「死にたい」と訴える9歳の男の子。彼に寄せられた反応は根拠のない「陰謀説」だった

    偽情報を拡散した人物はのちに謝罪しているが、現在でも陰謀論を説く動画の方が約100倍も多く再生されている。

    Yarraka Bayles / Via Facebook

    2020年2月19日の夕方、オーストラリア・ブリズベン在住のヤラカ・ベイルズさんは、息子クェイデン君が泣いている動画をFacebookに投稿した。

    クェイデン君は9歳。軟骨無形成症のため、同年齢の子どもたちよりも身長が低い。

    投稿された動画は、母親のヤラカさんがクェイデン君を学校に迎えに行ったときのものだ。車の中で取り乱しているクェイデン君が映っている。

    動画の中で、クェイデン君が「今すぐに死にたい」と言っているのが聞き取れる。

    息子に対するいじめの影響を見て欲しい、と母親のヤラカさんは動画の中で訴えている。

    この動画がネット上で話題になり、クェイデン君を支持するコメントが多く寄せられた。

    ところが、「この少年が実は18歳」「詐欺師だ」と話がねじ曲げられるのに、72時間もかからなかった。

    母親のヤラカさんが動画を投稿した翌朝、この話は豪メディアに取り上げられ、続いて各国のメディアでも紹介された。

    著名人もクェイデン君に対する支持をツイートし始めた。

    2月20日の午後、コメディアンのブラッド・ウィリアムズ氏が、クェイデン君のための資金集めのリンクツイートした(同氏も同じく、軟骨無形成症を患っている)。

    「勇敢なクェイデン君とお母さんをディズニーランドに招待するのに、GoFundMeを立ち上げました」

    ウィリアムズ氏は、Twitterで約12万3千名のフォロワーに対し訴えかけた。

    「いじめられた子どもに、彼が愛されていることを示しましょう!」

    この呼びかけは、27万4,700回シェアされ、これにより46万5,716ドル(約5,000万円)が集まった。クェイデン君の家族は受け取りを断り、集まったお金をチャリティーに寄付してもらうことを望んでいる。

    2月21日の午後には、さまざまなSNSで、クェイデン君のことを「詐欺師だ」と根拠もなく言い始めるユーザーが現れた。

    Twitterユーザーの@ZoomerMatthewは、泣いているクェイデン君の写真と、豪紙幣をたくさん手にしている写真を並べてツイートした。

    この投稿は、5,700回リツイートされ、キャプションには「みんな、弄ばれたな」と書いてあった。@ZoomerMatthewは、BuzzFeed Newsからの質問には答えていない。

    225万人近くフォロワーがいる俳優のジェームズ・ウッズ氏が、クェイデン君に対する好意的な投稿をしたところ、同氏のフォロワーのひとりは、少年のアクター・プロフィールのリンクを添え、「一杯食わされたな」と返している。

    FacebookユーザーのD Monarch DeLeon氏は、2か月前に母親のヤラカさんがFacebookに載せた動画を投稿した。

    その動画の中でクェイデン君は、エリザベス女王と豪首相スコット・モリソン氏のことを人種差別主義者と呼んでいる(訳注:クェイデン君は、豪州の先住民アボリジニでもある。政府のアボリジニ政策を批判している可能性が高い)。

    同氏は、Facebookの投稿で次のように書いている。「この動画は、『いじめられた小人の子ども』の母親のFacebookに投稿されていたもの。母親がすべてを隠してしまう前に撮影されたものです。(中略)みんなが騙されたかどうかを判断する追加材料として」

    2月22日未明、クェイデン君が自身のインスタグラムで公開していた写真を使って、奇妙な噂を新たに立て始めた人がいた。

    クェイデン君が実は18歳で、いじめられたのは彼の「演技」という噂だ。

    現在、クェイデン君のInstagramは非公開になっている(削除された可能性もある)。

    Quadoss / Via archive.ph

    アーカイブされたクェイデン君のInstagram(削除された可能性あり)

    Facebookに投稿されたスクリーンショット写真と共に、「あいつはみんなを騙した。18歳だよ」と主張する書き込みがネット上で広まった。

    写真では、高級ブランドのセーターを身につけ、パーティーに参加しているクェイデン君が、「18」と書かれたサインと一緒に写っている(この写真は、実はクェイデン君の従兄の誕生日パーティーで撮られたものだった)。

    @shanonhni / Via Twitter

    この写真はもちろんクェイデン君の年齢の証明にはならない。

    母親のヤラカさんのFacebookの写真を見たら、生後6週間からのクェイデン君の成長が記録されている。複数の豪メディアのインタビューにも、彼の年齢は記載されている。

    「クェイデン君は18歳だ」と主張したユーザーは、「ネット上でこの書き込みを見たから」と、その理由をBuzzFeed Newsに語った。

    ユーザーは、クェイデン君の実際の年齢を知り、投稿を削除した。

    しかし、すでに投稿のスクリーンショットがTwitterにシェアされ、ネット上で広まった。投稿が炎上したため、このユーザーは自身のFacebookのアカウントを削除した。

    「殺すぞと脅迫されたり、私の仕事から個人情報を調べられたりして、身の安全が脅かされました」とこのユーザーはBuzzFeed Newsに対してメッセージで答えている。

    「みんなおかしいので、何か悪いことが私に起きる前に、この偽情報を削除してください」

    アカウントを削除する前に受け取った脅迫メッセージのスクリーンショットを見せてくれた。身の安全が懸念されるため、ユーザーの名前はここでは非公表とする。

    クェイデン君の叔母であるムンダナラ・ベイルズさんは、ネット上の前向きなコメントに目を向けるようにしているが、否定的なものにも気づいている、とBuzzFeed Newsに話している。

    今回の陰謀論の火種となった、「18」のサインの隣に立つクェイデン君の写真。

    ムンダナラさんによると、これは彼女の息子(クェイデン君のいとこ)の18歳の誕生日に撮られたものだ。

    @Quadoss / Via Instagram

    クェイデン君のInstagramからアーカイブされた画像。従兄の18歳の誕生日パーティーに参加しているクェイデン君が写っている。

    この陰謀論は、ネット上で瞬く間に広まった。

    クェイデン君のInstagramは、「詐欺師だ」「大人だ」と非難するコメントで溢れかえった

    ソーシャル分析ツールBuzzSumoによると、クェイデン君に関する動画は今も関心を集めている。SNSで110万回の反応があった動画もあるという。

    YouTubeチャンネル「ErbyGames」(現在、チャンネルは非公開になっている)のアーヴィー・ウオールズ氏は、動画を投稿したことを認め、再生回数は300万回を超えたと話している。

    「高級ブランド、グッチの服を身につけ、お金を見せびらかしている」クェイデン君の写真がInstagramでシェアされているのを見て、動画を作ったという。

    2月22日に同氏は、「クェイデン君は9歳だった」と謝罪動画を投稿したが、この動画は約3万回しか再生されていない。元の動画の100分の1程度だ。

    クェイデン君に関する偽情報は、YouTubeの至るところに残っている。彼のことを検索すると、在来メディアの動画も多いが、SNSでシェアされた閲覧数の多い人気動画、つまり「偽情報」動画へと誘導される。

    クェイデン君関連のYouTube動画のうち、上位にある19の動画は陰謀論に関するもので、作り話を広めている。

    そしてその広まりは、SNSにとどまらない。説得力がある証拠がないにもかかわらず、New York Post紙は、「クェイデン・ベイルズ君:虐められたオーストラリアの少年は、本当に9歳なのか、ネット上で物議」という記事を掲載している。

    クェイデン君の年齢を示す証拠を提示しながら、彼の年齢を疑っているSNSの投稿を4つ紹介している。(Facebookの)投稿分析の機能によると、この記事に対する反応は12万回を超え、コメント数は7万5千件以上になった。

    大手ビデオブログのWorldStarHipHopから、極右のウェブサイトDaily Groyperまでもがこの話を取り上げている。

    中には、「米連邦捜査局(FBI)」がクェイデン君を調べていると、証拠もなしに主張する記事もあった。

    詐欺だという主張はすべて馬鹿げている、と叔母のムンダナラさんは考えている。

    彼女は、ベイルズさん一家と資金集めをしていた人物とは一切関係がないことを指摘している。

    「連絡してきたのは、今までまったく会ったこともないアメリカにいるコメディアンです」

    クェイデン君に関する記事のコメントで、この陰謀論に最初に気づき「Instagramに投稿された暴言をすべて読んで、その日の夜明け前まで起きていた」と、ムンダナラさんは振り返る。

    SNSの利用者が動画を誤解し、さまざまな陰謀論を作り上げたことに、彼女は憤慨している。

    クェイデン君が紙幣を扇状に広げて手にしている動画は、ひとりのツイートがきっかけで750万回も閲覧されているが、チャリティーのために集められたお金だという。

    「暑い日にソールズベリーにあるトタン小屋の中で汗をかきながら、オーストラリアの火事で被害を受けた先住民の人たちのために、募金集めをしたときの写真です」

    「たくさん集まって喜んでいました」

    「こんなのは間違っています。もう1、2回、クリックして調べてくれれば(分かったはずなのに)」とムンダナラさんはBuzzFeed Newsの取材に答えている。

    「本当に疲れます。みんな生活しないといけないんです。仕事もあるんです。子どもも育てないといけないんです。(もう)本件には対応したくありません」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan