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ゾクッとするけど悲しい。今も怪談が生まれ続けている“凄惨で切ない遭難事件”

1300種類以上の東北にまつわる怪異や妖怪を収録した「日本怪異妖怪事典 東北」を紹介。

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都道府県ごとの異様な現象や体験、妖怪などを研究した異色の辞書「日本怪異妖怪事典」(笠間書院)シリーズをご存知だろうか。

ベストセラーとなった「日本現代怪異事典」で知られる朝里樹さんが監修を務め、全国各地の専門家たちがその土地の怪異や妖怪を調べ尽くした一冊だ。

今回はそんな本書の東北版の中から、青森、山形、福島を中心とする怪異や妖怪を担当した寺西政洋さんが最も恐ろしいと感じた話「八甲田山の亡霊」を出張掲載する。

寺西さんはブログサイト「【妖怪図鑑】 新版TYZ」を運営し、「日本現代怪異事典 副読本」では妖怪のイラストを寄稿するなど、イラストレーターとしも活動している。


日本怪異妖怪事典 東北』(笠間書院)

八甲田山の亡霊(はっこうださんのぼうれい)

 明治35年(1902)1月、陸軍第八師団の青森歩兵第五連隊は雪中行軍の最中に八甲田山(青森県青森市)で遭難し、参加者210名中199名が死亡した。遭難事故の凄惨(せいさん)な記憶は深く刻まれ、遭難者の霊にまつわる怪談がいくつも語られた。八甲田山自体も心霊スポット扱いされ、しばしば恐怖や好奇の視線を向けられる。

 明治35年2月の『万朝報(よろずちょうほう)』では「凍死軍隊の幽霊」の題で、無人の第五連隊兵舎の廊下で、足音や「今帰ってきた」という声が聞こえたと報じられている。

 事故後の吹雪の夜、兵営の歩哨(ほしょう)は遠くから「寒い、寒い」「歩調とれ、かしらー右」といった声や大勢の軍靴の音を聞いたともいう。(北彰介(編)『青森県の怪談』)

 遭難事故の知名度を押し上げたのが、新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨(ほうこう)』(昭和46年)と、その映画化作品『八甲田山』(昭和52年)である。新田は取材で青森を訪れ、全身が氷に覆われた兵士が前を通る夢を見たという。新田に資料を提供した小笠原孤酒(おがさわらこしゅ)も遭難死した兵士の夢を何度も見ており、自分のことを正確に書き残してほしいと名を告げられることさえあったと語っている。新田によれば、亡霊の足音が聞こえると騒ぎになった際、ある連隊長が「遭難死した兵士は靖国(やすくに)神社に合祀(ごうし)されることになったのでもう迷うな」と一喝し号令をかけると、足音が遠ざかっていったという。ただし、実際は八甲田山の遭難者は靖国神社に合祀されていない。

『日本怪異妖怪事典 東北』(笠間書院)は、全国の書店やAmazonで好評発売中