動物との接触や、まれにだが感染した人との接触によっても発症する。ペストには腺ペスト、肺ペスト、敗血症ペストがあり、感染経路はそれぞれによって異なる。

    もっとも一般的な腺ペストは、ペスト菌を持つノミ、または感染した動物を介して感染する。症状は発熱、頭痛、悪寒、腫れ、首・わき下・足の付け根のリンパ節の腫れ、痛み、膿瘍などがある。ペットが感染した場合も、顎下リンパ節の腫れをはじめ、元気消失、食欲低下、発熱などの症状が出る。

    敗血症ペストは血流を介して感染が広がり、発熱、強い倦怠感、腹痛、出血、手足の壊疽が現れる。壊疽により血流が滞り、手足の指先で細胞が壊死、皮膚が黒く変色する。

    もっとも感染性が高く、重篤な症状になりやすいのが肺ペストで、人から人へ伝播する。腺ペストの菌が肺にまわり、二次的に肺ペストを発症する場合もある。インフルエンザに似た症状のほか、血痰を伴う咳や肺炎がみられる。

    現在、ペストには有効なワクチンがないが、早い段階で診断されれば抗生物質と適切な治療で治癒できる。WHOによると 、治療を行わなかった場合の致死率は30~100パーセントに達する。

    現在、ペストを発症するケースは稀ではあるが、ノミやネズミ類との接触を避けることが重要になる。

    日本やアメリカでは差し迫ったペストの脅威はないが、アメリカ西部や南西部をはじめ、感染の可能性がある地域では、特に人とペットが感染しないよう十分注意したい。米CDCでは、家庭や職場のネズミ駆除、ネズミの巣の撤去、野生げっ歯動物との接触を避ける、ネズミの死骸を扱う際の手袋着用、ディート(DEET、ジエチルトルアミド)を含む虫除け剤の使用を勧めている。

    また、ペットについても、薬剤を使ったノミ対策を行い、ペスト発生地域でペットがげっ歯動物に接触するのを防ぐことで、感染のリスクを減らすことができる。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan